被爆75年「核なき世界」は、いつか 被爆者平均年齢83.31歳
2020年8月6日 毎日新聞【小山美砂】
太平洋戦争末期の1945年8月、米軍によって原爆を投下された広島は6日、被爆から75年を迎えた。
人類史上初の核攻撃から四半世紀を三たび重ねた今も、被爆者が訴え続けてきた「核なき世界」は実現できていない。
米中露による軍拡競争再燃への懸念が広がり、新型コロナウイルスの感染拡大を背景に国家間の対立も強まる。
広島市中区の平和記念公園では午前8時から平和記念式典が営まれ、松井一実市長が平和宣言で核兵器廃絶に向け、世界に連帯を呼びかける。
厚生労働省によると、広島と長崎で被爆し、被爆者健康手帳を交付された人は3月末時点で13万6682人。
80年度末の37万2264人をピークに減少し、2013年度末に20万人を割り込んだ。
平均年齢は83・31歳に達した。
高齢の被爆者らに共通するのは「生きている間に核廃絶を」という切実な願いだ。
「残された時間が少ない」という焦りから、証言を始めた人もいる。
「被爆者による実質的に最後の訴えになる」と被爆者団体は核兵器廃絶を求める署名活動に力を入れ、1184万筆を集めた。
3年前に国連で採択された核兵器禁止条約の早期発効に向け、4月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議で提出予定だったが、コロナ禍で会議が延期になり、活動も足踏みを余儀なくされた。
始まって63年が経過した被爆者援護も課題が残る。
原爆投下直後に降った「黒い雨」を浴びたのに国の援護対象から外れた住民ら84人を被爆者と認定し、広島県・市に被爆者健康手帳の交付を命じる判決が広島地裁で出された。
県・市が控訴するかどうかの判断は、政府に委ねられている。
75年を四半世紀ごとに振り返ると、被爆25年(70年)は米ソ冷戦下の軍拡競争の中にあり、冷戦終結後に迎えた被爆50年(95年)は軍縮への期待も広がった。
核兵器禁止条約の批准国は発効要件の50に近づいているものの、米露間の中距離核戦力(INF)全廃条約は19年に失効し、21年2月に期限が迫る新戦略兵器削減条約(新START)の延長も不透明だ。
北朝鮮やイランの問題の解決も見通せず、核軍縮や核不拡散の「冬の時代」を迎えている。
原爆死没者名簿には8月5日までの1年で4943人が新たに加えられた。
全部で32万4129人の名前が記された名簿は、6日の記念式典で平和への願いとともに慰霊碑に収められる。