進む”警察国家化”と監視社会化。
過剰な警備やヤジ排除という異常事態
<佐高信×木村真>
2/10(月) ハーバー・ビジネス・オンライン
関西生コンへの弾圧事件をめぐる、ジャーナリストの佐高信さんと大阪府豊中市の木村真市議の対談。
これまで関西生コンが狙い撃ちにされる理由や日本の労働運動への分析が展開されてきたが、今回はさらに日本社会の”警察国家化”の進行に話が及んだ。
麻生邸見学ツアーで体感した「警察国家」
――関生への弾圧や労働組合の衰退、働く人たちの運動への無理解……佐高さんは、こうした事柄の背景に「警察国家」への変質があるとお考えなんですね。
佐高:
麻生太郎が首相になったことで、警察国家化に弾みがついたと思う。
麻生太郎が首相の時、初めて漆間巌(うるまいわお)という警察官僚を内閣官房副長官に起用しちゃったんですよ。
それで、2008年9月に「麻生邸見学ツアー」がありました。
活動家で作家の雨宮処凛と「素人の乱」の松本哉たちが企画して、麻生太郎の私邸を見に行こうって。
あれで三人捕まっちゃうんですよ。
で、雨宮はリベンジツアーやるっていうの。
「佐高さん来てくれ」って言われて、「俺に言うなよ」って思ったんだけどね(笑)
12月に二回目の「麻生邸見学ツアー」を開催したんだよ。
一回目で、何にもしていないのに三人捕まってんだから、捕まるのを覚悟で行きましたよ。
それで渋谷のハチ公前に集まったら、参加者は企画側含めて30人もいない、20人ちょっと。
それを取り巻く新聞記者が40人くらいいた。
で、その後ろに警察が100人以上いるっていう(笑)
結局、そのときは雨宮たち若い人が冷静でね、「これは麻生邸に行ったら捕まる」ということで中止にしてしまったんだよ。
そしたら一番怒ったのが鎌田慧とその上の世代の人たち。
彼らは、突撃すべきだと言うんだよ(笑)
その後喫茶店に流れてもまだワーワー言ってて、俺らは半分冗談に「いいよ、年齢順に捕まるならそれでもいいよ」って言ってたんだ(笑)
でもたかが20数人で麻生邸を見学しに行くだけなのに、警察が100人以上くる必要は全くないわけじゃない。
ものすごい警察国家になっているんだと思ったよ。
麻生太郎が首相になってから、本人が命じたかどうかはわからないけれど、でもその警察官僚は張り切るって過剰な警備をするわけだよね。
安倍が首相になってからは更に張り切ってる。
次々と信じられないようなことが起こっている。
進む警察国家化と治安維持のテクノロジー
木村:
麻生首相のときだからもう10年前のことですよね。
ただやっぱり肌感覚としては、安倍首相になってから加速してるっていう感じはやっぱりあって。
もちろん警察国家化を志向するっていうこと自体はもうかなり古くからある動きですよね。
共謀罪法制だってやっと2017年に成立したけど、3回目か4回目か、もう何回も頓挫して、前からずっと画策していて、ついに押し切ったということですよね。
いわゆる国民総背番号制みたいなものも同じ流れですよね。
今だったらマイナンバー、元々は住基ネットの時もそういうものとして構想していたわけです。
今だったらそれこそ顔認証のように、いろんな個人を特定する技術みたいなものができてきている。
それこそ東京オリンピックの警備のイメージ図を見たら、ゴーグル型のモニターみたいなものにカメラが付いている。
例えばマラソンの沿道に無数の人が並んでいるところでそのモニターが危険な人がいないか探知する。
結局顔認証って、メーカーのホームページを見てみると、99.9%の精度と書いてあるんですね。
本来、99.9%なんてのは商業的にはもう全然使い物にならないんですよ。
99.9%だったら、1000件に1件は間違うってことですから。
大阪の地下鉄の梅田駅なんかだと一日に40〜50万人が利用するので、毎日400件も500件も誤作動するってことになる。
これではとても使い物にならないけれど、治安対策にはそれで十分なんですよね。
要するに本当にその人であろうがなかろうが、怪しい奴はとりあえず排除するっていうことなんです。
そういう類の技術はイスラエルなんかだともっと進んでいますよね。
とにかく本当に危ない人を見逃してしまうよりも、違うかもしれないけどとりあえず拘束しておくという発想なんです。
佐高:
住基ネットは、櫻井よしこと私が一緒に反対したんですよね。
櫻井よしこでさえ危険だと言った住基ネットが、もう完全に通っちゃたっていうね。
あの時、櫻井よしこから電話がが掛かってきてね。
「佐高さんと私が一緒に反対することに意義があると思うんですよ」って三回くらい言われて、最初は迷っていたんだけど、仕方がなく銀座で反対したりしてね。
体感治安の悪化
――監視社会化に対し、一部の人々は反対を表明してきたと思いますが、多くの人は無関心であったり、それを受け入れてしまったりしていますね。
木村:
それは一般的な意識としてはね、恐らく治安が悪化しているように感じられるからでしょう。
もう刑法犯罪の件数なんて減り続けてるわけだし、少年犯罪ももう戦後最小レベルになっている。
凶悪犯罪も最小レベルでね、本当は治安が良くなっているわけです。
それなのに行政やテレビのコメンテーターは「治安が悪化している」と言い続けてきた。
最近では「体感治安」なんて言葉を生み出して、「犯罪の件数が減っても、やっぱり不安でしょう」と煽っている。
そうしたなかで防犯カメラなんかがどんどん受け入れられていってしまう。
議会では、共産党の議員ですら反対せず、僕一人だけが反対しているようなときもありました。
でもこれは放火魔が火事場泥棒を働いているようなものですよ。
ありもしない不安を煽り立てておいて、「不安でしょ?はい、監視カメラつけましょう」ってね。
一般の人も、監視されていると感じて気持ち悪がったりするよりは、むしろ監視カメラがあった方が安心するというんですね。
市民からはむしろ設置してほしいという要望がたくさん来るんですよ。
さっきの警察国家化の話に戻るけれども、やっぱりこの関生の弾圧が一昨年からずっとあって、あいちトリエンナーレの一件があって、参議院選挙のときには札幌で「安倍辞めろ」と野次った人が一瞬で警察に連れ去られた。
昔から権力が警察国家化・監視国家化をやりたがるというところはあるんですけれども、この数年で今までと違う段階に入ってしまったと感じています。
<収録・構成/HBO編集部>