医師と製薬会社社員が「絶対に飲まないクスリ」
2020年01月26日 PRESIDENT Online
病院や診療所で医師から、飲みきれないほどのクスリを処方されることがある。
忘れてはいけないのは、クスリには必ず副作用が伴うこと。
いま飲んでいるクスリは大丈夫か。
クスリに精通する医師や製薬会社社員に「本音」を聞いてみた。
■高くても飲みたいクスリ、自分では飲まないクスリ
これから飲むクスリが効くか効かないか、飲んでみなければわからない。
だが、失敗はしたくない。
そこで、クスリを処方する側の医師、クスリを開発・製造する側の製薬メーカーの関係者に飲みたいクスリ、飲まないクスリについて率直に聞いてみた。
医師や、製薬会社の社員は、仕事柄、本当は飲んでいいクスリ、飲んではいけないクスリを熟知しているのではないだろうか。
現在わが国の保険診療で使われている医療用医薬品はおよそ1万6000品目あるといわれている。
今回は、生活習慣病、がん、感染症、うつ病、骨粗鬆症、認知症、風邪、痛みなどの治療で使われる薬剤を中心にまとめる。
▼降圧薬・血糖降下薬・コレステロール低下薬
■生活習慣で治せる病気に、クスリはいらない
降圧薬には現在、ARB阻害薬、ACE阻害薬など、血管を拡張させて血圧を下げるものが多い。
だが、ただ数値を下げるために副作用のあるクスリを飲み続けるのはよくない。
「日本ではARB阻害薬がよく飲まれていますが、より効果が高く薬価が安いACE阻害薬は、アメリカやヨーロッパでは人気があります」というのは、製薬メーカーの元営業マンのA氏だ。
A氏自身が高血圧でACE阻害薬を服用しているという。
糖尿病で怖いのは、高血糖の状態が続くと、血管が傷つき合併症を引き起こしやすくなること。
脳や心臓の血管で動脈硬化が進むと脳梗塞や心筋梗塞が起きやすくなる。
糖尿病も高血圧も、治療はまず食事療法と運動療法を行い、効果がない場合は薬物療法を行う。
福岡徳洲会病院人工関節・リウマチ外科センター医長の陳維嘉氏は「糖尿病の治療でよく使われているSU薬やグリニド薬などは、食事療法や運動療法がきちんとできないと低血糖になるリスクがあり、生活が不規則な自分が患者なら飲みたくないクスリです」ときっぱりという。
コレステロールは体の細胞膜の主要な材料であり、副腎皮質ホルモンや性ホルモンなどの原料だが、増えすぎると血管壁にたまって動脈硬化が起きやすくなる。
ナビタスクリニック川崎(神奈川)の内科医、谷本哲也氏は「血糖値やコレステロール値が少し高いぐらいであれば、クスリに頼る前にまず生活習慣を見直すべきです。
治療にかかる費用をトレーニングジムに回すなどして、できるだけ運動を」と勧める。
A氏は「病気は自覚症状が強いほどクスリに頼りたくなります。
生活習慣病の多くは自覚症状が乏しく、その結果心筋梗塞や脳梗塞を引き起こしやすくなります」と話す。
クスリに頼らず、文字通り「生活習慣」を変えることを第一に考えるべきだろう。
▼抗がん剤・白血病
■治るクスリの登場で、治療がガラッと変わった
近年、抗がん剤の開発は目覚ましい。
最近では、免疫の反応を強化してがん細胞を攻撃する免疫療法の実用化が進んでいる。
その代表が免疫チェックポイント阻害薬だ。
オプジーボは現在、悪性黒色腫、非小細胞肺がん、腎細胞がんなど、7種類のがんで保険が適用され、さらに適応が広がっている。
A氏は「オプジーボやキイトルーダなどの免疫チェックポイント阻害薬が開発されて、以前なら余命数カ月の患者でも、生存期間が3〜5年延長する時代になりました。
がん克服にさらに一歩近づいた画期的なクスリだと思います」と評価する。
不治の病と恐れられていた白血病の治療も分子標的治療薬のグリベックやイレッサによって大きく変わり、治癒が望める病気になってきた。
谷本氏も「もし私が白血病にかかったら、グリベックを飲むと思います」という。
▼風邪薬・胃腸薬・肝炎
■日本では抗生物質を3〜4割減らすべき
風邪は主に、ライノウイルス、コロナウイルス、RSウイルスなどのウイルス感染により発症し、原因の多くは細菌ではない。
細菌性の病気には抗菌薬(抗生物質)が処方されるが、ウイルスに抗菌薬は全く効果がない。
また、風邪のウイルスに有効なウイルス薬はほとんどない。
しかし、念のために抗菌薬が使われがちで、クスリに対する抵抗性を持った菌(薬剤耐性菌)の出現が世界中で問題になっている。
「日本でも抗菌薬をムダに使いすぎる傾向があり、3〜4割は減らすべきでしょう。
薬剤耐性菌が蔓延すると、以前は治っていた感染症が致命的になる恐れもあります」と、谷本氏は警鐘を鳴らす。
胃腸薬は進化を遂げている。
治療薬としてプロトンポンプ阻害薬(PPI)、H2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)などがよく使われる。
A氏は「H2ブロッカーの登場によって胃潰瘍の手術がほとんどなくなりました」と話す。
ガスターなどが代表的なクスリだ。
C型肝炎も画期的なクスリで治る病気になった。
C型肝炎ウイルスに感染して慢性化すると、やがて肝硬変から肝臓がんへと移行していく。
薬物治療は、DAA内服薬の登場で大きく変わった。
DAAは高価なクスリで薬剤費は100万円単位でかかるが、外資系製薬会社に勤務するB氏は、「適切な治療薬を選択すれば、ほぼ完治するようになりました。
C型肝炎になったら迷わずソバルディやハーボニー配合錠の治療を受けます」と話す。
▼鎮痛剤・骨粗鬆症治療薬
■クスリで痛みを取るほうが、治療が効果的になる
慢性痛は治りにくく、薬物治療も一筋縄ではいかない。
陳氏は、「痛みを我慢することで日常生活に支障が出るので、我慢しないこと。
痛みを我慢して増悪してから鎮痛薬を飲むと効果が薄れます。
痛みが生じたらすぐクスリを使うと効果的」とアドバイスする。
痛みの治療に使われるクスリには、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)、アセトアミノフェン、ステロイド、麻酔薬など、さまざまなものがあるが、「私は鎮痛薬ではロキソニン、ボルタレン、アスピリン、バファリンなどのNSAIDsより、副作用が少ないアセトアミノフェンを処方することが多い」というのが谷本氏の治療方針。
陳氏も「NSAIDsには消化管潰瘍などの副作用があるので要注意です」と話す。
骨粗鬆症の治療でよく使われているビスホスホネートは骨を壊す破骨細胞を抑制する作用がある。
骨は、骨を作る細胞と壊す細胞が常に再生と破壊を繰り返している。
このバランスが崩れて、骨を壊すほうに傾くと骨の強度が低下する。
これが骨粗鬆症だ。
ビスホスホネートについて陳氏は「安価で費用対効果に優れたクスリ」と評価する。
だが、クスリを飲む前に、「普段運動しない人、糖尿病の人、ステロイドを毎日5ミリグラム以上3カ月以上投与されている人は骨粗鬆症の予防が必要です」と注意を促す。
「予防は運動することと、食事やサプリメントなどでビタミンDを摂ること。
骨粗鬆症は生活習慣の改善である程度防げる病気です。
私自身、生活習慣で治せる病気ならクスリは飲みたくありません」。
▼抗うつ薬・認知症治療薬・睡眠薬
■向精神薬は、死ぬまで飲むようになっている
うつ病の治療薬は、三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬、SSRI、SNRI、NaSSAなどがある。
ベスリクリニック(東京)の理事長で産業医の田中伸明氏は、「抗うつ薬など向精神薬の選択基準は効果があって、副作用が少ないこと。
最も重視すべきは服薬を中止しやすいことです」と指摘する。
「SSRIのパキシル、デプロメール、ルボックス、SNRIのサインバルタなどは副作用が強く、服薬を中断すると離脱症状が現れるために、やめるにやめられないクスリです。
生涯にわたって服薬するようになっています。
私は、効果があって、副作用が少なく、離脱しやすいクスリ、SSRIならレクサプロ、ジェイゾロフト、SNRIならイフェクサーなどを処方しています」。
認知症の治療薬には、アリセプト、レミニール、リバスタッチ(イクセロン)、メマリーの4種類があるが、いずれも根本的に治す効果はない。
飲むと攻撃的になるような副作用も見られる。
「認知症に対しては、今も治せるクスリが出ていない」(B氏)。
薬物の依存症で精神科に入院する原因として覚せい剤・危険ドラッグに次いで多いのが抗不安薬・睡眠薬といわれている。
「抗うつ薬と同じく離脱が難しいデパスやエチゾラムは処方せず、依存性の弱いマイスリー、ロゼレム、ベルソムラなどを処方します」(田中氏)。
同クリニックでは、精神疾患の治療に磁気刺激治療(TMS)を行っている。
TMSによる“脳のマッサージ”と薬物を併用した治療を短期間で集中的に行い、急性期を乗り切ったら、脳のトレーニングを始めることで、うつ病や発達障害、PTSDが「クスリに頼らない」で劇的に改善するという。
▼ジェネリック
■製薬会社社員は、ジェネリックを飲まない
医療用医薬品は、新医薬品(先発薬)とジェネリック医薬品(後発薬)に分けられる。
先発薬と同じ有効成分を含み、有効性・安全性が先発薬と同等であるとして国から製造・販売が認められたのがジェネリック医薬品だ。
ただ、有効成分以外にも、製法や製造にも特許があり、これらの特許が切れなければ同じ添加物を用いたり、同じ工程で製造したりすることはできない。
そのため、ジェネリック医薬品は厳密には先発薬とは異なっている。
谷本氏によると、ジェネリック医薬品は製薬メーカーが国内の自社工場で製造するばかりでなく、中国やインドなど海外から原料や製剤を輸入して製造されるケースが増え、工程の不備で発がん性物質が混入し、製品が回収される事態も起こっているという。
「先発薬のメーカーが同じ工場で製造する、オーソライズドジェネリック(AG)と呼ばれる後発薬は比較的信頼性が高いといえそうです」(谷本氏)。
抗てんかん薬、抗がん剤、抗真菌薬以外は自社製品をすべて飲んだというA氏も、ジェネリックには抵抗があるという。
「正直なところジェネリックは避けたいですね。
できれば先発薬が安心です」と本音を明かす。
B氏は「診療報酬ではジェネリックを使用することで保険点数が加算されるようになっています。
それでも製薬メーカーの社員の中にはジェネリック医薬品は絶対に飲まないという人もいます」。
同じ治療薬なら古い薬より新薬を使ってみたいと思うのは医師も患者も同じだろう。
しかし、谷本氏は「新薬は効果の点で期待できても、まれな副作用のデータが少なく値段も高いので、安易に飛びつくのは勧められません。
クスリには、副作用はつきものです。
新薬の発売後、半年から1年ぐらいたって使用経験の情報が集まるまで待つのも1つでしょう」と釘を刺す。
----------
谷本哲也 石川県生まれ。鳥取県育ち。
九州大学医学部卒業。内科医。
探査ジャーナリズムNGO・ワセダクロニクルと医療ガバナンス研究所の共同プロジェクト、「製薬会社と医師」に参加。
著書に『知ってはいけない薬のカラクリ』など。
陳 維嘉 中国・上海市出身。
1997年、九州大学医学部卒業。
2005年、九州大学医学部医学博士。
日本整形外科学会専門医。
現在は、福岡徳洲会病院人工関節・リウマチ外科センター医長。
国際医療支援室室長を務める。
田中伸明 熊本県人吉高校出身。
鹿児島大学医学部卒業。日本神経学会認定医。
厚生労働省、外資系コンサル会社などを経て、現在、心療内科ベスリクリニック理事長。
ビジネスパーソンのメンタル障害の解決に尽力している。
----------