2020年08月07日

あやしいがん治療が日本でなくならない理由

あやしいがん治療が日本でなくならない理由
『世界中の医学研究を徹底的に比較してわかった最高のがん治療』著者・勝俣範之インタビュー
2020.8.6  ダイヤモンド社書籍編集局

日本では「トンデモ医療」の 情報が規制されていない
――『最高のがん治療』は、がん治療の専門医・勝俣範之先生と、新薬開発の研究者・大須賀覚先生、医療データ分析の専門家・津川友介先生の3人の共著ですね。
なぜこの3人で本を書くことになったのでしょうか?

勝俣範之(以下、勝俣)
 津川先生も大須賀先生も、日本にがんについての正しい情報が少ないことをずっと懸念されていました。
それは私もまったく同じで、以前、津川先生と対談したときに、「正しいがん情報を伝えたいですね」という話になったんです。
その後、津川先生から連絡をいただいて、「正しいがん情報だけまとめた教科書のような本を大須賀先生と3人で作りましょう」と。
そこから話がはじまりました。

――日本にはがん情報があふれていますが、それはほとんど正しくないと?

勝俣 
 特に一般向けの情報はそうですね。
新聞、テレビ、書籍、ネットの情報も含めて、日本のメディアのがん情報はひどいものですよ。
「こうすればがんが治る」、「こうすればがんが消える」といった「トンデモ医療」が多くて、どこもそれを規制しませんから、よっぽど悪質でない限り問題になりません。
新聞の全国紙でさえも、がん治療のトンデモ広告を一面に載せているのが現状です。

――よくあるトンデモ医療に、「糖質を摂取しなければがんが小さくなる」、「にんじんジュースには抗がん作用がある」、「オゾン療法(血液クレンジング)はがんの予防・再発防止に有効」といったものがあると本の冒頭にも出てきます。

勝俣
 それはほんの一部です。
他にもあやしい治療法が日本のメディアで広められています。
海外では、医療情報はかなり厳しく規制されているので、比較的まともです。
命に関わることですから。グーグルの検索画面で間違ったがん情報がトップ画面に出ないようにしていますし、怪しげな医療の広告も載りません。
一方日本では、「がん治療」と検索すると、怪しげな医療情報や、怪しげな医療広告のリンクがたくさん出てきます。

――つまり、それだけ一般に向けて正しい情報を発信するメディアや機関が少ないわけですね。

勝俣
 トンデモ医療が増える一番の原因は、そのほうが注目されやすいからです。
トンデモ医療は基本的に、都合がよく、わかりやすく、センセーショナルで意外性があるという特徴を持っています。
がんを治したい人、がんになりたくない人の弱みにつけこんで、ワラにもすがる人たちが飛びつきやすい情報を垂れ流しているのです。
 医療の世界も例外ではありません。
効果が証明されていない治療法を「自由診療」として医師が提供して、数十万円から数百万円単位の高額な治療費を請求しているケースが非常に多いんですね。

――本では、「自由診療」の代表的なものとしてビタミンC療法を挙げています。
でも、長年の研究で有効性はまったく証明されていない(注1)と知って驚きました。
アメリカの政府機関である食品医薬品局(FDA)は、ビタミンC療法を行っている施設は違法だと注意喚起をしている(注2)そうですが、日本は野放しですよね。

注1 Jacobs C, Hutton B, Ng T, Shorr R, Clemons M (2015) “Is there a role for oral or intravenous ascorbate (vitamin C) in treating patients with cancer? A systematic review,” Oncologist; 20(2): 210-23.
注2 FDA, Warning Letter https://www.fda.gov/inspections-compliance-enforcement-and-criminalinvestigations/ warning-letters/vitamin-c-foundation-514071-04172017

勝俣
 そうなんです。
本にも書きましたが、インターネットで検索すると、300件以上のクリニックが、がんのビタミンC療法をやっていることがわかります。
海外先進諸国では基本的に、根拠のない治療を医師が勝手に自費でがん患者さんに投与することは厳しく規制されています。日本のこの現状はかなり異常だと言わざるを得ません。
がんに直接効果があると 証明された民間療法はひとつもない

――ほかにも医師によって提供されない「民間療法」も本で問題視しています。
健康食品、サプリメント、ヨガ、漢方薬、鍼灸などは、信じて続けている人もいます。
でも、がんに直接治療効果があると証明された民間療法は、本のデータによるとたったのひとつもないんですね……(注3)。

注3 日本緩和医療学会『がんの補完代替療法、クリニカル・エビデンス』金原出版、2016年版

勝俣
 本当にがんに効くのだったら、われわれ医師がまず提供していますよ。
世の中には、「がんに効く」とうたっている治療法が何百とあります。
その中で、我々のようながん治療の専門医が提供している「標準治療」、つまり保険が適用される治療法というのは、どれだけ厳しいプロセスを経て世界で承認されているか、知っていますか?

――たしか本には、マウスなどを使った細胞実験から、実際のがん患者さんの臨床試験まで、効果がきちんと証明された薬は1万個に1個ほど(注4)と書いてありました。

注4 United States Government Accountability Office (2006) “NEW DRUG DEVELOPMENT: Science, Business, Regulatory, and Intellectual Property Issues Cited as Hampering Drug Development Efforts.”

勝俣
 正解です。
スポーツ選手でいえば、全国大会で活躍したようなスーパーエリートしか、「標準治療」の薬として認められていないんですね。
現在標準治療として認められている抗がん剤は、何十年もの間、研究者が競い合うように実験したなかで残ったものしか使われていません。
割合にすると0.01%ですが、現在までに承認された抗がん剤は、150種類ほどになります。
ですから、科学的に有効性が認められていない高額なトンデモ医療を受けるのは、よい選択肢とはいえないんですよ。
教育レベルと収入が高い人ほど トンデモ医療を信じる傾向がある

――本を読んでさらに驚いたのは、教育レベルと収入が高い人ほど、トンデモ医療を信じる傾向がある(注5)ということです。

注5 Johnson SB, Park HS, Gross CP, Yu JB (2018) “Use of Alternative Medicine for Cancer and Its Impact on Survival,” J Natl Cancer Inst; 110(1), 121-4.

勝俣
 教育レベルと収入が高い人ほど、「自分はたくさん調べているから大丈夫だ」、「知識はあるから自分で判断できる」と思ってしまう傾向があります。
本やインターネットを調べていくうちに、間違った情報やがん経験者の極端な体験談にどんどん触れてしまい、次第にトンデモ医療を受け入れてしまうのです。
 逆に、自分は何もわからないし、お金もないから、医師のアドバイスに従うしかないと思っている人は、保険適用で標準治療を受ける人が多いです。
標準医療を受けた患者さんと、代替医療のみを受けた患者さんを比較したら、代替医療を受けた患者さんのほうが生存率が低いというデータも出ていますからね(注5、図表1)

――では、本で紹介されている標準治療の、「がんを摘出する手術」、「放射線治療」、「抗がん剤治療」の三大治療さえしっかり受ければいいと?

勝俣
 基本的にはそうなんですが、知っておいてほしいのは、これらの三大治療を受ければ、必ず治るということではありません。
最善の治療が三大治療というわけです。
また、治す治療には限界もあるということです。
 しかし今では、治すことは難しくとも、共存できる時代になっています。
緩和ケアも標準治療の一つであることは、あまり知られていません。
一部のがんには、延命効果も示されています(注6)。
また、緩和ケアは、患者さんの生活の質を高めるためには必須の療法です。
緩和ケアを受けながら、がんとうまく付き合い、うまく共存を目指し、正しく向き合ってほしいと思います。

注6 Temel JS, Greer JA, Muzikansky A, Gallagher ER, Admane S, Jackson VA, Dahlin CM, Blinderman CD, Jacobsen J, Pirl WF, Billings JA, Lynch TJ (2010), “Early palliative care for patients with metastatic non-small-cell lung cancer,” N Engl J Med; 363(8): 733-42.

トンデモ医療を見分けるには どうしたらいいか
――なぜ日本には、専門的な正しい知識を発信する人が少ないのでしょうか。

勝俣
 一般の方向けに専門的な知識をわかりやすく伝えるのが、非常に難しいからです。
医療の世界では、「こうすれば治る」「この治療法で大丈夫」と簡単に言い切れない、不確定な要素が多いんです。
専門医は、情報発信のプロではないですから、わかりやすく伝えるのは難しいことなんですね。
 がん治療は、まだまだ難しく不確実なことも多いので、一般の方やがん患者さんが不安を募らせるのも無理はありません。そういった際には、耳に優しく聞こえる安易な「こうすれば治る」「〇〇治療で必ずよくなる」といった情報には少し慎重になるべきだと思います。
 あと、信頼できる情報源かどうかを確認することが重要です。
人の口コミ情報などは、それがたとえどこかの大学教授が言ったことであったとしても、特定の個人による言葉だけでは、信頼性は乏しいです。
国立がんセンターなどの公的機関の発信する情報や、学会の発信するガイドラインなどの情報を確認するのがよいと思います。

――では、日本で正しいがん情報を入手したいときは、本で紹介されている国立がん研究センターの「がん情報サービス」(注7)をはじめとした情報源を確認すればいいわけですね。

注7 国立がん研究センター「がん情報サービス」 https://ganjoho.jp/public/index.html

勝俣
 基本的にはそうです。
『最高のがん治療』で紹介している情報源はどれも、がん治療について科学的根拠にもとづいた解説をしています。
 インターネットにはよく、「私は〇〇を飲んだらがんが良くなった」などの、個人の体験談が載せられているのを見かけます。
こうした口コミ情報や体験談の情報には注意が必要です。
がんの種類やタイプ、治り方はそれこそ千差万別で、人それぞれです。
 個人の体験談というのは、本当にその治療法に効果があったかどうかは、厳密にはわかりません。
その治療をやらなくても自然によくなったかもしれないし、他のがんの治療と併用していてその効果なのかもしれない。
「効果があった」という事実がそもそもでまかせだった可能性もある。
本当に効果があったかどうかを証明するには、個人の体験談レベルというのは非常に科学的な信頼性が低いということなんです。
 一方、「標準治療」で使われている抗がん剤は、厳しく評価する臨床試験を何段階も重ねます。
最後には、新治療とこれまでの標準治療とをランダムに割り付けて、長期間の効果を第三者が厳密に評価する臨床試験(臨床第三相試験、ランダム化比較試験とも言います)によって、効果が正確に評価されたものしか使われません。
その違いをぜひ知っておいてほしいと思います。

『世界中の医学研究を徹底的に比較してわかった 最高のがん治療』著者からのメッセージ

『世界中の医学研究を徹底的に比較してわかった最高のがん治療』
津川友介、勝俣範之、大須賀覚 著
定価(本体1500円+税)ダイヤモンド社刊

 がんを治せるなら、いくらお金を出してもいいと思っている方はたくさんいるでしょう。
残念なことに、そこにつけ込んで怪しい治療法をがん患者さんに売りつける業者が実際に存在します。
それだけでなく、手術や抗がん剤治療などの有効な治療法を悪く言うことで、怪しい治療法を信じ込ませようとさえします。

 そのような状況を少しでもよくしようと思い、『世界中の医学研究を徹底的に比較してわかった最高のがん治療』を書くことにしました。
 がんの専門家の間には、世界中の医学研究を徹底的に比較してわかった、現時点でがんに最も効果が期待できる治療法が共有されています。
その治療法をやさしく解説することが、本書の目的です。

 なぜ「現時点でがんに最も効果が期待できる」と言い切れるのか、根拠に触れながらわかりやすく解説するので、きっと納得していただけると思います。治療法だけでなく、食事との関係、発生原因、情報の見分け方、検診、予防法に関してもご説明します。
一読すれば、がんについての必要な情報がひととおりわかるようになるでしょう。  

「がんは国民病」と言われているのに、学校ではがんについて十分に習うことはありません。
最低限の知識がなければ、だまされてしまうのも無理のないことです。
学校では習わないけれど、皆さまに知ってほしいとても大事なことがある。
そう思いながら、この1冊を書き上げました。
 この本を読んでいただくことで、間違った情報で苦しむ方が1人でも多く減るのであれば、これに勝る喜びはありません。
posted by 小だぬき at 01:00 | 神奈川 ☁ | Comment(4) | 健康・生活・医療 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

広島市長「日本は核兵器禁止条約の締約国に」 75回目の原爆の日

広島市長「日本は核兵器禁止条約の締約国に」 75回目の原爆の日
2020年8月6日 毎日新聞【小山美砂】

 広島は6日、米軍による原爆投下から75回目の「原爆の日」を迎え、広島市中区の平和記念公園で平和記念式典が開かれた。

松井一実市長は平和宣言で、新型コロナウイルスの感染拡大による自国第一主義の台頭に懸念を示し、核兵器廃絶と世界平和の実現に向け、連帯を呼びかけた。
日本政府には昨年に続き、被爆者の思いを受け止め、3年前に国連で採択されたものの未発効となっている核兵器禁止条約の「締約国」になるよう求めた。

 式典は、新型コロナ対策で参列者を例年の1割に満たない約800人に限定して午前8時から開かれ、83カ国や欧州連合(EU)代表部の駐日大使らが出席した。

核保有5大国は中国を除く米露英仏が参列し、原爆が投下された午前8時15分に合わせて1分間の黙とうをささげた。

 平和宣言で松井市長は、約100年前にスペイン風邪が流行したのち国家主義が台頭し、第二次大戦から原爆投下に至ったと指摘。
「自国第一主義によることなく、『連帯』して脅威に立ち向かわなければならない」と訴えた。
 そのうえで「広島には核兵器廃絶と世界恒久平和の実現に向けて連帯することを市民社会の総意にしていく責務がある」と表明。
50年前に発効した核拡散防止条約(NPT)と、核兵器禁止条約について「この枠組みを有効に機能させるための決意を固めるべきだ」と世界の指導者に呼びかけた。
また、被爆者支援の充実に言及し、日本政府に原爆投下直後に降った「黒い雨」の援護拡大に向けた「政治判断を改めて強く求める」と述べた。

 安倍晋三首相はあいさつで核兵器禁止条約と黒い雨の援護拡大には言及せず「核兵器のない世界の実現に向けた国際社会の取り組みをリードする」「高齢化が進む被爆者に寄り添い、総合的な援護施策を推進する」と述べるにとどめた。

 式典では、新型コロナの影響で来日を取りやめたアントニオ・グテレス国連事務総長が「核兵器の危険を完全に排除する唯一の方法は、核兵器を完全に廃絶することだ」と語るビデオメッセージも紹介された。

 広島市の小学生から選ばれた子ども代表、市立矢野南小6年の大森駿佑さん(12)と市立安北小6年の長倉菜摘さん(12)は「人間の手によって作られた核兵器をなくすのに必要なのは、私たち人間の意思です。
私たちの未来に、核兵器は必要ありません」と訴えた。

 松井市長と遺族代表は式典で、この1年間で死亡が確認された4943人の名前が記された原爆死没者名簿を原爆慰霊碑下の奉安箱に納めた。
名簿119冊に記帳された人数は全部で32万4129人となった。
被爆者健康手帳の所持者は3月末現在で過去最少の13万6682人となり、平均年齢は83・31歳に達している。
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☀ | Comment(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする