2020年01月29日

社会主義の敗北を認めない日本共産党の空しき抵抗

社会主義の敗北を認めない日本共産党の空しき抵抗
綱領の核心部分を削除、そしてとうとう何もなくなった
2020.1.28(火)JBpress
筆坂 秀世:元参議院議員、政治評論家)

16年ぶりの綱領改定が大きな議題となった日本共産党の第28回党大会が、1月18日に終った。
ただその改定内容は、実に空しいものであった。
「相手がいないのに自分だけで気負い込むこと。実りのない物事に必死で取り組むこと」を「独り相撲をとる」というが、まさしくそれが今回の綱領改定であった。

 日本共産党が戦後の活動の指針としてきたのは、1961年の第8回党大会で決定された「日本共産党綱領」(61年綱領)であった。
その後、ソ連崩壊などさまざまな出来事に応じて、改定を繰り返してきたが、この綱領を大きく変えるものではなかった。  

全面的な改定が行なわれたのが2004年の第23回党大会であった。
今回の党大会では、この綱領(04年綱領)の核心部分を削除するという改定が行われた。
 この3つの綱領の中身を吟味すると日本共産党という政党が、いかに物事を正しく認識しないで、ご都合主義的な現状分析、情勢分析を行ってきたかがよく分かる。

ソ連などの社会主義国を徹底的に美化していた61年綱領
 61年綱領を今読めば、現実とは大きくかけ離れた分析に、多くの共産党員は恥ずかしくなるか、信じがたいものを見たと思うことだろう。
 例えばこの綱領では、「資本主義世界体制は衰退と腐朽の深刻な過程にある」「世界史の発展方向として帝国主義の滅亡と社会主義の勝利は不可避である」などと分析していた。
だがこの数十年、現実に進んできたのは帝国主義(資本主義のこと)の滅亡ではなく、ソ連、東欧諸国など社会主義の滅亡であった。
 また社会主義陣営を「平和と民族独立と社会進歩の勢力」と規定していた。
しかし事実はどうだったか。

ソ連国内では、スターリンによって反対派の粛清、大弾圧が行われ、酷寒のシベリアには数百万人もの農民などが強制収容所に送り込まれ囚人労働に従事させられていたと言われている。
 対外的にも、バルト三国の併合、ナチス・ドイツとのポーランド分割支配まで行ってきた。
スターリンは、ヤルタ会談でルーズベルト米大統領やチャーチル英首相に対して、日本の千島列島などの領有を認めるよう要求した。
これは当時、ソ連も認めるとしていた「領土不拡大」の原則に反するものであった。

 ソ連だけではなく、社会主義陣営で複数政党制や議会制民主主義を採用してきた国は1つもない。
すべてが共産党や労働者党などの一党独裁体制が敷かれてきた。
 中国では、ウイグル民族やチベット民族への弾圧が現在も行われている。
「平和と民族独立と社会進歩の勢力」の正反対の勢力が社会主義陣営だったのだ。

61年綱領の分析は完全に間違っていたということである。

本当の社会主義は失敗していないと弁明
 ソ連や東欧諸国の社会主義体制の終焉によって、世界でも、日本でも「社会主義は敗北した」というのが常識的な見方となった。
だが日本共産党はそれを簡単には認めない。
なんと弁明するのか。
04年綱領には次のようにある。

〈レーニン死後、スターリンをはじめとする歴代指導部は、社会主義の原則を投げ捨てて、対外的には、他民族への侵略と抑圧という覇権主義の道、国内的には、国民から自由と民主主義を奪い、勤労人民を抑圧する官僚主義・専制主義の道を進んだ。
「社会主義」の看板を掲げておこなわれただけに、これらの誤りが世界の平和と社会進歩の運動に与えた否定的影響は、とりわけ重大であった〉
 要するに、社会主義の原則を投げ捨てて間違った道を歩んできた。
だから失敗したのだと言うのだ。

続けて次のように言う。
〈ソ連とそれに従属してきた東ヨーロッパ諸国で1989〜91年に起こった支配体制の崩壊は、社会主義の失敗ではなく、社会主義の道から離れ去った覇権主義と官僚主義・専制主義の破産であった〉
 社会主義の失敗ではなかった。
本当の社会主義は失敗していないと弁明するのである。

 しかし、そうだとすれば、国によって政党名は違うが、マルクス主義を掲げた共産党などの政権政党で道を踏み外さなかったところは、ただの1つもなかったということになる。
“正義の味方”のはずの共産党が、世界では“悪の権化”になっていた。
これではいかにも説得力に欠ける。

 しかも、社会主義は失敗ばかりだったというのでは、共産党を名乗る日本共産党にとっても決して喜ばしいことではない。かつては高らかに声を上げていた社会主義の未来を語れなくなってしまうからである。

社会主義の敗北を認めないための04年綱領
 そこで04年の綱領改定で挿入されたのが、前段の2つの規定である。
 まず1つ目は次のように書かれている。
〈今日、重要なことは、資本主義から離脱したいくつかの国ぐにで、政治上・経済上の未解決の問題を残しながらも、「市場経済を通じて社会主義へ」という取り組みなど、社会主義をめざす新しい探究が開始され、人口が13億を超える大きな地域での発展として、21世紀の世界史の重要な流れの1つとなろうとしていることである〉

 中国、ベトナム、キューバの取り組みが、「世界史の重要な流れ」だということだ。
ソ連、東欧は駄目だったが、これらの国々が社会主義の優位性を示していくだろうというのだ。
楽観的としか言いようがないが、藁にもすがる思いだったのだろう。

 だが現在の中国を見て、社会主義を目指す国などと思ってきたのはおそらく日本共産党だけだろう。
誰もが共産党一党独裁の覇権主義国家であり、国際法を無視する軍事大国と見てきたはずだ。
「政治上の未解決」などと簡単に言っているが、自由も、民主主義も、人権も抑圧された社会と見てきた。
だから香港での市民の戦いがあり、台湾の総統選挙でも「中国共産党にノー」の審判が下されたのだ。  

さらにまだある、というので、次の一文も挿入された。
〈21世紀の世界は、発達した資本主義諸国での経済的・政治的矛盾と人民の運動のなかからも、資本主義から離脱した国ぐにでの社会主義への独自の道を探究する努力のなかからも、政治的独立をかちとりながら資本主義の枠内では経済的発展の前途を開きえないでいるアジア・中東・アフリカ・ラテンアメリカの広範な国ぐにの人民の運動のなかからも、資本主義を乗り越えて新しい社会をめざす流れが成長し発展することを、大きな時代的特徴としている〉

 延々と書いてあるが、南米ベネズエラでのチャベス政権の誕生を指している。
チャベス政権は、みずから「新しい社会主義」を掲げていたからだ。
これを「大きな時代的特徴」とまで持ち上げてしまったのである。
 だが石油価格が下落するとベネズエラ経済は大失速し、国民の暮らしは大変な事態に追い込まれている。
チャベスの後継者となったマドゥロ政権のもとでも市民の反政府デモを暴力的に鎮圧し、多数の死者を出している。
ここでも評価を完全に誤ってしまったのだ。

自慢の「科学の目」は間違ってばかり
 04年綱領策定の中心を担ったのは、当時の不破哲三中央委員会議長である。
この人の造語に「科学の目」というのがある。
物事を正しく認識するには、科学的に物事を見なければならないという意味である。
04年綱領の前段の2つの規定は、その面目躍如というべきものだろう。

 ところが今回の綱領改定では、この04年綱領の売り物だった規定が、2つとも全文削除ということになった。
この規定が間違っていたからだ。
これが自慢の「科学の目」なのである。

 かつては、“地球上の半分の人びとが社会主義の下で暮らしている。
この地球は、資本主義から社会主義へ発展している。
これは歴史的必然である”と言っていた。
だが党大会での志位和夫委員長の発言によると、キューバもベネズエラのマドゥロ政権を支援しているので駄目だそうで、残るはベトナムだけとなってしまった。

社会主義は、この地球上からほぼ消えてしまったことを証明したのが、今回の党大会だったのだ。
 まあ、どっちにしても3つの綱領が社会や日本の政治に大きな影響を与えたわけではない。
日本共産党がその内部で勝手に“ああでもない、こうでもない”と独り相撲をとっていただけだ。
遊びの世界なのである。
だがその無責任さには呆れるしかない。
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☔ | Comment(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする