2019年12月01日

「ターミネーター最新作」が世界中でコケた理由

「ターミネーター最新作」が世界中でコケた理由
過去の名作に頼るハリウッドの悲喜こもごも
2019/11/30 東洋経済オンライン
猿渡 由紀 : L.A.在住映画ジャーナリスト

おそらく、彼はもう戻ってこない。
『ターミネーター/ニュー・フェイト』は、作り手の期待からはほど遠い、新たな運命を決定づけてしまった。

今作は、生みの親であるジェームズ・キャメロンが製作とストーリーを担い、リンダ・ハミルトンが25年ぶりにサラ・コナー役で戻ってくるということで大きな期待が寄せられたシリーズ6作目。
公開初週こそ日米ともに1位を獲得したものの、その数字は予想をはるかに下回るもの。
下落率も激しく、北米では3週目にして早くもトップ10圏外に落ちてしまった。

現在までの世界興収は2億4900万ドル。
製作費はおよそ1億9000万ドルと高額なうえ、世界規模のマーケティング費用がかかっており、収支トントンになるには最低4億8000万ドルの売り上げが必要と見られているが、もはやその数字を達成するのは不可能だ。
これは、評価ではずっと劣るシリーズ5作目『ターミネーター:新起動/ジェニシス』(世界興収4億4000万ドル)の半分強にしかならない成績。

人気を取り戻すためのテコ入れと思われていたのにこの結果とあり、ターミネーターシリーズはもはやこれで打ち切りだろうとささやかれている。

「ターミネーターの敗因」とは?
『ニュー・フェイト』は、表面上は4年ぶりの新作だが、シリーズ3、4、5作をなかったものとし、キャメロンが関わった最後の作品である『ターミネーター2』の直接の続編という位置づけにある。

『ターミネーター2』が公開されたのは、1991年。
どうやらそのタイムラグが、今作の敗因の1つと見てよさそうだ。

まず、28年前に今の若い観客は、まだ誰も生まれていなかった。
つまり、彼らは、今の40代後半以上の人たちのように、劇場で『ターミネーター2』を見て、あの驚くべきテクノロジーやハミルトンの肉体美に感激するということを、体験していないのである。
後にブルーレイなどで観たとしても、当時、映画館で観るのとでは、インパクトが違う。

例えば28年前は、携帯電話すら一般化していなかったのだ。

もはや「新鮮味がない」
ターミネーター そして今では、当時斬新な設定といわれていた「AIの脅威」さえ現実になりつつある。
タイムトラベルのコンセプトも、この28年の間に、さんざんいろんな形で見せられてきて、もはや新鮮味はない(つい最近も『アベンジャーズ』で同じコンセプトが扱われていた)。

さらに、28年前は、中国をはじめとする新興の映画市場が存在しなかった。
新興国の観客は『ターミネーター』を最近の作品、すなわち、あまりよくない作品で知るようになっている。
新3部作の第1部のつもりがコケたせいで次回作の計画が頓挫した『新起動/ジェニシス』を見せられた後に、また新たなターミネーターが来ると聞いて、興奮しろというほうが無理な話だ。

実際、『新起動/ジェニシス』を最悪の事態から救ってくれた中国の観客さえ、『ニュー・フェイト』には見向きもしなかった。

連発される「続編」&「リブート」
同じように、今月は、『シャイニング』(1980年)の続編『ドクター・スリープ』と、16年ぶりにリブートされた『チャーリーズ・エンジェル』が興行成績において撃沈している。
『ドクター・スリープ』が今作られたのは、スティーブン・キングが同名の原作小説を出版したのが2013年だという事情がある。

しかし、『チャーリーズ・エンジェル』を、今わざわざ、しかも10代の女の子たちに向けてリブートしたという判断には首をかしげざるをえない。
そもそも、『チャーリーズ・エンジェル』の元ネタは1970年代のテレビドラマで、思い入れがあるのはその時代を生きた世代だ。
2000年と2003年にはキャメロン・ディアス、ドリュー・バリモア、ルーシー・リュー主演の映画が公開されたが、それも今の10代の子たちにとってはママ世代の映画で、ブランドバリューはまるでない。

また、女性が主役のアクション映画がとても少なかった当時と違い、最近では『ワンダー・ウーマン』や『キャプテン・マーベル』などが人気を博しているため、もはや新鮮味は薄いだろう。
それでも女性のエンパワメントは奨励されるべきだし、このリブート版を、女性監督(エリザベス・バンクス)と、異なる人種の女優3人(クリステン・スチュワート、エラ・バリンズカ、ナオミ・スコット)で作った姿勢は大いに評価したいのだが、ターゲット層がそこまで踏まえて、映画を選ぶとも思えない。

『チャーリーズ・エンジェル』に関しては、持ち出す必要のない昔のヒット作を、欲しいと言ってもいない人たちのために持ち出してきた結果の失敗といえる。

エディ・マーフィ代表作がついに復活
そんな中、パラマウントは、長年、やる、やると言いつつ机の上で転がしてきた『ビバリーヒルズ・コップ4』を、ついにNetflixに任せる決断をした。
『ビバリーヒルズ・コップ』シリーズは、1984年、1987年、1994年に公開。
主演のエディ・マーフィやプロデューサーのジェリー・ブラッカイマーが、劇場公開されないことをどう感じているかはわからないが、やるという約束を破ることなく、自分たちがリスクを負わなくてよくしたのは、パラマウントにとって賢い選択かもしれない。

一方で、もう始動してしまい、自由に身動きが取れない作品もある。
来年1月公開の『バッドボーイズ フォー・ライフ』や、2021年から2027年にかけて2年おきに公開される『アバター』の続編がそれだ。

前者は、17年ぶりに作られるシリーズ3作目。
後者は12年ぶりとなるが、2作目から5作目までの4本をいっぺんに撮影するという、大胆なことをしている。
来年はまた、34年ぶりに『トップガン』続編の公開も控える。

「コケる」「コケない」は神のみぞ知る とはいっても、これらがコケると決まったわけではない。
実際、間が大きくあいても大ヒットした例はある。
その代表は、『スター・ウォーズ』だ。
20億ドルという驚異的な世界興収を達成したエピソード7『フォースの覚醒』は、そのひとつ前のエピソード3の10年後に公開されている。
また、昨年は、『Mr. インクレディブル』の14年後に作られた『インクレディブル・ファミリー』が、前作の倍の世界興収を上げた。
その前の年には、やはりピクサーの『ファインディング・ドリー』が、15年前の前作『ファインディング・ニモ』を上回る成績を打ち立てている。

つまり、絶対的ルールはないということ。
この後、久々の続編が立て続けに当たるようなことだって、十分に起こりえるだろう。
だが、たとえそうなったとしても、慌てて古いタイトルを引っ張りだそうとはしないほうがいい。
せっかく長年愛されてきた映画は、よほどちゃんとした理由がないかぎり、そのままにしておいたほうがいいのではないか。少なくとも、ファンはそう望んでいる。
posted by 小だぬき at 13:00 | 神奈川 ☁ | Comment(2) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

職場の“いじめ”エスカレートさせるのは「同調圧力」

【高論卓説】
職場の“いじめ”エスカレートさせるのは「同調圧力」
2019/11/30  産経新聞
舟木彩乃 ストレス・マネージメント研究者

 “いじめ”といえば、以前は子供の学校でみられた問題であったが、近年は分別のある大人の世界でも起こる問題である。
職場のいじめに関する相談も増えているが、自分が被害者だけでなく加害者にもならないためには、いじめの起こるメカニズムについて知る必要がある。

人がいじめをする心理的背景について、Aさんの事例をもとに考えてみたい。

 ヒトを含めてほとんどの動物には、自分の利益を侵害しようとする他者を攻撃して排除する機能が先天的に備わっている。自分の地位を脅かす者を排除するための攻撃、パーソナルスペースなど自分の領域を守るための攻撃などが、これに該当する。

 私のところにカウンセリングにきたAさん(男性・30代後半)は、某企業の企画営業部長に引き抜かれたが、転職して3カ月ほどで出はなをくじかれた人である。
同部は長らく役員が兼任で部長を務めていたため、B課長(男性・40代前半)が実質的なトップで権力も握っていた。
そのため、いきなり部長で来たAさんは歓迎されず、同部の管理のための情報もなかなかB課長から得られない状態が続いた。
困ったAさんは正式に引き継ぎを申し入れたのだが、それをきっかけにB課長の態度が攻撃的になってしまったそうだ。

 会議でAさんが発言すると露骨に嫌な態度をしたり、「A部長を信用していいのか、でも優秀らしいし、給与も高いからね」などといじったりすることも始まった。
部の他のメンバーも最初は迷っていたが、やがてB課長に同調するようになり、指示しても堂々と無視したり、部員同士で目配せしたりするようにもなった。

Aさんは精神的に追い詰められていったが、いじめで悩んでいることを誰にも相談できなかったそうだ。
このような部員たちの心理には「服従の心理」や「同調圧力」といったメカニズムが背景にある。

 「服従の心理」は、常軌を逸した残虐行動を引き起こすことがあり、心理学者のミルグラムが「アイヒマン実験」(ユダヤ人虐殺実行責任者の名前を借りた実験)でそれを実証している。
実験に募集された市民が、学習者が課題を間違えると電気ショックを与え、かつ間違えるごとに電圧を上げるよう命令された。
すると、ほとんどの市民が、弱っていく学習者に対して「危険・強烈なショック」と書かれたレベルまで電圧を上げ続けたのである。
実はその学習者は弱っていく演技をしていただけだが、服従によって残虐になっていくことを示した実験として有名である。

 「同調圧力」は、「アッシュの線分組み合わせ課題」と呼ばれる実験が有名である。
人間は自分が間違った選択をしていると気付いていても、周りがみなその選択をしていると、自分の答えに自信が持てなくなり、周りに合わせてしまうというものだ。
つまり、「集団への同調」は自分の判断や捉え方にも影響するのである。

 Aさんに対するいじめは、リーダーが言うことは守らざるを得ない、服従しているだけだから責任をとる必要はないという「服従の心理」に、周りに合わせていたほうが安全だという「同調圧力」が加わってエスカレートしたのかもしれない。

いじめが起こっている職場では、誰しも知らないうちに加害者となって人を苦しめていることがある。
いじめに対して自分が傍観者になっていたら、既に加害者になっている可能性があると自覚すべきだろう。  

 ◇  
ふなき・あやの 
ストレス・マネジメント研究者。
メンタルシンクタンク副社長。
筑波大大学院ヒューマン・ケア科学専攻(博士課程)に在籍中。
著書に『「首尾一貫感覚」で心を強くする』(小学館)がある。
千葉県出身。
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 | Comment(2) | 健康・生活・医療 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする