自民党が今後も常に与党で、公約泥棒も失政も許されるなら、独裁国と変わらない
2020年08月03日 SPA!
【倉山 満】憲政史研究家
◆自民党が今後も常に与党で、公約泥棒も失政も許されるなら、独裁国と変わらない
この御方、憲政史上最低の野党党首を目指しているのか。
枝野幸男のことだ。
この御仁、現在の野党第一党たる立憲民主党の代表である。
昨年の参議院選挙で与党が「増税」を掲げたにもかかわらず、勝利を許した。
全野党が「増税反対」で結束したにもかかわらず、最後まで抵抗した。
渋々「増税反対」の旗を掲げるのに納得したが、その時には大勢は決していた。
自民党勝利の立役者である。
その枝野立民が野党第二党の国民民主党に合併を呼び掛けている。
その条件は三つ、「党名は立憲民主党、党首はオレ、政策は後で決める」である。
これでは無条件降伏を迫っているに等しいではないか。
国民民主党は第三党で、実は公明党よりも議席が多い。
しかも組織と資金に恵まれている。
枝野氏は「自民党に対抗できる野党共闘」を理由に合併を呼び掛けているが、要するに体のいいカツアゲだ。
ありていに言えば、国民民主党の金と票が欲しいだけだ。
そんな話に乗ったが最後、国民民主党の議員など「奴隷」か「謀反人」の如き扱いをされるに決まっている。
その証拠に、山尾志桜里衆議院議員や須藤元気参議院議員は、立民幹部の専横に嫌気がさして党を出て行った。
中堅若手の間では、不満が爆発寸前と伝わる。
そんな「枝野新党」に何の魅力があるのか。
それでも、枝野幸男党首の新党が政権を奪取し、国民を幸せにしてくれるなら我慢もできよう。
しかし、そのようなファンタジー、よほどの枝野信者以外に信じる人間などおるまい。
ちなみに、この世には「枝野信者」が実在するらしいが、幻想と現実の区別がつかないから信者などやっていられるのだ。
昨年の消費増税に伴う景気の悪化に加え、いつまで続けるか先の見えないコロナ騒動だ。
もはや国民は自民党に限界だ。
だが、立憲民主党はもっと絶望的だ。
どこに選択肢があるのか。
この局面で正論を吐いている人物がいる。
国民民主党の玉木雄一郎代表だ。
玉木氏は昨年の参議院選挙後に「私は生まれ変わった」と宣言、確かに正論を吐き続けている。
記憶に新しい国民一律給付金10万円も、最初に言い出したのは玉木氏だ。
経済にしても安全保障にしても、口の悪い向きからすらも「最近の玉木は違う」との評価が聞こえてくる。
ちなみに御本人にインタビューすると、「もともとの本音を言っているだけ」とのことだったが。
野党界隈で言論の自由が無いのは、容易に想像できる。
定型文のような安倍批判を続ければ一定の支持を得られて野党第一党ではいられるのだが、絶対に自民党は倒せない。
しかし、それで満足な連中が旧民主党以来の中枢を占める。
だから、安倍内閣に国政選挙で6連勝など許し、全く反省がないまま同じ戦い方をしているのだ。
そして、従来の野党は、よりによって安倍内閣の正しいことだけを批判してきた。
他にいくらでも攻撃材料などあるにもかかわらず。
こうした中で、玉木代表がコロナ騒動での不手際に対し正論をぶつけ、次の選挙を「減税」で戦おうとしているのは明らかに正しい。
ここで昔のイギリスの政治家なら、「玉木君、君は正論を言い続けてきた。あなたを総理大臣候補として戦うのが正しい」と野党幹部がこぞって推戴しただろう。
しかし、枝野幸男とその取り巻きに英国流の紳士を求めても、無駄か。
むしろ、「減税」に反応しているのは、自民党だ。
今の支持率が下がりっぱなしでレイムダックの安倍内閣で選挙をしたい人など、少数だろう。
だが、自民党の本音は「枝野なら勝てる!」だ。
これだけの失政を重ねても、「枝野がマトモな野党の出現を阻止してくれる」という、自民党にとっての大いなる希望が存在するのだ。
そして、戦術的には、「野党がまとまらない内に解散」を仕掛けたい。
早い内に安倍首相を降ろし、新内閣がボロを出さない内に選挙を終えてしまいたい。
そして、最も勝ちやすい旗印は減税だ。
ここまで増税で国民を苦しめてきた自民党が、何を減税か。
常識で考えれば、選挙民への裏切りである。
選挙に負けるのが怖いからと反対党の公約を奪うなど、卑劣である。
しかし、これまでは「マトモな野党が無い」で自民党は許されてきたし、このままだと何も変わらないだろう。
◆もし現代で憲政の常道に従うなら、安倍内閣は総辞職、自民党は下野、「玉木選挙管理内閣」で解散だ
今後もこのような公約泥棒が横行するようでは、選挙の意味がない。
自民党が常に与党で、いかなる失政も許されるなら、独裁国と変わらない。
それでも、自民党支持者は言う。
「政治は結果責任。選挙は何をやっても勝てばよい。野党に政権を渡して責任を取れるのか」と。
これは、憲法政治の母国のイギリスでは、19世紀に否定された考え方だ。
時のロバート・ピール首相はそれまでの政策を変えて、反対党の公約を訴えた。
これに異を唱えたのが与党一年生議員のベンジャミン・ディズレーリだ。
ディズレーリはピールに向かって「公約泥棒は風呂で他人の衣服を盗むのと同じだ!」とまで演説し、遂に政権が倒れた。
政策に失敗したら与党は下野し、反対党に政権を譲り渡す。こうした慣例は我が国でも昭和初期に、「憲政の常道」として確立された。
その際、第二党が政権を担うので少数与党だ。
議会運営はままならない。
だから1年以内に総選挙が行われ、政権の信を問うというメカニズムが働く。
政策に失敗した政党が与党に居座り、人気が回復した時に解散総選挙を行って良いなどという考え方は、戦前の日本には無かった。
もし現代で憲政の常道に従うなら、どうすべきか。
安倍内閣は総辞職、自民党は下野し、「玉木雄一郎選挙管理内閣」で解散を行うべきだ。
現実にはそんな事態になるはずがないが、少なくとも自民党に「減税」を語る資格が無いとだけは言っておく。
さて、属人的な話を離れて、「選択したりうる野党」の条件を述べる。
第一は、魅力ある党首だ。「この人を総理大臣にしたい」と国民に期待させる政治家でなければならない。
第二は、主要政策の一致だ。それは今の状況では「減税」による景気回復しかない。
第三は、自民党を総選挙で2回負かすまでは仲間割れをしないことだ。
自民党は連続2回負けたことが無いから、簡単に復活してきた。
国民は選択肢を求めるべきだ。
―[言論ストロングスタイル]―