閣僚の舌禍は失言ではない
驕る安倍政権の正体そのもの
2019/10/31 日刊ゲンダイ
教育の経済格差を容認する発言で大炎上している萩生田文科相が、ジリジリと追い詰められている。
大学入学共通テストに導入される英語民間検定試験を巡る受験機会の不公平問題について、「身の丈に合わせて頑張ってもらえれば」と上から目線を隠そうとせず、世論の反発にも野党の批判にもシレーッとしたもの。
「受験生に不安を与えかねない説明だった」と詭弁を弄し、形ばかりの謝罪でコトを収めようとしたが、撤回を余儀なくされた。
10月30日の衆院文科委員会では「仮に今の状況より混乱が進むようなら考えなくてはならないという気持ちもある」と来年度実施の見送りをにおわせた。
萩生田発言を受けなくとも、導入延期は当然だ。
全国高等学校長協会は見送りを求め続けているし、文科省のまとめでも活用する大学・短大は6割に過ぎない。
入試で最も大切な公平・公正への懸念が拭えないからだ。
立憲民主党は「経済的な状況や居住地域に左右される」とし、導入を延期する議員立法を衆院に提出。
11月5日の文科委では、全高長などの代表者を招致する参考人質疑も決まった。
■長期政権を支えるスネ傷の面々
なぜ、この内閣ではあり得ないような暴言、妄言が続くのか。
外相から横滑りした河野防衛相の「私は雨男。防衛大臣になってから台風が3つ」も無神経の極みだ。
2001年に閣議決定された大臣規範で閣僚の政治資金パーティーは「大規模開催の自粛」が規定されているのに、800人も集めて大宴会。
それだけでも常識を疑うのに、被災者が日常生活を奪われる中で開催し、台風被害で笑いを取っていた。
野党に追及されて「自衛隊の努力と処遇改善の必要性について申し上げた」と陳謝したが、昼夜を分かたず被災者救援に動く自衛隊にしたって、そんな形で持ち上げられたらいい迷惑だろう。
厚顔無恥にもほどがある。
萩生田は台風15号直撃を無視して強行された内閣改造で初入閣した安倍首相の最側近だ。
第2次安倍政権発足以降、自民党総裁特別補佐に引き上げられ、官房副長官や党幹事長代行を経て文科相に出世。
この間、野党の国会対応を「田舎のプロレス」とクサし、「消費税増税延期論」を言い出し、「有力な方を議長に置いて憲法改正シフトを国会が行っていく」と大島衆院議長の交代に言及した舌禍常連だ。
河野にしても外相時代、日韓関係を「戦後最悪」にこじれさせた当事者のひとり。
韓国最高裁の元徴用工判決を巡って面会した南官杓駐日大使の発言を遮り、「極めて無礼だ」とカメラの前でわざわざ面罵。韓国叩きで支持者の歓心を買う安倍政権に乗っかったのである。
もっとも、これらは閣僚の失言ではない。
それぞれの口から出たとはいえ、7年に迫る長期政権に驕る安倍内閣の正体そのものなのである。
上級国民を作り出し、負け組を見下す欺瞞政治
安倍は第2次政権発足当初から「閣僚全員が復興相」と繰り返しているが、真っ赤なウソだ。
今村雅弘元復興相は3・11の自主避難者を自己責任だと切り捨て、「まだ東北で、地方だったからよかった」とホンネを漏らして事実上更迭。
復興担当だった務台俊介内閣府政務官は岩手県の台風被害視察に長靴を持参せず、職員におぶさってぬかるみを移動。
世論の非難もどこ吹く風で、パーティーで悪びれもせずに「長靴業界はだいぶもうかった」とネタにして辞表を提出させられた。
桜田義孝元五輪相は高橋比奈子衆院議員のパーティーで「復興以上に大事なのが高橋さん」とおちゃらけて辞任。
国民に寄り添う気持ちなんて、これっぽっちも持っちゃいないヤカラばかりだ。
政治ジャーナリストの角谷浩一氏は言う。
「安倍政権の根底にあるのは選民意識と新自由主義です。
政権やその周辺にいる人々は上級国民を自負し、彼らのやり方に反発する人間は競争を勝ち抜けなかった負け組だと見下している。
相次ぐ不祥事に対する批判を弱者のヒガミだとしか受け止めていないのでしょう。
憲法がうたっているように、この国にヒエラルキーはありません。
社会構造上も階層は存在しないのに、安倍政権はあえて上級国民という特権層を作り始めている。
思い上がった政治家は内閣からも自民党からもパージされたものですが、今ではそういう人物こそ地位を得ています。
台風被害を巡る二階幹事長の〈まずまずに収まった〉もトンデモないですが、萩生田文科相の発言は地方格差と経済格差を一緒くたにしたもので、差別意識ムキ出し。
地方創生も経済再生も安倍政権の金看板ですが、欺瞞だと認めたようなものです」
事あるごとに強調される「経済最優先」もマヤカシだ。
景気はダダ下がり。
「個人的な信頼関係」を誇るトランプ米大統領が仕掛けた米中貿易戦争に翻弄され、アジア蔑視丸出しの対韓輸出規制はブーメランのごとく跳ね返ってきている。
経済指標にも失速がアリアリと表れ、アベノミクスはとんと耳にしなくなった。
「女性活躍」だの「1億総活躍」だのと看板を次々に付け替え、その成果とされる「有効求人倍率1倍超え」は少子高齢化による労働人口減少の結果だし、「失業率低下」は非正規雇用の拡大が背景にある。
実質賃金は8カ月連続マイナス。
それがこの国の現実だ。
選民思想とオレ様政権で浮かれる体質、弱者を愚弄しながら1億総活躍などと欺くペテン。
そして、イカれた首相にひれ伏す者が重用される。
安倍のオトモダチであれば国家私物化で滴る甘い汁が分け与えられ、違法行為も捜査当局の忖度によっておとがめナシ。
憲法も教育基本法も理解していなくても、支持者ウケする法改正に手を付けられつつある。
法治国家の超法規的存在としてやりたい放題なのである。
■野党は問責決議案で外堀埋め、不信任決議案を
第4次安倍再改造内閣で辞任1号となった菅原前経産相は公選法違反疑惑が次々に明るみに出て、初入閣を後押しした菅官房長官もかばいきれず、事実上更迭された。
同じく菅プッシュで初入閣した河井法相にも公選法違反疑惑が浮上し、31日朝に辞任した。
しかも、疑惑の中身は妻の河井案里参院議員と夫婦ぐるみである。
案里は7月の参院選で地元の広島県議から鞍替えし、官邸丸抱えで初当選。
その選挙戦で案里陣営がウグイス嬢に法定上限の2倍に当たる日当3万円を払っていた疑いを、発売中の「週刊文春」が報じている。
ちなみに、菅原が選挙区の有権者へのメロンやカニ贈答で火ダルマになっている最中、地元でジャガイモを配っていたともいうから、ふてえ夫婦だ。
「今だけカネだけ自分だけ」を地で行く薄汚い政権の本性がここまで露呈してもなおゴマカせると思ったら、大間違いである。
政治評論家の森田実氏はこう言う。
「安倍政権の驕り、緩みは度し難い。
国民の生命も将来も平然と軽視する。
そんな精神は政治家としてはあってはなりません。
野党は問題大臣の問責決議案を参院に提出し、世論の怒りを一層喚起して外堀を埋め、衆院で不信任決議案を突き付けるべきです。
そうやって自民党全体に揺さぶりをかけなければ、この国のモラルは回復不能なレベルまで崩壊してしまう。
国民を蔑み、差別を助長する政権を許したら日本は危ない。
驕れる者は久しからず、にしなければなりません」
辞任第3号は萩生田か、河野か。
それとも、国会質問流出が進退問題に発展している北村地方創生相か。
暴力団関係者との交際疑惑を抱える「魔の3T」の武田国家公安委員長、竹本IT担当相、田中復興相が続くのか。