2020年04月04日

政治家よ、あなた方はどこまで他人事なのか

政治家よ、あなた方はどこまで他人事なのか
東京都医師会長「まず医療現場を見に来い!」
2020/04/03 東洋経済オンライン
辰濃 哲郎 : ノンフィクション作家

東京における新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。
若者らの飲み会やカラオケ、中高年のクラブやキャバクラ通いなどによる集団感染が広がるなか、医療の現場では未知のウイルスとの厳しい闘いが始まっている。

パニック寸前で踏みとどまる医療現場の窮状を知る東京都医師会の尾崎治夫会長は、いつまでも緊急事態を宣言しない国の姿勢に怒りをぶちまける。
「国会に閉じこもっていないで、現場を見に来い!」。
この国難に都民の命を守る医療体制維持のために奔走する医師のトップの動きを追うと、感染爆発を目前にした医療の窮状が見えてくる。

尾崎会長がFacebookに投稿をアップしたのは3月26日の深夜だった。
スマホでつづった「東京都医師会長から都民の方にお願い」と題した文章には、ロボット犬の「アイボ」が撮った自分の写真を添えた。
会長室にあるアイボの前にしゃがみ込み、赤いボールを手に笑みを浮かべた写真だ。

投稿は「平和ですね。でもこうした平和が、あと2、3週間で崩壊するかもしれません」との文言で始まる。

若い方々、もう少し我慢してください
東京での感染者の急激な増加に危機感を抱き、「今が踏ん張りどころなのです」と語りかける相手は若い世代だ。
アクティブに行動する彼らに向けて「もう飽きちゃった。どこでも行っちゃうぞ…。もう少し我慢して下さい。
(中略)密集、密閉、密接のところには絶対行かない様、約束して下さい。
お願いします。
私たちも、患者さんを救うために頑張ります」

東京都医師会長という、お堅い職にしては型破りな投稿にメディアも注目しネットニュースやテレビで取り上げられた。
ふだんのFacebookでは、ほとんど医師会の話には触れないが、「政府も政治家の動きも鈍いなか、命を預かる立場として声を上げなければならないという切実な思いだった」と振り返る。

つい2週間ほど前の3月中旬、東京と同じように小康状態を保っていたイタリアやスペイン、それにアメリカ・ニューヨークの感染者数が、瞬く間に何倍にも膨れ上がって医療崩壊につながっていった。
やがて日本にも押し寄せてくる覚悟は決めている。
だが、通勤時間帯は相変わらずの人混みで、小池百合子都知事の外出自粛要請にもかかわらず、街は若者で賑わい、海外旅行に出かける学生も少なくない。
彼らだけを責めるわけではないが、ひとたび感染者が上向けば指数関数的に増えていくのは海外の例から予想できる。
でも、それからでは遅いのだ。

新規の感染者数を抑えるためには、時に政府の強権発動も必要だと尾崎会長は考えている。
新型インフルエンザ等特別措置法に基づく緊急事態宣言もそのひとつだ。
宣言されれば若者も銀座のクラブ通いの中高年も自粛せざるをえないだろう。
だが、その宣言も、まだない。
こうなったら、医療人である自分が呼びかけるしかない。
そういう思いがFacebookへの投稿につながった。

医療体制の備えを進めることも東京都医師会長に課せられた大切な仕事のひとつだ。
感染者が増えていくにつれて、すでに病床に余裕がなくなってきている。
感染症の指定病院が重篤・重症の患者の治療に専念できるように、公立・一般病院にも病床を空けてもらう必要がある。
空き病床の確保は難航 だが、それは簡単なことではなかった。
だれしも新型コロナウイルス感染者を受け入れることには難色を示す。
感染すれば重症化するリスクを抱えた他科の患者がいるし、医療従事者が感染すれば、病院全体が機能不全に陥る
空き病床を確保することは難航している。

さらに問題なのは、無症状や軽症の感染者の扱いだ。
無症状でも感染が確認されれば、感染症法に基づいて入院隔離しなければならない。
こういった無症状の感染者で病床がいっぱいになれば、重症や重篤な感染者を入院させることができなくなり、ひいては治療に支障をきたすことにつながる。

東京都医師会は都と協力して、無症状の感染者を病院ではない宿泊施設へ移すためのスキームを検討している。
例えばオリンピックの選手村やホテルを借り上げて、そこで「隔離」する。
無症状でも病態が急変するため、地域の保健所に詰めた医師会の会員である医師が、オンラインで異常がないかをチェックする。
容体が悪化すれば、防護服を着て往診して、転院させるなど症状を見極める。
こんなプランだ。

尾崎会長が、いま最も心を痛めているのは、まだ感染爆発していない現在でも、医療現場では試行錯誤の闘いが始まっていることだ。
救急医療の現場には、患者が日常的に搬送されてくる。
例えば心不全の患者が運ばれてきたとしよう。
呼吸を助けるために気管内挿管するが、この患者が新型コロナウイルスに感染していれば、医師も周囲の医療従事者も感染してしまう。
着脱の手間がかかる防護服を着ていては、治療の効率が悪くなる。
でも、感染してしまったら、医師や看護師という貴重な戦力を失うことになり、やがて病院は機能不全に陥る。
救急現場は、そういったコロナウイルス対応でパニックに陥り、疲弊しきっているという声が、尾崎会長の元にも届いている

尾崎会長自身、午前中は東京都東久留米市にある内科循環器科クリニックで診療を続けているが、「緊張の連続だ」と打ち明ける。
インフルエンザなら症状からほぼ断言できるが、新型コロナウイルスは見分けがつかない。
気づいたら待合室で感染の疑いがある患者がずっと順番を待っていたこともある。
もし自分の診療所から感染者が出れば、さらに感染を広めてしまうし、診療所も2週間は閉めざるをえない。
自分も感染のリスクを背負うことになる。
都内の医療機関は病院も診療所も、緊張の連続という状況にさらされているのに、政府の反応は鈍いように思える。

理解を示してくれる政治家はむしろ少数
医療体制を築くにも、都民に危機感を持ってもらうためにも、緊急事態宣言は必要だと尾崎会長は考えている。
だが、現場の窮状を説明しても、理解を示してくれる政治家は、むしろ少数だ。
「これ以上経済が落ち込むことは避けたい」と何度言われたことか。

安倍晋三首相は3月28日の記者会見で「まだギリギリ持ちこたえている」と表現し、菅義偉官房長官も「現状ではまだ緊急事態宣言が必要な状態ではない」と否定した。
新型コロナウイルス対策の担当になった西村康稔経済再生相も緊急事態宣言には否定的だ。

東京都医師会の会長室でインタビューをしていた尾崎会長の声のトーンが上がってきたのは、この話に及んだときだ。
「確かに経済は大切だ。
でも、感染症に打ち勝たなかったら経済は成り立たないでしょ。
経済のために宣言できないとしたら、悲しいことだよ」。

そして、語気を強めてこう言い放った。
「現場からは、もう無理だ。何とかしてくれ、という声が上がってきている。
こんなんじゃ、患者を救えないでしょ。
緊急事態じゃないって言うなら、国会のなかで閉じこもっていないで現場を見に来いって言いたいよ!」

尾崎会長は、30日早朝の午前7時過ぎ、日本医師会の横倉義武会長にFacebookのメッセージ機能を使ってメールを送った。 「一両日中に、緊急事態宣言を出すよう政府に進言してください。
私は猶予はないと思います。
マイルドな自粛要請では、もう無理です。
(東京都)知事には今日電話して早めの日本型ロックダウン(都市封鎖)を改めて要請しました」

すぐに横倉会長から応答があった。
「検討してみます」
その日の午後、日本医師会の釜萢敏常任理事が臨時に開いた記者会見で、緊急事態宣言についてこう述べた。
「個人的には(宣言を)出していただいて、それに基づいて対応する時期ではないかと思う」

東京の感染者は日を追うごとに膨れ上がっている
これに続いて4月1日に定例会見に臨んだ横倉会長は、病床数が不足しつつある東京の現状を踏まえて「医療危機的状況宣言」を出すと同時に、緊急事態発言の発動を政府に要望したことを明らかにした。
尾崎会長のメールが功を奏したのかどうかはわからない。
だが、尾崎会長は、横倉会長が意を酌んでくれたのだと思っている。

都内の感染者数は、3月23、24の両日には、感染者数がそれまでの10人前後から、16人、17人と増え、25、26日は40人台、28日には63人、31日には78人、そして4月2日には97人と急増している。
病院の院内感染や、夜の街がクラスターとなって検査件数そのものが膨れ上がってきたためでもあるが、不気味な増え方だ。

筆者自身、強権的な緊急事態宣言は慎重にしたほうがいいと考えている。
が、一方でウイルスとの闘いには、人々の行動が縛られることは覚悟しなければならないことも承知している。
まず優先すべきは人命であり、そのために医療態勢を守ること。

尾崎会長の「現場を見に来い!」という強い怒りの根源には同意せざるをえない。
posted by 小だぬき at 00:00| 神奈川 ☀| Comment(6) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする