「権力者に逆らう人間」が少数派である根本原因
「生存競争の手段」としては当然の選択である
2020/05/19 東洋経済オンライン
堀田 秀吾 : 明治大学教授
なぜ「権力に逆らう」のは難しいのか?
人間が強い権力者に従う理由を、明治大学教授の堀田秀吾氏が解説。
『「勘違い」を科学的に使えば武器になる』から一部抜粋・再構成してお届けします。
身も蓋もないことを言ってしまえば、人間は権力に弱いです。
単に「権力に弱い」と書くと、虚しく、情けなく見えるかもしれません。
ですが、これも進化心理学から見れば、より強い遺伝子を残すために、生存競争の手段として人間が選んだ仕組みで、当然のことなのです。
ちなみに、ここで権力に弱いというのは「権力を持っている人の意見が正しい、間違いを言うはずがない」あるいは、逆に「自分の意見など通るわけがない」というバイアスを抱き、相手の意見にしたがってしまう傾向があることです。
たとえば、大企業の社長の意見は、なんとなく合理性を帯びていて、正しく感じてしまうような場合です。
そう、ハロー効果の権力版です。
権力に抗うのは、いつの時代もリスキーだし、難しいものです。
ただ、権力者には権力者の特徴があります。
権力者ほど「リスク」を低く見積もる
横浜国立大学の佐々木秀綱氏の研究によると、
自分に権力があると感じている人ほど、しっかりと考えるよりも、直感的にリスクのある選択をする傾向があるそうです。
逆に、権力がないと感じている人は、リスクを避けるため、しっかりと考えて意思決定する傾向がある、ということを明らかにしています。
つまり、権力感を持つ人のほうがリスクを低く見積もってしまうバイアスがある、ということです。
権力感が強い人たちのほうが、直感的に判断している可能性が高いということは、相手の心理に働きかける戦略が、功を奏す可能性が高いということになります。
ここがある意味、彼らを説得する突破口となりそうです。
一方、対等の立場で、楽しい会話を気楽にできる人との交流を望んでいる節があります。
やはり、ずっと偉い人扱いを受けるのは疲れるのでしょう。
なんだかんだ言っても、権力を持つ人も1人の人間なのです。
ビジネスにおいても「もう少し気楽にやってほしい」と感じるシチュエーションが結構あるそうです。
窮屈な苦しい雰囲気の中では、楽しい雑談はもちろん、有益な議論や交渉はしにくいこともわかります。
また「偉い人」とのあいだに、立場の差があるということ自体が、すでに同じ土俵に立っていないという心理的ハンディキャップとなっています。
こうしたハンディが、あなたの言動を制限してしまうのです。
そこで、まずは土俵を同じにするという戦略が大切です。
とはいえ、変に勘違いしてはいけません。
目上には変わりませんから、偉そうにせず、礼節は守りながらも、気取らないコミュニケーションを取ることも重要です。
権力者も「かまってちゃん」
ハーバード大学ビジネススクールのフアンらの研究によると、被験者を4つまでしか質問できないチームと、9つまでできるチームに分けた結果、後者のほうが、相手からより強い好意を抱かれたそうです。
これは、人間の承認欲求と深い関係があります。
たくさん質問してもらったほうが自分のことを知ってもらえるために嬉しく感じ、相手に好意を抱くのです。
権力者でも同じことです。
人間、結局は誰もが「かまってちゃん」なのです。
車、スポーツ、映画、音楽、ファッション、グルメ……。あるいは、相手の身に着けているものや持っている小物、さらにことばの端々などを観察し、話題になりそうなものを見つけて、質問を投げかけましょう。
ただし、矢継ぎ早に質問して、警官の取り調べのようになっては逆効果です。
加減には注意してください。
初対面など、相手をあまり知らなくて、さらに話題のネタが見つからない場合は、相手のことをじっくり観察してみてください。
本人が身に着けているものの中で、こだわりを持っていそうなアイテムを褒めましょう。
バッグ、ペン、ポケットチーフ、香水、髪型、靴、ストール、スーツ、ジャケットなど、何でもいいので、こだわりが見えるものを見つけて褒めましょう。
権力者なら、服装や持ち物などに、人一倍こだわっているものがあるかもしれません。
「そのネクタイ、とてもお似合いですね! 僕もそういう柄のネクタイを買いたいと思っていたんです。
どちらで買われたんですか?」
人間には承認欲求がありますし、自分のこだわりに気づいてもらえるのは、とても嬉しいもの。それが、なかなか普通は気づかないようなものなら、なおさらあなたの株が上がるはずです。
カリスマ添乗員から学ぶ「人を喜ばす技術」
ちなみに、そういうものが見つからないときでも、ポイントは同じです。
日本旅行のカリスマ添乗員として、関西のテレビ番組でもおなじみの平田進也さんは、年間8億もの売り上げを叩き出す、軽妙な話術の達人として有名です。
そんな彼によると、トークのコツは、なんでもいいので相手の身に着けているものをはじめ、目についたものをとにかく褒めまくることだそうです。
なんなら洋服のチャックでさえも「わあ、世界のYKKやないですか! さすがやわ!」のように褒めるそうです(笑)。
人を喜ばせ、楽しませる天才だと思います。
仕事の基本はエンターテインメント。
エンターテインメントとは、人を喜ばせることです。
客を喜ばせ、ユーザーを喜ばせ、クライアントを喜ばせ、仕事仲間を喜ばせ、そして自分自身を喜ばす……。
そう、相手を喜ばせたいという「愛情」です。
平田さんの「イジリ」には、つねに愛があります。
愛のないイジリは、単なる侮辱になってしまいます。
愛を持って好意的に接すれば、相手も好意を抱いてくれます。
相手に対する愛を、つねに忘れずにいきたいですね。