「死んでも睡眠は削るな!」コロナ禍に精神科医が断言するワケ
2020.7.22 ダイヤモンドオンライン
樺沢 紫苑:精神科医、作家
コロナ禍や自粛生活などの「環境の変化」により、多くの人が将来への不安を抱え、「大きなストレス」を感じています。 ストレスを溜め込みすぎると、体調を崩したり、うつなどのメンタル疾患に陥ってしまいます。
「眠れない」を放置するリスク
そもそも、「眠りの質が悪い」とはどういうことでしょうか。
脳と体には「睡眠」というシステムがあります。
疲労回復、免疫力アップ、新陳代謝、細胞修復、脳内の情報の整理などの役割を持ちます。
睡眠は生物にとって絶対に必要な機能なのです。
「眠れない」というのは、生物にとってかなりの異常事態です。
不規則な生活やストレスなどによって、「正常な睡眠機能」が破綻したということです。
人間の体には、「自然治癒力」が備わっています。
昼もある程度働きますが、免疫活動が活発になる「睡眠中」にこそ自然治癒力は働きます。
睡眠時間が短かったり、睡眠の質が悪かったりすると、自然治癒ができず、やがて「病気」を発症します。
「眠れない」というのは体からの「警告」です。
その警告に耳を傾け、不摂生な要素を取り除かないと、あなたはメンタル疾患や心筋梗塞、脳卒中などの身体疾患、あるいは突然死や過労死のリスクを抱えることになります。
「眠れない」は、「健康」と「病気」の中間、「未病」の状態なのです。
慢性的な不眠を抱えている人といい睡眠がとれている人とでは、うつ病の発症率は40倍の違いがあります。
認知症のリスクの差は5倍にもなります。
あらためて、質の悪い睡眠を放置すると、極めて高い確率で病気になることを知っておきましょう。
逆にいうと、生活習慣さえ改善すれば、健康で長生きができるのです。
睡眠不足の3大デメリット
睡眠不足が健康に悪いというのは知っていても、本当の睡眠不足の恐ろしさを多くの人は知りません。
睡眠不足のデメリットは、大きくまとめると3つあります。
(1)病気になる(寿命が縮む)
睡眠不足による病気のリスクを、たくさんの研究が示しています。
睡眠6時間以下の人は、そうでない人と比べて、がんが6倍、脳卒中が4倍、心筋梗塞が3倍、高血圧が2倍、糖尿病が3倍、風邪が5倍のリスクです。
死亡率が5.6倍も上がるという研究もあります。
健康に悪い生活習慣は「喫煙」が一般常識ですが、「喫煙よりも睡眠不足のほうが健康に悪い」と主張する研究者も多くいます。
若い頃は大丈夫と思っていても、そのときの睡眠不足が、10〜20年してから「生活習慣病」としてあらわれてきます。
(2)仕事のパフォーマンスが下がる
睡眠不足の人は気づいていませんが、睡眠を削ると脳のパフォーマンスは劇的に下がります。
6時間睡眠を14日間続けると丸2日徹夜したのと同程度の認知機能になります。
つまり、毎日6時間睡眠を続けている人は、「毎日徹夜明けで仕事をしている状態」で仕事をしているということです。
睡眠を削ると、集中力、注意力、判断力、実行機能、即時記憶、作業記憶、数量的能力、数学能力、論理的推論能力、気分、感情など、ほとんどすべての脳機能が低下することが明らかになっています。
睡眠不足の人は、本来持つ能力の3〜5割減くらいの能力で、毎日仕事をしているのです。
(3)太りやすくなる
「睡眠を削ると太る」というリスクもあります。
ダイエットを失敗する人が多いのは、睡眠不足の状態でダイエットをしているからです。
睡眠時間と肥満についての研究では、睡眠時間5〜6時間で1.2倍、4〜5時間で1.5倍、4時間以下では1.7倍も太りやすくなるそうです。
「睡眠不足の人は、1日385キロカロリー余計に摂取している」というデータもあります。
睡眠不足の人は、猛烈に食欲がアップします。
睡眠不足によって、食欲増進ホルモンのグレリンの分泌が増え、食欲抑制ホルモンのレプチンが減り、ショ糖、脂肪、ジャンクフードの摂取欲求が増えます。
食欲が増え、甘い物や油っぽいものを食べたくなるのです。
睡眠不足になると、体は「危険性」を感じて、必死でエネルギーを蓄えようとするのです。
痩せたければ、「ダイエット」の前に「睡眠」です。
必要な睡眠は「何時間」なのか
さまざまな研究とデータがあるのですが、必要な睡眠時間は、質のいい睡眠を「7時間以上」というのがひとつの答えです。 カリフォルニア大学の睡眠時間と死亡率を調べた研究によると、睡眠時間「6〜7時間半」の人が、最も長生きをしています。それより睡眠時間が短くなると、死亡率が高まります。
睡眠時間と死亡率の関係は、V字形となります。 厚労省の調査では、40代の約半数が睡眠6時間未満で、5人に1人が睡眠に関する悩みを抱え、20人に1人が睡眠薬を服用しているのが現実です。
多くの日本人にとって、睡眠は深刻な問題です。
7時間以上の睡眠を確保しましょう。
「睡眠ファースト」で1週間を過ごそう
睡眠不足の自覚がある人は、「睡眠時間を1時間だけ増やすこと」からはじめるといいでしょう。
「1週間だけ」でいいので、いつもより1時間早く寝て、1時間睡眠を増やしてみる。
スマホ、テレビ、ゲームなどの余暇時間を削ったり、掃除や洗濯などの家事を少々サボってでも、睡眠時間を増やします。
たった1時間増やすだけで脳の機能は著しく改善します。
仕事のパフォーマンスは上がり、生産性は上がります。
仕事が早く切り上げられるようになれば、そこでさらに睡眠時間が確保しやすくなるでしょう。