2020年06月28日

突飛なうそにだまされる人と見抜く人の決定的な差

突飛なうそにだまされる人と見抜く人の決定的な差
弁護士が指南「真実は多数決では決まらない」
2020/06/27 東洋経済オンライン
村田 らむ : ライター、漫画家、カメラマン、イラストレーター

世の中にはウソがあふれている。
「オレオレ詐欺(振り込め詐欺)」が世に出始めたのは20年ほど前だが、現在も形を変えて世の中にはびこっている。
「架空請求詐欺」
「金融商品等取引名目詐欺」
「異性との交際あっせん名目詐欺」
「ギャンブル必勝法情報提供名目詐欺」 などなど、さまざまな詐欺が横行しているのが現実だ。

中には、 「こんなあからさま手でだまされる人って、本当にいるの?」 と思うものもあるが、現に引っかかる人は後を絶たない。
新型コロナ禍以降は、世の中のウソに拍車がかかっている感もある。

「タンポポ茶を飲めば新型コロナの予防になる」 と言った医療詐欺の案件もあるし 「トイレットペーパーの供給が途絶える」 「蚊に刺されてコロナに感染する」 「身体に消毒薬を直接注射すればウイルスを殺すことができる」 など吹聴している本人たちもウソを言っている自覚がないデマも蔓延している。
また近頃では「現金10万円一律給付」に便乗した詐欺もはびこっている。

世の中にあふれる「ウソ」の見抜き方
私たちは生きていく中で、このようなウソを見抜いていかなければいけない。
だが「ウソの見破り方」を教えてもらえる機会はあまり多くない。
今回は『弁護士が教えるウソを見抜く方法』(宝島社)の著作もある、弁護士の深澤諭史さんに、ウソの見抜き方を教わった。

ウソを見破らなければならない職業はいくつかあるが、弁護士もその1つだ。
「実は、大学の法学部ではウソの見抜き方(事実認定)はほとんど教えてもらえません。
法学部の先生は法廷に立ったことがない人が大多数です。
事実認定について学ぶのは司法試験に受かった後に経験から学んでいきます」
つまり“ウソの見抜き方”を知るのは法律関係者の中でも一部(法曹三者)になる。

そもそも事実認定は一般市民のためにあるので、なるべくわかりやすく多くの人に伝えたいと深澤さんは思っている。
深澤さんも若い頃にはウソに泣かされることもあったが、喋り方や雰囲気だけでウソを言っているかどうかわかるようになってきたという。
弁護士ドラマなどでは、 「いちばん大事なのは依頼人を信じること」 と言うことが多いが、依頼人もウソをつくことはあるという。
「弁護士として開業した当時は『着手金0円』とうたっていました。
そのため、ウソの相談を持ちかける人もたくさんいました。
例えば嫌がらせのために、貸してもいないお金の返済を求める、などですね。
それらの経験で、ずいぶん成長することができました。

 もちろん基本的に依頼人のことは信じています。
ただ信じることと確認することは両立します。
信じるために補強証拠を集めるというのも矛盾しません。
依頼者をただ無批判に信じて右から左へ流すだけだったら、そもそも依頼者は弁護士を依頼する必要がありません。
裁判では、依頼者のことを裁判所に信じてもらわなければなりません。
ちょっとでも疑問に思うことは、依頼者に伝えるようにしています」

弁護士から見たウソをついている人の言動の特徴6選
ちなみに深澤さんが弁護士の立場から見て、ウソをついている人の言動の特徴を箇条書きに並べると、
@質問と答えが一致しない。
A質問に端的に答えず、前提や動機など聞かれもしない理由付けを延々と話す。
Bほかならぬ「自分の行動と記憶」を質問されているのに、なぜか「普通の人」(一般例)の話をする。
C自分の記憶だけで答えればいいのに、なぜか証拠の有無や内容を熱く語る。
D自分の行動の内容や理由を聞かれているのに、相手方の性格とか評判を語りたがる。
E証明ができるかどうかではなく、自分が信じてもらえるかどうかに強い関心を抱く。
以上の6つが上げられるという。

「もちろん、この基準に当たればウソ、当たらなければ本当、ということではありません。
あくまでも目安ですが、参考にはなると思います」
深澤さんの専門分野の1つがインターネット上のトラブルだ。
インターネット上のトラブルはどんどん増えているし、扱っている弁護士は多い。
先日テレビ番組『テラスハウス』に出演していた女性が自殺し、大きな社会問題になった。
自殺にはSNS上での誹謗中傷が原因の1つではないか?と言われている。
そんなネット上の、誹謗中傷や、プライバシー侵害も深澤さんは取り扱っている。

「まず誹謗中傷を書かれた側に立ち、書いた人間を探したり、投稿を消したりする仕事をしています。
逆に、誹謗中傷を書いた人を弁護する場合もたくさんあります」
誹謗中傷を書いた側は心に、 「いつ訴えられるかわからない」 という不安を抱えることになる。

インターネットの法律情報はウソ、デマが多い
不安を解消するために、インターネットで情報を検索する人が多い。
インターネット上にはたくさんの法律情報が載っているため、情報を得るのはたやすい。
「ただ、インターネットの法律情報は非常にウソ、デマが多いです。
そのウソを信じ込んで依頼に来る人も多く、誤解を解くのに一苦労な場合もあります」

インターネットに誹謗中傷を書いた人は、インターネット上に書き込みをすることに抵抗がない人が多い。
ネット上のあらゆる場所に書き込み情報交換をする。
そうしてたくさんの情報を集める。
「そうして彼らは“自分に都合のいい情報”だけを集めてしまうんですね。
自分にとって都合の悪い情報は、『デマだ』と切り捨ててしまう。

都合の良いウソはネット上で交換されていき、エスカレートしていきます。
弁護士がQ&A形式で質問に答えるサイトもたくさんありますが、それもあてになりません。
たとえ弁護士がウソをついていなくても、Qがそもそも間違っている場合はたくさんあります。
ウソを信じ込んで弁護士をつけずに裁判をしたら、確実に大負けします」

相談する前に思い込みで行動してしまったせいで、さらに事態が悪くなることも多いという。
ネットやテレビで“振り込め詐欺の手口”などを特集していることがあるが、それらを見てわかった気になるのも危ないという。
「詐欺師はテレビで報道されてしまったような古い手口は使いません。
つねに、新品の、新発明のウソをついてきます。
だから、手口を見抜くのではなく、状況からウソを見抜けるようにならなければなりません。

ウソにだまされる人の最大の特徴は心に“不安”を覚えているということです。
そして“不安”にとても相性がいいのが“安心できる都合のいいウソ”なんです。
いわば部屋に閉じ込めて置いて喉がカラカラに乾いたときに、毒入りのお茶を差し出すような手口です。
被害者は思わずウソを信じてしまいます」

不安を覚えると、人は安心を求め、その結果“都合のいいウソ”を信じやすくなる。
例えば典型的な振り込め詐欺で、 「あなたの息子さんが捕まりました。200万円振り込めば釈放されます」 と言ったものがある。
この場合“息子さんが捕まった”という情報で相手を不安に陥れる。
そして“200万円振り込めば釈放される”という都合のいいウソに引っ掛ける、という仕組みだ。

投資詐欺では、 「このままでは老後のお金がどうなるかわからないよ?」 という不安を与え、その後に 「ここに投資すれば絶対に儲かる」 という都合のいいウソを与える。
新型コロナ禍に関する詐欺でも、 「新型コロナによって人がバタバタ倒れている。大勢の人が死んでいる」 という情報を与え不安にさせる。
そして、 「このお茶を飲めばウイルスを抑えることができるから大丈夫」 というような都合のいいウソを与える。
「給付金10万円もらい損ねるかもしれない?」 と不安がっている人には、 「僅かな手数料で、面倒くさい手続きは代わりにやってあげますよ」 とウソをつく。
このようなわかりやすいウソでも、不安にかられている人は、思わず信じてしまう場合がある。
溺れる者は藁をもつかむの心境だ。

実はみんな不安が大好き
「“不安”と言えば避けたいこと、考えたくないこと、と思う人が多いと思います。
でも実はみんな“不安”が大好きなんです。
多くの人が、怖い思い、不安な思いをするためにわざわざホラー映画を見に行きますよね。
1970年代の日本はすでに科学大国でしたが、“1999年に地球が滅ぶ”と書かれた『ノストラダムスの大予言』は飛ぶように売れました。
世界が滅ぶなんて誰も見たくない未来を、みんなわざわざお金を払って信じたわけです」
“不安”には多くの人の感心が引き寄せられるという。

現在はインターネットが普及し、より心が不安になる情報を入手しやすくなった。
そして、不安に触れていると心が弱る。
結果的にウソに対しての抵抗力が下がる。

「この記事を読んでいる多くの方たちは、 『自分は大丈夫だ』 と思っているのではないでしょうか?
 それは間違いではありません。
通常、そう簡単にウソにはだまされません。
ただ普段の自分はだまされないかもしれませんが、不安で心が弱っている自分は案外簡単にだまされます。
また、不安以外では“欲望が刺激されているとき”もだまされやすいです。
『自分は大丈夫だ』と思っている人もタイミングが悪ければ、簡単にだまされます」

例えば悪質な宗教団体は、親族が亡くなって心が弱くなっている人をターゲットにする場合が多い。
人生上手くいって幸せな人に、 「あなたの背後には悪霊がついているので、お布施を100万円しなさい」 と言っても、買う人はいない。
心が弱っているからこそ、“溺れる者は藁をもつかむ”で、わかりやすいウソでも信じてしまうのだ。

「心が不安に満たされているときには、一旦立ち止まって、 『今の自分はだまされやすい心理状態にある』 と認識するようにしていただきたいです。
それだけでだまされる可能性はずいぶん下がると思います。
もし不安から逃れるために何か行動を起こそうとしているなら、少し手を止めてみたり、もう一度考え直してみるのもいいと思います」

だまされやすいウソの典型は「面白い」ということ
皆がだまされやすいウソというのはどのようなものなのだろうか?
「だまされやすいウソのいちばんの要素は、そのウソが『面白い』ということです。
面白いウソは、つまらない真実よりも、世間に広がりやすいです。
インターネット時代になり、その傾向はより強くなっています。

多くの人が知っているからと言って、それが真実とは限りません。
真実は多数決では決まりません。
そして、話がわかりやすければわかりやすいほど、単純であれば単純であるほど、都合がよければよいほど、ウソである可能性が高くなります。

耳あたりのよい、面白い話には、つねに眉に唾をつける必要があります」
昨今、暗いニュースや、不穏なニュースがたくさん流れている。
目を通しているうちに、心が不安で満ちてしまう人もいるだろう。
そんなときは「自分はだまされやすい状態にある」と認識して、飛びつくのは避けたほうがいいだろう。

安易に信じてしまうことで、人生を台無しにしてしまうウソもあるのだ。
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☁ | Comment(4) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする