2020年02月20日

新型肺炎、日本の危機管理に「足りないもの」を専門家らが指摘

新型肺炎、日本の危機管理に「足りないもの」を専門家らが指摘
2/19(水) 現代ビジネス

松村 むつみ(放射線科医、医療ライター)

 新型コロナウイルス肺炎で、国内でも13日、ついに死者が出た。
その後も都内や名古屋市で感染例が相次いでいるが、いずれも感染経路が不明な状態だ。
16日に政府が行った第一回新型コロナウイルス感染症対策専門家会議では、「国内発生早期」の段階ではあるが、「国内感染の状況が進行する可能性」が示されている。

 そんななか、政府の対応に関して懐疑的な人も多く、「初期対応がまずかったのでは」という声も上がっている。
日本の対応は実際にまずいのか、海外の事例に詳しい専門家2人に話を聞いた。

武漢からの帰国者への対応はどうだったのか
 パリ在住でフランスの医療政策に詳しい、日本医師会総合政策研究機構 フランス駐在研究員の奥田七峰子氏は、「日本政府が迅速にチャーター便を出して自国民を出国させ、フランス同様病院近くのリゾートホテルに隔離したのは評価できるのではないでしょうか」と言う。
 ヨーロッパではじめてコロナウイルス感染が確認されたフランスでは、報道の混乱が一部で見られたものの、医療機関のプレス対応も混乱することなくきわめて落ち着いていたという。

奥田氏はさらに続ける。  
「1月25日、パリで2名、ボルドーで1名、新型コロナ・ウィルス陽性の患者が入院しました。
いずれもSAMU( 日本における三次救急に特化した救急システム)とSOSメデゥサン(民間の往診ドクターサービス)の迅速な連携で救急外来も通らず感染症病室(陰圧室)に即入院しました。
3人とも症状が軽く、検疫・隔離のための入院でした。
 フランス政府は、<武漢に行った、または行った人と接触して風邪症状のある方は、病院には来ないで下さい、かかりつけ医に行かないで下さい、SAMUに電話して指示に従って下さい>とアナウンスしました」

 フランスと日本の初期対応はよく似ているが、チャーター便で帰国後の対応は一部異なっている。  
「武漢からのチャーター便での帰国者は、チャーター機から降りると直接バスで隔離施設(南仏のバカンス村)に運ばれ、2週間隔離されました。
その後、8人の陽性患者が発見され、合計11名になっています。
いずれの患者も、中国と直接関係のある人からの感染です。
15日現在、80歳代の中国人旅行者の死亡が確認された以外は、全員軽症で、退院したり、検疫期間が終わった人もいます」

 日本ではチャーター機の第一便の帰国者の一部を検査が陰性だということで自宅に帰し、後に発症がわかったケースもあり、詰めの甘さがあるのは否めない。
フランスはすべての帰国者を隔離施設に2週間隔離しており、施設内での二次感染も報告されていない。

国民のマスクに対する認識にも差
 また、奥田氏によると、日本とは異なり、パリではマスクをしている人は少なく、マスクをつけることは感染者ではないかとかえって疑われる行為なのだという。
マスク単独での予防効果のエビデンスはなく、むしろマスクは、感染をしている人が周囲への感染をおさえるためにするものであるので、フランスの人々の認識のほうが適切かもしれない。
 フランスでは、基本を押さえた組織的対応が、過剰にならず、冷静になされているといえる。
 ただ、「流行の中心はアジアです。
日本とフランスとでは、中国との地理的関係やチャーター便で帰国した感染者数にもそもそもの違いがあり、単純に比較をして、『フランスの対応が日本よりも優れている』と言うことはできません。
あくまで、事実を正確に理解するのが大切です」と、奥田氏は付け加えた。

〔PHOTO〕gettyimages 感染症対策の専門機関が必要
 フランスと比べると対応にやや甘さが見える日本。
新型コロナウイルス肺炎ではないかと症状を訴える人に対する国や自治体の対応の方針も一貫性に欠ける部分があり、その都度会議が開かれるものの、専門家との連携も十分とはいえず、「場当たり的」な対応になってしまっている。
これまで、医師が「検査が必要」と判断した人に対し保健所が検査を断る、などの小さな混乱も生じている。
 また、クルーズ船の中で感染者数が増え続けていることについて、当初は検疫前に感染していた人々とみなされていたが、検疫官や事務職員の感染が明らかとなり、マスク着用や手指消毒のルールが遵守されていなかったことから、検疫後も二次感染が続いていた可能性が示唆されている。

 専門家の間では、専門機関の不在が「場当たり的」対応の原因になっているのではないかという見方がある。
「CDCがないので、日本では感染症に対する系統的な対応ができにくくなっています」と語るのは、神戸大学病院感染症内科の岩田健太郎教授だ。
 CDC(Centers for Disease Control and Prevention:疾病管理予防センター)とは、アメリカで1946年に設立された、国民の健康と安全の保護を主導する立場にある連邦機関だ。
感染症においても、専門的に調査・対策を担っている。
アメリカでは、専門家集団が独立性を保ちつつ官民との緊密な連携を構築し、感染症対策に当たることが可能になっている。

 ヨーロッパでも、EUの機関として2005年に設立されており(ヨーロッパのCDCは、感染症の調査や解析を行っているが、対応は基本的に各国に任されている)、中国や韓国にもCDCは存在する。
日本では、厚生労働省と国立感染症研究所がCDCに相当する業務を行っているが、独立性が十分ではなく、組織化されているとは言いがたい。

 「自治体や省庁においても、専門家とは言えない人々が対応する仕組みになっているので、バックグラウンドへの洞察が足りず、継続的な政策をするのは困難です。
 今後の対応としては、国内でも武漢のような局所的大流行が起こったときに、都市を遮断するのかを決定する覚悟が必要でしょう。
オリンピックをどうするか、学校やビジネスをどうするかもあわせて考えていく必要があります」(岩田教授)

「クルーズ船はCOVID-19製造機」
 また、岩田教授は2月18日に二次感染が疑われるクルーズ船に実際に乗船しており、その内部の惨状についてYouTubeで、もはや「COVID-19(新型コロナウイルス)製造機」であると指摘している。
 本来、ウイルスがある危険なレッドゾーンとそうでないグリーンゾーンに区分けして、レッドゾーン内でのみ防護服やマスクに身を包むべきところ、それがぐちゃぐちゃになっており、どこにウイルスがあるのか、どこが危険でどこか安全なのかがまったくわからず、いつ誰が感染してもおかしくない状態になっていた、という。

 岩田先生は、「この仕事を20年以上やってきて、エボラ出血熱やSARSなどいろいろな現場に立ち向かってきたが、自分が感染症にかかる恐怖を感じことがなかった。
でも、クルーズ船は悲惨な状態で、心の底から怖いと感じた」と動画内で語っている。
 また、現場に常駐している感染症対策の専門家が一人もおらず、たまに訪れる専門家がアドバイスしようとしても、厚生労働省の官僚がそれを聞き入れない状況にあるという。
 こうした対応の不備を見ても、日本において感染症の専門機関の設立や組織的対応の充実が急務である。

 クルーズ船の乗客は陰性だった人から2月19日から21日頃にかけて順次下船し、陽性で症状のない人は愛知県岡崎市にある藤田保健衛生大学の未開院の病院で経過観察がなされる運びになっている。
下船した乗客からの二次感染が起こらないよう、一刻も早く対策を講じる必要がある。

 最後に改めて、感染を防ぐために私たち一人ひとりができることについてお知らせしたい。
大切なのは、事実を知り、冷静にリスクを判断すること
マスクの買い占めや、「症状がなくても検査をしてほしい」と保健所に電話をするような行為は避けよう。
そして、石鹸による頻回な手洗い、手指のアルコール消毒、十分な栄養と睡眠をとるなどの基本的生活習慣が何より重要だ。

 こうした基本に加え、以下の対応も推奨される。  
1. リモートワークをする
2. 風邪症状のある人は無理に出社しないでなるべく休む
3. 不要な人混みへの外出は避ける
4. 集会・会合はできるだけ行わず、可能なら延期を
5. 高齢者施設や病院にはできるだけ行かない  

発熱などの風邪の症状が見られるときは、厚生労働省が2月17日発表した「新型コロナウイルスの相談・受診の目安」を参考にしてほしい。
こちらにも記されているが、感染が疑われる場合はすぐに病院に行かず、まず「帰国者・接触者相談センター」に相談するようにしよう。
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☁ | Comment(2) | 健康・生活・医療 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする