2020年05月04日

老いた体と上手に付き合う

老いた体と上手に付き合う
2015年3月19日 読売新聞
山本紘子・藤田保健衛生大名誉教授

 健康長寿を願うなら若い時からの摂生が大切です、と前回書きました。

では、既に高齢となり、あちこちに支障をきたしている人はどうしたらよいでしょうか?

 長年の酷使で、内臓や骨、関節に生じた不具合は、すっきりとは治らず、少しずつ進行することも多いのです。

私は80歳の方であれば、「あなたは築80年の家です。家に不具合が起きたら、もう古いから、仕方がないとあきらめ、ちょっと手を入れて上手に住むか、新しく建て直すでしょう。
あなたの身体も同じで、新築のようにはできないので、上手に付き合っていきましょう」と話しています。

 上手に付き合うというのは、身体を酷使せず、大事にし過ぎもせず、毎日同じ調子を保って生活をすることです。

ついつい運動をさぼったり、食べ過ぎたりするなど規則正しく生活することは容易ではありません。

同じように生活していても、年を重ねれば、新しい不具合が生じてきます。
昨日までできた動作が、今日はスムーズにできないと、病気じゃないかと考えがちですが、加齢現象かもしれません。

私は、今日が一番若く、明日は未知との遭遇ですと伝え、年を重ねる自分を客観的に見つめるようすすめています。

 90歳になった方が敬老の日にいただいたお祝い金を老後のために貯金されたという話を聞いたことがあります。

自分が生涯のどの辺りにいるかは意外に意識されていないようです。

 私が医師になった頃は、「もう年だから」と言われる患者さんが多かったのですが、今は老化は克服できるという風潮が強く、年と言われると拒否反応が起きます。

いつまでも若々しいことは素晴らしいことですが、楽観的過ぎず悲観的過ぎず、改めてほどほどを認識したいものです。
posted by 小だぬき at 12:00 | Comment(6) | TrackBack(0) | 健康・生活・医療 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ボケ防止の7か条

イグ・ノーベル・ドクター新見正則の日常
ボケ防止の7か条
2015年7月3日 読売新聞

 2日続けてテレビの生放送に出演してきました。
とても楽しかったです。
その中でボケない秘訣ひけつを披露し、それに対するいろいろなご意見がありました。

今日のコラムは僕が思っている「ボケ防止の7か条」に関して書きます。

ともかく歩くこと。歩ける体をつくるためにダンス、太極拳、水泳も。
指先を使うこと。家事、裁縫、盆栽、絵を描く、写経、楽器演奏など。
アウトプットを。おしゃべり、歌う、ゲーム、人や犬の世話。
・ボランティアを。無償の奉仕はやっぱりいいようです。
・同居の人に優しくされすぎない。やることを見つける。
ボケ始めてもできることを。高尚な趣味はボケ始めるとできない。
・最後まで社交的でいること。

 この7か条に科学的根拠はありません。
僕がたくさんの高齢者の方々を拝見し、診察し、投薬してきて至った結論です。

その高齢者の中に僕の母も含まれています。
母は85歳までは相当元気でした。
90歳でもしっかりしていました。
でもその後は認知症を患い、家族で介護しました。
ですから認知症は結構よくわかるのです。

認知症の進行を止める薬はない

 まず、認知症の進行を止める薬はありません。
現在認知症に有効だとして保険適用が認められている薬は数種類ありますが、どれも進行を遅くするだけです。
飲んでも認知症は進行するのです。

いろいろと試して、「家族がなんとなくいいかなと思える薬を続行するのが最良」と思っています。
認知症は頭の中の病気です。
つまり薬は頭の中に入ります。
ですから、内服してかえって症状が悪化したり、凶暴になったり、反対にふさぎ込んでしまったり、いろいろなことが起こります。

本人はどれが効いているかはわかりませんので、家族がしっかり薬の効果を見て、継続や変更・中止を主治医と話し合う必要があります。

母を介護して、数年前に、「せめて1年前にもどるような薬はないのかな」と思いました。
でも、ありませんでした。

 認知症は家族も大変です。
介護している人を認識できる間は、まだ介護している甲斐かいがあります。
でも身内さえもわからなくなると、「なんで生きているんだろう」と思うことがあります。

そんな生きている理由を考えさせられたことも、認知症の母を介護していたからこそと思っています。

歩き続けられることが大切

 歩かなくなると、ボケは進行すると思っています。
整形外科の先輩は、骨折をして歩けなくなるとだいたい1年前後でお迎えがくると教えてくれました。
ともかく歩き続けられる体がなにより大切です。

 指先の神経支配は大脳の多くの部分を占めています。
家事、裁縫、盆栽、絵を描く、写経、楽器演奏など何でもいいのです。
指を動かすことが日課の人はボケにくいと感じています。

 内にこもるのではなく、表現することはとてもいいようです。
おしゃべり、歌、ダンス、踊りなどなんでもいいのです。
アウトプットを大切にしてください。

 ボランティアをしている人は、多くが元気です。
人の世話をする、人のために無償で働くことは、ボケ防止になると確信しています。

少し遠くから温かく見守る

 一人暮らしのお年寄りが、やさしいお嫁さんや娘さんと一緒に住むようになると急にボケることがあります。
今まですべて自分でやっていたことの多くを、家族がやってあげるからです。
何かお年寄りができることを残してあげましょう。
少し遠くから温かい視線で見守ることが、何でもやってあげることよりも大切です。

 認知症になった方をたくさん診ていると、認知症になり始めてからの経過が異なることに気が付きます。
ボケ始めてから頑張れる人と、ボケ始めると一気に進行する人です。

母は読書が大好きでしたが、ボケ始めてからは本をめくるだけで読めなかったようです。
そして一気にボケが進みました。
高尚な趣味はボケ防止には不向きです。

 おしゃべりはいいと思います。
老人会や、世代を超えた集まりには積極的に参加しましょう。
そして家族が少々無理強いをしても参加させましょう。
井戸端会議や世間話は、ボケ防止には最良と思っています。

 ボケに関して母から教えてもらったことは膨大です。
少しずつご披露していきます。
早く教えてくれという方は、拙著「死ぬならボケずにガンがいい」(新潮社)も参考にしてください。
 人それぞれが、少しでも幸せになれますように。

◆ 新見正則(にいみ まさのり)
    帝京大医学部准教授
posted by 小だぬき at 00:00 | Comment(2) | TrackBack(0) | 健康・生活・医療 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする