2020年07月18日

関東も危ない豪雨降らせる「線状降水帯」の正体

関東も危ない豪雨降らせる「線状降水帯」の正体
集中豪雨を引き起こす大きな原因の1つ
2020/07/17 東洋経済オンライン
今井 明子 : 気象予報士・サイエンスライター

2020年7月上旬から日本列島の幅広い範囲で豪雨による災害が発生しています。
この7月の豪雨は熊本、鹿児島、福岡、佐賀、長崎、岐阜、長野の7県で大雨特別警報が出され、7月3日0時から15日5時までの総雨量は、高知県馬路村の魚梁瀬で1491.5ミリ、長野県大滝村の御嶽山で1462.0ミリ、大分県日田市の椿ヶ鼻で1351.0ミリとなりました。

また、この豪雨に伴い熊本県の球磨川をはじめとする複数の河川が氾濫を起こし、流域では浸水や土砂災害が発生。
7月16日12時現在で、死者は76名、心肺停止が1名、行方不明者が8名となり、この豪雨は「令和2年7月豪雨」と命名されました。
今回のように激甚な災害をもたらした気象現象には名前がつくものですが、気象現象が終わったあとに命名されることがほとんどであり、気象現象が続くさなかに命名されるケースはまれです。
いかにこの豪雨による被害が大きいのかがうかがい知れます。

「線状降水帯」とは?
200名以上の犠牲者を出した西日本豪雨からたったの2年で、またこのような甚大な被害を出した災害に見舞われてしまうとは。
新型コロナウイルスの感染拡大という未曽有の災いが起こっている中で、今度は豪雨が私たちを痛めつけます。
本当に自然とは容赦しないものだと思わずにはいられません。

さて、毎年梅雨の後半になると必ずといっていいほど集中豪雨が起こり、大きな災害が発生するものです。
特に、今回の令和2年7月豪雨のような数十年に1回レベルの集中豪雨を引き起こす大きな原因のひとつが「線状降水帯の停滞」です。

では、線状降水帯とはいったい何なのでしょうか。
具体的には、このレーダーエコーのような状態の現象のことをいいます。 この画像は、気象レーダーでの観測に基づいた降水強度の分布図ですが、赤や黄色などの強い雨が降っている場所が、まるで線のような細長い形で表示されています。
線状降水帯には長さや幅などに厳密な定義があるわけではないのですが、雨の降っている場所の幅が20〜50km、長さがおよそ100km以上であるもののことを線状降水帯と呼ぶことが多いです。

線状降水帯の正体は積乱雲です。
積乱雲というのは、いわゆる雷雲と呼ばれるもので、しとしとと降る雨ではなく、土砂降りの雨をもたらします。
夏の夕立を発生させる犯人です。
しかし、夏の夕立は1時間程度であがってしまいます。
また、夕立が降っているときに気象レーダーの画像を見ても、雨の降っている場所は丸い形をしています。
これはなぜかというと、夕立は基本的に単体の積乱雲からもたらされることが多いからです。

積乱雲の水平方向の直径は、だいたい数km〜十数km。そして、積乱雲の寿命は1時間程度です。
だから、単体の積乱雲がもたらす夕立の範囲は狭く、1時間程度で雨がやんでしまうのです。

「積乱雲の世代交代」が行われている
では、なぜ積乱雲の寿命は1時間程度なのでしょうか。
まず、積乱雲というのは、強い上昇流によって発生します。
空気が上昇流によって上空にまで運ばれると、その空気中の水蒸気が水の粒(雲粒)や氷の粒(氷晶)に変わります。
これが積乱雲です。
そして、氷晶や雲粒がまわりの水蒸気を取り込んだり、お互いがぶつかりあったりして粒が大きくなると、重力の影響を受けて落下します。
これがです。

雨粒は落ちるときに周囲の空気も一緒に引きずりおろすので、下降流が発生します。
すると、この下降流が積乱雲が発達するために必要だった上昇流を打ち消してしまいます。
こうして次第に積乱雲の勢力が弱まり、最後には消えてしまうのです。
つまり、積乱雲は強い上昇流によって成長し、雨が降ることで下降流が発生して衰弱していくというわけです。

このように積乱雲単体の寿命は1時間程度なのですが、集中豪雨では土砂降りの雨が数時間続きます。
これはなぜなのでしょうか。
それは「積乱雲の世代交代」が行われているからです。

たとえば、地面の近く(下層)で温かく湿った風がずっと山や前線に向かって吹きつけていれば、上昇流が発生し続けます。このとき、地面から3kmほど上空(中層)の風が、地面近くの風と同じ方向に吹き続けると、衰弱した積乱雲は風下の方に流されていきます。
こうして、イキのいい積乱雲が同じところでずっと発生し続けてしまい、長時間大雨が降り続くことになってしまうのです。

なお、このような線状降水帯のタイプは「バックビルディング型」と呼ばれるもので、線状降水帯にはほかにも、積乱雲を発生させる下層の風と、積乱雲を移動させる中層の風の風向きが約90°の場合に発生する「バックアンドサイドビルディング型」や、下層の風と中層の風がぶつかり合うように吹くと発生する「スコールライン型」があります。

線状降水帯が特に危険視されるのは、線状降水帯が移動せずにその場で停滞する場合です。
先ほど挙げた線状降水帯の3つのタイプの中でも、集中豪雨をもたらすのはほとんどが「バックビルディング型」と「バックアンドサイドビルディング型」なのですが、それはこのふたつのタイプが積乱雲が同じ場所にできやすいものだからです。

西日本だけに発生するわけではない
なお、線状降水帯はなにも梅雨末期だけしか登場しないわけではありませんし、西日本にしか発生しないわけでもありません。
たとえば2015年の9月に鬼怒川が氾濫した関東・東北豪雨も、線状降水帯が次々と発生したことがわかっています。
このときは、台風から変化した温帯低気圧と、それとは別の台風によって発生しました。
つまり、梅雨が明けたら安心だとか、東日本に住んでいるから安心というわけではないのです。

もっと詳しく線状降水帯のことを知りたいのであれば、JAMSTEC(国立研究開発法人海洋研究開発機構)のホームページに掲載された茂木耕作副主任研究員による「線状降水帯の停滞が豪雨災害を引き起こす」というコラムがオススメ。
このコラムでは球磨川の氾濫を引き起こした今年の7月3日や4日の集中豪雨の原因や、なぜ線状降水帯が動かなかったかについて考察されています。

茂木研究員は、今年に限らず、以前から線状降水帯が発生しやすい季節にコラムを執筆し、ホームページで発信してきました。
それはなぜなのか尋ねたところ、「線状降水帯という言葉をもっと広めたい」という気持ちが発信の原動力になっているとの答えがありました。
「線状降水帯という言葉がメディアに登場したのは、私の記憶でいうと8年ほど前からだったのですが、しばらくはなかなか広まりませんでした。
毎年この言葉を発信し続けてきたこともあり、この2〜3年ほどでようやく線状降水帯という言葉が一般の人々の会話にも出てくるようになってきたと実感しています」(茂木研究員)

なぜ、線状降水帯という言葉を広めたいのか。
それは、1人1人の防災意識を高めてほしいという気持ちがあるからと言います。
「大雨が降る前に、天気予報では降水確率がいくらになりそうだとか、予想降水量が何ミリになりそうかなどを伝えますよね。
でもこの数字だけを聞くと、どうしても他人事な受け止め方になってしまいがちです。
だから、避難指示が出ても避難しない人が出てしまう。
でも、線状降水帯という言葉が浸透すれば、雨が降るとレーダーの観測結果を見るようになると思うんです。
もし、自分のいる場所付近で赤や黄色の線が出ていて、それがしばらく動かなさそうなら、『これはまずい』と直感でわかります。
そして、どうしようかを自分の頭で考えるようになります。
そうやって状況を自分事としてとらえ、主体的に動けるようになってほしい」(茂木研究員)

15時間先までの降水量分布がわかるサイト では、事前に線状降水帯をチェックするにはどうすればよいのでしょうか。
まずは、気象庁ホームページの「今後の雨(降水短時間予報)」をブックマークしておくことをおすすめします。
このページには、レーダーとアメダスなどから観測した降水量分布が表示されています。
15時間先までの降水量分布がわかるため、この先自分の住んでいる地域に線状降水帯がかかりつづけるのかどうかがわかるのです。
そのうえで、実際に雨が降りだしたら、「今後の雨(降水短時間予報)」の隣のタブの「雨雲の動き(高解像度降水ナウキャスト)」や「危険度分布」もチェックしましょう。

「雨雲の動き」では1時間先までの降水の状況がよりきめこまかに表示されますし、雨雲が今後どの方向に動いていくかもわかります。
もし、雨雲がしばらく動かないのなら、それはとても危険な状態になるということが、想像がつくわけです。
さらに、「危険度分布」では自分の近くの場所の洪水・浸水・土砂災害の危険度が色分けされて表示されます。
自分のいる場所付近の色を見れば、そこが危険かどうかもすぐにわかります。

大雨災害は、地震と違って事前に予測できるため、適切な行動をとれば命を守ることにつながります。
命を守るコツは、自分から主体的に情報を取りに行き、自分の頭で状況を判断して、適切な行動をとれるようになることです。
そのためにも気象用語に敏感になり、危険な情報を示す言葉を耳にしたら気象情報をこまめにチェックする習慣を身につけてほしいと思います。
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 🌁 | Comment(4) | 健康・生活・医療 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする