2020年08月22日

激しいバッシングに自粛警察。コロナ禍に露呈した日本の「同調圧力」とは

激しいバッシングに自粛警察。コロナ禍に露呈した日本の「同調圧力」とは
8/21(金) mi-molleto(ミモレ)

コロナという未知のウイルスへの恐怖、一人ひとりに責任がのしかかった自粛要請。
高い緊張状態は夏になった今もなお続き、日々の不安は尽きることはありません。
ウイルスそのものはもちろん、コロナ禍の「他人の目」が気になるという人も少なくないはずです。
普通の暮らしすら萎縮させてしまう自粛警察による圧力、熾烈化するバッシングなど、コロナの二次被害ともいえる現象はなぜ生まれてしまうのでしょうか。
作家の鴻上尚史さんと、世間学などを専門とする学者の佐藤直樹さんの共著『同調圧力 日本社会はなぜ息苦しいのか』によれば、日本独自の「同調圧力」が原因だと言います。
未曾有のコロナ禍、冷静さを取り戻すための一助となる本書から、対談の一部を特別に抜粋してご紹介します。(本文中敬称略)

鴻上
 2020年の前半はコロナ禍によってさまざまな風景が現れました。
「自粛警察」「マスク警察」といった言葉に代表される、監視や排除の心情、あるいは差別と偏見。
そうしたものが一気に炙り出されたと思います。
なかでも、より分かりやすいかたちで可視化されたのが、日本社会の同調圧力だったのではないでしょうか。
コロナが怖い、確かにその通りなのですが、それ以上に、何かを強いられることが、そして異論が許されない状況にあることが、何よりも怖い。

佐藤
 もちろんどこの国も極限状態にありますから、それなりに同調圧力はあると思います。
けれども程度のひどさという点で、日本は突出している。
海外ではコロナ禍にあっても、ロックダウン反対などの大規模なデモがくりかえされるわけです。
堂々と国の方針に逆らい、異論をぶつける人も少なくない。
日本はどうでしょう。
「ルールを守れ」「非常時だから自粛しろ」といった多数の声、つまりは同調圧力によって、異論が封じられています。
感染者のプライバシーまで暴かれる始末です。

鴻上 
日本では欧米のような「命令」も「ロックダウン」もありませんでした。
市民に対しては「外出自粛」、商店や企業に対しては「休業要請」です。
ある意味、ゆるい。ゆるいけれども、多くの人びとはそれに従い、従わない者が白眼視されていきます。
「空気を読め」といった感覚に支配されています。

佐藤
 海外、特に欧米は厳しい対応をしました。
外出禁止命令を出し、マスクの着用も義務付け、違反に対してそれなりの罰則を設けた国も少なくない。
法を整備し、ルールをつくり、罰則も定め、しかし、同時に補償も用意するわけです。
命令と補償がセットになっています。
しかも、政治指導者がそれなりに国民に語りかけ、納得を得ようと努力した。

鴻上
 政治指導者には指導者としての「言葉」がありましたね。
演劇の演出家から見ると、自分の言葉で話しているという説得力がありました。
しかし日本の場合は……。

佐藤
 日本は強制力もなければ補償も明確でない「緊急事態宣言」です。
「自粛」と「要請」ばかりで、海外からも「ゆるすぎる」といった批判がありました。
でも、日本ではこれで充分なんです。
罰則がなくとも、人びとは羊のように大人しいし、従順にこれを受け入れる。

鴻上 
 「要請」ですから、最終的に政府は責任をとらなくてもよいわけです。
イギリスでも当初、政府は劇場の休業を「要請」したんです。
でも、イギリスの演劇人たちは、それでは補償の対象にならないから、はっきりと閉鎖の命令を出してほしいと声を上げました。
これに対し日本は責任を国民に押しつけるシステムです。

佐藤
 しかし、それが意外とうまく機能してしまう。
それを「民度」が高いと考える人もいるのかもしれませんが、実際は、「周囲の目の圧力」、つまりは同調圧力がきわめて強いからですよ。
強制力のない「自粛」や「要請」であっても、それを過剰に忖度し、自主規制する。
まわりが「自粛」し「要請」に従っている場合、それに反することをすれば、「空気読め」という圧力がかけられます。
圧力は人びとの行動を抑制するだけでなく、結果として差別や異質な者の排除にも発展していく。

鴻上
 コロナに感染しただけで何か凶悪事件でも起こしたかのように責められますからね。
社会の中に感染者を差別、排除しようとする強い空気を感じます。
そこには病者への気遣いも同情も見えない。
ウイルスは人を選ばないのだから、誰であっても感染する恐れはありますよね。
本来、頭を下げて謝るようなことではないと思います。

佐藤 
  僕は最近ずっと、加害者家族に対する「バッシング問題」を考えています。
日本では、殺人などの重大犯罪が犯された場合、加害者の家族がひどい差別やバッシングを受けます。
これは、コロナ感染者に対する差別やバッシングと非常によく似ていると思いました。
日本人の間に「犯罪加害者とその家族は同罪」といった意識が浸透しているからです。
加害者家族に対するバッシングとまったく同質の問題が、いま、コロナ禍をきっかけに大挙して噴き出てきたわけです。
感染者やその家族に向けられた差別やバッシングというかたちで。感染者が悪くもないのに謝罪するのも、そうした圧力があるからですね。

鴻上
 感染者の女性がカラオケに行っただの、バーベキューに参加しただの、真偽不明の情報が出回って、バッシングされました。
これまた「親の顔が見てみたい」とまで口にする人がいました。
もう、謝罪するまで許さないという状況が生まれたわけです。
実際、感染してしまった著名人、たとえばニュースキャスターも芸能人も野球選手も、みんな頭を下げました。
「申し訳ない」と。

佐藤
 「世間」の感情が許しませんからね。
迷惑をかけられたと思っているんですよ。
みんな家庭で「他人に迷惑をかけない人間になれ」と言われて育っているんです。
だから他人から迷惑を受けるということについてものすごく過敏なところがある。
それが「世間」のあり方ですから。
日本では、あたかも病気=悪であるかのように、感染者が犯罪者のようにみなされてしまう。
責任があるとは到底思えないのに、感染者やその家族は「世間」への謝罪を強いられるんですね。

鴻上
 自分が迷惑をかけちゃいけないと教えられてきたから、同時に他人の迷惑に対してすごく敏感になる。

佐藤 
  たとえば芸能人が感染したとしても、テレビで見ているだけの人にとっては何も関係がない。
なのに謝罪を求めますよね。
それはね、やはり、自分が迷惑をかけられたと思っているからですよ。
何というか、それまで信じていた芸能人のイメージみたいなものが崩れて、その感情が反転し裏切られたと思って、それがバッシングにつながっていく。

鴻上
 何でこんなに「他人に迷惑をかけるな」という言葉が呪文になったんでしょうね。
だいたい、日本ってコロナどころか普通に風邪ひいて会社を休んだだけでも謝るじゃないですか。
それどころか、バカンスをとっても謝る。
なんて息苦しい社会なんだと思いますね。

息苦しさはあなたに責任があるのではない
佐藤
 すごく興味深い本がありました。
社会学者の岡檀(おか・まゆみ)さんが書いた『生き心地の良い町』(講談社)。
岡さんは日本で最も自殺率の低い徳島県旧海部町(現・海陽町)でフィールドワークをおこない、他の地域にはない「自殺予防因子」を探るんです。
なぜ、この町では自殺者が少ないのか、岡さんはその理由をこう示しています。
まず、人や考え方の多様性が認められていたこと。
どんな人がいてもいい、いるべきだ、といった考え方が町に浸透している。
次に、人物本位主義が生きていること。
職業上の地位、家柄、学歴ではなく、人柄を見て判断するのだという考え方が重んじられている。
そして町民の間に社会参加の意識があること。
もうひとつ、町民がゆるやかにつながっていること。
けっして濃厚で窮屈なつながりではなく、個人と個人が息苦しくならない距離感を保ちながら、連携しているんですね。
これらは、「世間のルール」はあっても、きわめてゆるいものであることを示していると思います。

鴻上
 それは地域の伝統なんですか?

佐藤
 岡さんの推測ですが、材木の集積地として古くからたくさんの他者を受け入れてきたために、地縁血縁が薄い共同体になったのではないかと。
そのなかで相互扶助に力点を置いた“やさしい世間”が歴史的に継承されてきたのではないかと思います。

鴻上
 “失敗の許されない世間”が、その町では育たなかったということですね。

佐藤
 そうなのかもしれません。
つまり、「世間のルール」というものを少しずつゆるめていけば、おそらく自殺も減っていくんじゃないかと思うんです。
だから僕としては、そうした生き方のほうが楽ですよ、ということを訴えたいんです。

鴻上
 そうですよね。
世界は簡単には変わらない。
世間や同調圧力を一気に消し去る特効薬があるわけでもない。
ただ、「楽かもしれない」道を模索することは大事だと思います。

佐藤 
  つまり、息苦しさを与えている「敵」の正体を知るということです。

鴻上
 息苦しさの正体は、あなたを苦しませているものの正体は、まさに世間であり、同調圧力。
それを知ることで、少なくとも自分自身に責任がないことは理解できると思います。
(構成/金澤英恵)


『同調圧力 日本社会はなぜ息苦しいのか』
著者:鴻上尚史、佐藤直樹 講談社 840円(税別)
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☀ | Comment(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする