2019年11月04日

安倍内閣、説明なき「トップダウン政治」の功罪

安倍内閣、説明なき「トップダウン政治」の功罪
身内で決める政治が覆い隠す政策決定過程
2019/10/28 東洋経済オンライン
薬師寺 克行 : 東洋大学教授

どうも安倍内閣は、重要な政策を何の前触れもなく、突然決めることが好きなようである。
10月18日には国家安全保障会議の4大臣会合で、安倍晋三首相が自衛隊の中東派遣の検討を指示した。
実際に派遣するのかどうかあいまいな話だが、直後の記者会見で菅義偉官房長官がオマーン湾やアラビア海北部の公海などについて具体的に言及していることから、政府内部ではすでに派遣を前提に細かく検討していることがわかる。
つまり「検討指示」であるが、実質的には派遣という結論が先にありきの話のようだ。

自民党は戦後長らくボトムアップ政治だった
それにしてもなぜ、今なのか。
ホルムズ海峡などで散発的にタンカーが何者かに攻撃される事件が起きているが、日本船主協会の関係者は「現地は深刻な状況ではなく、通常の航行をしている」と語っている。
アメリカの強い要求があったのか、それとも何かほかの理由があるのか。

当の防衛省の幹部でさえ「首相官邸が決めれば従うだけです」と当惑している。
突然の政策決定は今回の自衛隊派遣問題だけではない。

7月の韓国に対する輸出規制強化もいきなりの公表だった。
韓国政府の受けた衝撃は大きく、「禁輸措置だ」「日本が貿易戦争を仕掛けてきた」と大騒ぎになり、その余波は今も続いている。

さらにさかのぼれば、2度にわたる消費増税の延期も唐突だった。
権力者の政権運営の手法には、最高権力者とその周りの側近らだけで物事を決めてしまう「トップダウン方式」と、広く与党や国会、官僚組織の議論や検討を踏まえて決めていく「ボトムアップ方式」がある

戦後長く政権を維持してきた自民党の歴代首相の多くは典型的なボトムアップ方式をとっていた。
首相が大きな方針を打ち出し、担当の省庁が具体的な政策案を検討する。
その過程で自民党の部会や政務調査会が開かれ、業界団体などの要求を踏まえた議員の声が反映されていく。
首相の一存だけで物事を決めない、「和」を重視した手法である。

安倍内閣は身内だけで重要な政策を決める
安倍首相のやり方は、こうした伝統的な自民党の政治手法と性格を異にする。
気心の知れた政治家や官僚を首相官邸の主要なポストに就けて、少人数の身内だけで話し合って重要な政策を決めていく
その過程での情報管理も徹底しているため、本来の担当省庁でさえほとんど関与することはない。

今回の自衛隊の中東派遣問題も、防衛省の幹部会で正式に提示されたのは4大臣会合の後であり、多くの幹部が会合後に初めて詳細を知ったという。
一昔前であればこうしたやり方に対して、まず自民党内から「独裁だ」などと強い不満や批判が出ただろう。
しかし、自民党幹部からも部会や政務調査会からも異論や批判はほとんど出なくなった。

かつては野党の役割も大きかったが、小政党に分散してしまった現状では追及に力がない。
政策決定過程や政策の内容について国会の場でいくら問題点を指摘しても、簡単にかわされている。
霞が関は「単なる実施機関」に 霞が関の役割にも変化が起きている。

ボトムアップ方式だと、各省の中堅官僚らが知恵を絞って政策を企画立案し、さまざまなプロセスを経て閣議決定などに持ち込んでいた。
ところが今、政策は上から降りてくる
官僚たちが政策を創るのではなく、単なる実施機関になりつつある
むろん、首相官邸が決めた方針に異論をはさむことなど許されない話である。
こうした構図が「安倍一強」と呼ばれる実態なのだ。

やや性格が異なるが、北方領土問題の交渉方針の大きな転換も少数者による決定であり、それがいつの間にか既成事実化してしまったケースだ。
日本政府の基本方針は「4島返還」だったが、安倍首相は昨年11月のプーチン大統領との会談の場で、「2島返還+α」を提起したとされている。
それは表向き「56年宣言を基礎にして」という言葉に集約されている。
この重要な転換がいつ、だれがどういう理由で決めたのか、そして、その後の交渉がどうなっているのかはまったく不明である。

誰にも文句を言われないで身内だけを相手に相談し、自分の思うように国を動かすことができるトップダウン方式の政策決定は、権力者にとって魅力的であることは言うまでもない。
小泉純一郎首相もトップダウン方式で郵政民営化などを進めた。
ただ、安倍首相の手法とはかなり異なっている。

小泉首相は「自民党を抵抗勢力だ」と批判し、政府内の「経済財政諮問会議」などの公的組織を使って、入念な議論を重ねて政策を形成していった。
何が問題でどういう議論が行われているかという過程は、外部から見ることができた。

これに対し安倍首相の手法は、内閣官房長官、副長官、首相秘書官、首相補佐官、国家安全保障局長ら、極めて限られた人たちだけが関与し、その過程はほとんど明らかにされていない。

安倍政治のプラス面は何か
安倍首相の手法にプラス面があるとすれば、変化の速い内外の情勢に迅速に対応できることだろう。
また異論や批判が表面化しない分、政策遂行力が高まる。
関係省庁や関係団体などの利害調整を最小限にできるため、政策がゆがめられることが少なくなり、合理性が高まるだろう。

これに対し長く続いて生きた自民党的ボトムアップ方式の政策決定は、各省や支持団体などの利害調整に時間がかかり、政策を迅速に決定できなかった。
そして、各方面に配慮した結果、政策がゆがみ、しばしば合理性を欠いた。
何よりも問題なのは、少なからぬ議員が利益誘導に走り、関係者に見返りを要求するなど腐敗の温床になりがちだった点だ。

それでも、安倍首相流のトップダウン方式にはやはり問題点の方が多い
今回の自衛隊派遣指示問題もそうだが、なぜ、いま自衛隊派遣なのか、具体的に何をするのかなど、肝心なことがほとんど説明されないまま、物事が決められていく

政策決定過程の議論がまったく表に出ない
首相官邸の少数の人間だけで政策を決めているため、政策決定過程の議論がまったくと言っていいほど表に出ない
つまり、「密室の決定」になっているのだ
そして公表されるのは都合のいい部分、問題のない部分だけに整理されてしまう。
政策についての詳細な説明もないため、その政策がうまくいったのかどうかの評価もしにくくなっている。
情報を開示すればするほど、さまざまな立場の組織や人たちから異論や批判が出て円滑に政策を決めにくくなる。
ゆえに安倍首相の手法は、政府内の議論はもちろん、与党内の議論も、国会での十分な議論もなされていない。

これは長期政権のなせるわざであり、これまでの日本政治に例のない、どちらかと言えば権威主義的国家に近い形での政策決定となっている。
こうした点はマスコミでしばしば「官邸官僚」「側近政治」などと表現されている。
しかし、こうしたシステムは法律などによって制度化されておらず、非公式な手法によって行われていることが問題であろう。

安倍首相の個人的人間関係が色濃く反映された人事によって、首相官邸に政治家や官僚が集められ、非公式な会議、打ち合わせなどで物事が実質的に決められている

民主主義の基本原則は、多少時間がかかっても多くの人が意見を言い、政治が利害を調整し、合意形成していくことにある。時にそれが不毛な議論であることもある。
しかし、そうした時間と努力を積み重ねて初めて国民が納得する。
そういう観点から見ると、安倍首相の手法は国民の視野に入りにくい、密室的な政治だと言わざるを得ない。
posted by 小だぬき at 00:00| 神奈川 ☁| Comment(2) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする