イグ・ノーベル・ドクター新見正則の日常
ボケ防止の7か条
2015年7月3日 読売新聞
2日続けてテレビの生放送に出演してきました。
とても楽しかったです。
その中でボケない秘訣ひけつを披露し、それに対するいろいろなご意見がありました。
今日のコラムは僕が思っている「ボケ防止の7か条」に関して書きます。
・ともかく歩くこと。歩ける体をつくるためにダンス、太極拳、水泳も。
・指先を使うこと。家事、裁縫、盆栽、絵を描く、写経、楽器演奏など。
・アウトプットを。おしゃべり、歌う、ゲーム、人や犬の世話。
・ボランティアを。無償の奉仕はやっぱりいいようです。
・同居の人に優しくされすぎない。やることを見つける。
・ボケ始めてもできることを。高尚な趣味はボケ始めるとできない。
・最後まで社交的でいること。
この7か条に科学的根拠はありません。
僕がたくさんの高齢者の方々を拝見し、診察し、投薬してきて至った結論です。
その高齢者の中に僕の母も含まれています。
母は85歳までは相当元気でした。
90歳でもしっかりしていました。
でもその後は認知症を患い、家族で介護しました。
ですから認知症は結構よくわかるのです。
認知症の進行を止める薬はない
まず、認知症の進行を止める薬はありません。
現在認知症に有効だとして保険適用が認められている薬は数種類ありますが、どれも進行を遅くするだけです。
飲んでも認知症は進行するのです。
いろいろと試して、「家族がなんとなくいいかなと思える薬を続行するのが最良」と思っています。
認知症は頭の中の病気です。
つまり薬は頭の中に入ります。
ですから、内服してかえって症状が悪化したり、凶暴になったり、反対にふさぎ込んでしまったり、いろいろなことが起こります。
本人はどれが効いているかはわかりませんので、家族がしっかり薬の効果を見て、継続や変更・中止を主治医と話し合う必要があります。
母を介護して、数年前に、「せめて1年前にもどるような薬はないのかな」と思いました。
でも、ありませんでした。
認知症は家族も大変です。
介護している人を認識できる間は、まだ介護している甲斐かいがあります。
でも身内さえもわからなくなると、「なんで生きているんだろう」と思うことがあります。
そんな生きている理由を考えさせられたことも、認知症の母を介護していたからこそと思っています。
歩き続けられることが大切
歩かなくなると、ボケは進行すると思っています。
整形外科の先輩は、骨折をして歩けなくなるとだいたい1年前後でお迎えがくると教えてくれました。
ともかく歩き続けられる体がなにより大切です。
指先の神経支配は大脳の多くの部分を占めています。
家事、裁縫、盆栽、絵を描く、写経、楽器演奏など何でもいいのです。
指を動かすことが日課の人はボケにくいと感じています。
内にこもるのではなく、表現することはとてもいいようです。
おしゃべり、歌、ダンス、踊りなどなんでもいいのです。
アウトプットを大切にしてください。
ボランティアをしている人は、多くが元気です。
人の世話をする、人のために無償で働くことは、ボケ防止になると確信しています。
少し遠くから温かく見守る
一人暮らしのお年寄りが、やさしいお嫁さんや娘さんと一緒に住むようになると急にボケることがあります。
今まですべて自分でやっていたことの多くを、家族がやってあげるからです。
何かお年寄りができることを残してあげましょう。
少し遠くから温かい視線で見守ることが、何でもやってあげることよりも大切です。
認知症になった方をたくさん診ていると、認知症になり始めてからの経過が異なることに気が付きます。
ボケ始めてから頑張れる人と、ボケ始めると一気に進行する人です。
母は読書が大好きでしたが、ボケ始めてからは本をめくるだけで読めなかったようです。
そして一気にボケが進みました。
高尚な趣味はボケ防止には不向きです。
おしゃべりはいいと思います。
老人会や、世代を超えた集まりには積極的に参加しましょう。
そして家族が少々無理強いをしても参加させましょう。
井戸端会議や世間話は、ボケ防止には最良と思っています。
ボケに関して母から教えてもらったことは膨大です。
少しずつご披露していきます。
早く教えてくれという方は、拙著「死ぬならボケずにガンがいい」(新潮社)も参考にしてください。
人それぞれが、少しでも幸せになれますように。
◆ 新見正則(にいみ まさのり)
帝京大医学部准教授