「理不尽なダメ出しをする人」に打ち勝つ超戦略
大切なのは"相手のパターン"の見極めだ
2020/04/30 東洋経済オンライン
西野 一輝 : 経営・組織戦略コンサルタント
上司や同僚、あるいはお客様のささいな一言で、やる気が下がってしまったことはないだろうか?
「前例あるの?」「やる必要あるんですか?」といった発言で、やる気を下げてくる人物。経営・組織戦略コンサルタントの西野一輝氏は、そんな人たちのことを”モチベーション下げマン”と名付けている。
こうした厄介な存在に出会ったとき、どう対処したらいいのか?
西野氏は、2000人以上の経営者・著名人のインタビューを通し、やる気が高い人にはある行動・思考の法則があったという。
モチベーションを高めるための方法論をまとめた初の著書『モチベーション下げマンとの戦い方』から一部を抜粋・再構成して紹介する。
「誰かの一言」によって、モチベーションを大きく下げている人にたくさん会ったことがあります。
ただ不思議と、その一言を発した本人からすれば、モチベーションを下げようと思って発言していないケースが多々あります。
むしろその人のモチベーションを上げようと思って言っているケースさえもあります。
そんな「一言」に対抗する方法を紹介していきましょう。
例えば「仕事に対するこだわりが薄い点がきみの長所だね」というように、自分は相手の気持ちがわかるとか、自分は相手のことをわかってあげようと努力していると勘違いしている“モチベーション下げマン”(以下、MSM)はたくさんいます。
自分を過大評価しているのかもしれません。
残念ながら、この過大な自己評価は今後も変わりません。
「わかってないですよ」と理解させるのは相当に困難な話なのです。
このタイプにはどう反論すればよいのでしょうか。
MSMとの上手な付き合い方
まず、変わらないのですから自分のモチベーションの下げ幅を最低限にするために、極力その人とのコミュニケーションの量を減らしましょう。
次第にMSMとの距離感を少しずつ離していくのです(この努力が実ると、自分はモチベーションの下がる機会が減りますが、誰かが犠牲になるリスクは残ることは覚えておきましょう)。
さて、どんなふうに距離を取っていくかというと、やみくもに冷たい態度をとるのはおすすめしません。
そこで、「自分は鈍感で、あなたが話している意味がよくわかりません」と言うのです。
つまり、MSMの発言が高尚であって、自分にはわからないように振る舞うのです。
MSMも話していることが伝わらないとなれば、面白くなくなり心の距離を置く可能性があります。
仮にMSMの発言に敏感に反応すると、それがうれしくて離れてくれません。
それどころか、さらに発言を繰り返す、厄介な状態が続く可能性があります。
人は、発言するなら相手の反応は欲しいもの。
相手が言いやすく、かつ応えてくれるのでターゲットになっている可能性があります。
例えばあなたが経理部に所属していたとして、他部署のある人物が「総務部の後輩が、きみのことを『計算ミスが多い』と、言っていたよ」と、いまの仕事に不適切と言いたげなコメントをしてきたとします。
ここで「どんな場面で計算ミスが多いと感じたのですか?
もしかして、経理失格と言いたいのですか」と感情的な質問でもすればMSMの思うツボです。
モチベーションがさらに下がるコメントが準備されているかもしれないからです。
ならば、そのコメントを聞き出すことなく、「そうですかね」と気にしていない感じを示すか、「あんまり気にしていないです」と素っ気ない回答をしてみるのです。
すると、MSMからすればつまらない気持ちしか生まれないことでしょう。
「こいつに言っても無駄」と離れていってくれるはずです。
私も過去に同じような対応をすることで、自分に近い距離感から相手にお引っ越し(距離を置いて)いただいた経験があります。
ただ、もしMSMの指摘を真摯に受けとめ、改善をすべきかもしれないと思えたら、ぜひ自己評価を試みてください。
自分が本当に信頼できる人物(同僚など)に「自分って計算ミス多いかな」と聞いてみるのもいいでしょう。
モチベーションが下がったふりをする
「きみが『調子に乗りすぎて、周囲に称(たた)えさせる飲み会をやってるらしい』と聞いたよ。大丈夫?」と業績が著しく高い社員に話しかけるMSM。
そうすることで、仕事が順調な社員が落ち込むとモチベーションが上がるようです。
だからといって自分が悪者にはなりたくないので、噂話を利用して「大丈夫?」と心配している姿勢で話しかけるのです。
本当に困った存在です。
先ほど、自分の領域からお引っ越ししていただくために「鈍感なふりをする」という対策を紹介しましたが、それが難しい場合の反論術を1つ紹介しましょう。
相手のモチベーションが下がればMSMが満足するのであれば、下がったふりをするのです。
例えば、 「すごくショックです。かなりの衝撃を受けたので、明日会社に来れるか自信がないです」
「自分自身で十分受け止めるだけの力がないので、どう答えていいかちょっといま戸惑っています」
こうしたことを言って、相手にご満足いただくのです。
さらに「図星を指されました」といったように的確さを称えるコメントを加えると、MSMからすれば満足度はさらに上がることでしょう。
しかし、相手と信頼関係があると思っていたのに「あなたのあの言動はダメだった」「なぜああしなかったんだ」とダメ出しをされてしょんぼり。
相手との心理的距離感もできてしまい、高かったモチベーションもグッと下がってしまった、こんな経験はありませんか。
自分としては信頼されていると思っているゆえ、ショックは大きなものがあることでしょう。
おそらく、その後は近づきたいと思えず、お互いの距離も空いてしまうことになります。
こうしたダメ出しをしてくる、心理的な背景はどのようなものなのでしょうか?
まずよくあるのが善意のMSMによる、教育的な見地です。
相手のために、よかれと思ってダメ出ししてくれる人とも言えるでしょう。
仮にトゲがありカチンとくるような言い方であったとしても、基本的には感謝したい存在といえます。
よかれと思って言ったダメ出しで信頼関係が壊れたら ただ、よかれと思ったという動機のなかでも、主観が入っているケースは少々厄介です。
単にイライラしたから指摘をしたというように、その人の主観や気分によって左右されるダメ出しは、言われた本人にとっては理不尽なものに感じられるからです。
いずれにしてもダメ出しをした人には、その後に共通して感じることがあります。
それは、相手を傷つけてしまったかもしれないという罪悪感です。
教育的見地であっても、イライラしてダメ出ししてしまったとしても、ダメ出しした本人は、後で「言いすぎたかもしれない」と感じる人が大半なのです(もちろん、例外的に感じない人もいるとは思います)。
実は、かつて自分も知人に対して「いまの言い方では、周囲に支持されないよ」とダメ出しをしたことがありました。
業績好調で周囲からもチヤホヤされていた知人が会社の社長に「ここまで急成長してこれたのは、自分の力量だ」と自意識過剰とも思える発言をしており、さすがに気になったため軽くいさめたのです。
ただ、そのダメ出しをきっかけにして、関係は疎遠になってしまいました。
知人が自分を避けるようになったのです。
定期的に開催していた知人数名での食事会に誘われなくなったり、SNSの友達リストから外されたりしました。
さすがに「普段の自分からしてみたら、きつい言い方をしたのかもしれない」と、反省する機会になりました。
明らかに距離を置かれたら、自分から無理に近づくのも気が引け、そのまま縁が切れてしまいました。
もし知人から声がかかれば、気にせず喜んで付き合いは続けたいと思っていたので、後悔の残る出来事になりました。
このようにダメ出しによって信頼関係が壊れた経験がある人は、意外と多いものです。
理想的な回答をするならば、お互いが歩み寄って信頼関係を再構築すべきだとは思います。
ただ、過去にダメ出しをして後悔している立場から言うと、ぜひここで指摘を受けた人が歩み寄ってきてほしいと思います。
言った本人は、おそらく「言いすぎたのではないか」「傷つけたのではないか」と気にしているからです。
相手への嫌悪感にはひとまずふたをして「ありがとう、これからもよろしく」と感謝の言葉を述べていきましょう。
仮によかれと思ったダメ出しであれば、意図が伝わったと信頼関係がさらに深まります。
仮に感情的なダメ出しであったとしても、感謝の言葉をくれた人に対してさらなる悪意を仕掛ける人は少ないはずです。
つまり、歩み寄ることはプラスしかありません。
まずは言葉だけでも感謝を伝えるように意識をしてみてください。
それがきっと、モヤモヤを解消し互いの関係性を改善するきっかけになるはずです。