2020年09月02日

「両院議員総会で総裁選出」は筋が悪すぎる理由

「両院議員総会で総裁選出」は筋が悪すぎる理由
自民党幹部に欠けている総裁選びの重大論点
2020/09/01 東洋経済オンライン
植田 統 : 弁護士、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授

自民党は9月1日の総務会で、党員投票を行わず、両院議員総会で総裁を選出することを決めるようだ。
7年8カ月にわたって政権を運営してきた安倍晋三首相が辞任し、久々に本格的に次期総裁を選出するのに、党員投票を行わないのはなぜなのか。
表向きは「コロナ対応のため政治空白を作らない」ということのようだ。
ただ、党員投票によって、安倍政権の主流派が嫌っていた石破茂氏に勢いがつくのを止めたいのではないか、という見方もある。

しかし、国民の支持が決して高いとはいえない岸田文雄政調会長や菅義偉官房長官が総裁に選出されれば、次回の総選挙で自らの首を絞めることになりかねない。

自民党総裁の決め方はこうなっている
自民党党則は、総裁の公選について、以下のように定めている。

六条 
総裁は、別に定める総裁公選規程により公選する。
2 総裁が任期中に欠けた場合には、原則として、前項の規定により後任の総裁を公選する。
ただし、特に緊急を要するときは、党大会に代わる両院議員総会においてその後任を選任することができる。
3 前項ただし書の規定により総裁を選任する際の選挙人は、両院議員及び都道府県支部連合会代表各三名によるものとする。

総裁公選規程に従えば、国会議員394票と党員票394票の合計788票で争われ、全国100万人の自民党員が投票することになる。
しかし、2項ただし書きの両院議員総会でやるとなると、国会議員394票と都道府県連割当票の141票の合計535票での戦いとなる。

大きな違いは、党員の投票があるかないか、国会議員票の割合がどの程度高くなるか、だ。
両院議員総会を採用すれば、都道府県連割当票が141票あるとはいっても、事実上は国会議員の意向で次期総裁を選出することになる。
長期安定政権を望む国民が多いとみられる中、総裁の選出を簡便な「ただし書き」方式で行ってしまっていいのだろうか。

両院議員総会で選出された総裁は、2000年以降、3人いる。
1人目は、2000年の森喜朗氏。小渕恵三首相が脳梗塞で入院したため、政権幹部の話し合いによって決まり、両院議員総会で無投票選出された。
次は、2007年の福田康夫氏。第1次安倍政権の首相辞任を受けて、選出された。
3人目が、2008年に福田首相の突然の辞任を受けた、麻生太郎氏である。
いずれもほぼ1年の短命の政権。
森、麻生両氏は首相になってから失言が多く、急速に国民の支持を失った。

福田氏は失言こそなかったものの、「福田では選挙を戦えない」という空気が党内に生まれ、1年経つと辞任を表明した。
なぜ、両院議員総会で選出された総裁は短命に終わってしまうのか。
その理由は、いくつか考えられる。

第1に、正式な党員による選挙を経ていないために、総裁・首相としての適格性についての審査が十分に行われていないことだ。
森、麻生両氏に失言が多かったのは、その結果ではないか。
第2に、派閥の数合わせで選出されるため、国民の支持基盤がないこと。
実際に、森氏は総選挙で惨敗。
福田氏は「福田首相では選挙は戦えない」という声が広まり辞任した。
麻生氏に至っては、福田氏の代わりに選挙の顔となるべく首相になったにもかかわらず、総選挙で181議席を失い、民主党に政権を譲り渡すという最悪の結果を残した。

両院議員総会は自民党にとって鬼門
こうして見てくると、両院議員総会による総裁指名は自民党にとって鬼門であると結論づけることができる。
にもかかわらず、両院議員総会で次期総裁を選ぶ必要があるのか。
自民党の言い分は、コロナ対応で政治空白を作ってはならないということだろう。
しかし、これは本当なのだろうか。

安倍首相が辞任会見で語った内容によれば、コロナ第2波はピークアウトに転じ、秋冬へ向けた対策も用意したという。
安倍首相は完全に執務不能になったわけではない。
コロナ対策が始まってから安倍首相は表に出ず、菅官房長官の下、加藤勝信厚労相、西村康稔経済再生担当相を前面に立てて対策を行ってきたのだから、当面この体制でしのぐことができる。
「党員選挙をやるには時間がない」という言い訳は成り立たない。

では、なぜ自民党は両院議員総会にこだわるのか。
巷で言われているように、自民党幹部は石破氏に総裁にならせたくないからではないか。
石破氏が政権批判を繰り返してきたことがしこりとなっていると見る向きもある。
しかし、各種の世論調査でトップに立っているのは石破氏だ。
もし両院議員総会方式を選択し、石破氏を抑え込み、菅氏、岸田氏のいずれかを選んだ場合の総裁の末路は明らかであろう。

菅氏であれば、コロナ対策の前面に立ってきた責任を追及される。
アベノマスク問題、PCR検査体制を整備できないという問題、政府の対応が後手後手に回ったという問題、休業要請を出した業界に補償を行わない問題など、突っ込みどころは満載である。

岸田氏であれば、特別給付金の対象を1世帯当たり30万円としていた案を撤回せざるをえなくなり、政策決定の混乱を招いた点を追求されるだろう。

衆議院の任期満了は来年秋で、今後1年の間に必ず総選挙が実施される。
そこでは、首相の政策・リーダーシップが問われることになる。
菅氏・岸田氏とも、安倍政権の政策継承を掲げているようである。
それではかえって国民がそっぽを向いてしまう。

なぜなら、アベノミクスは当初数年間にかぎると多少の成果を上げたようにみえたが、コロナ禍によってその効果も大半が剥げ落ちてしまったからだ。
国民は今、自分の職場はつぶれずに生き残れるのか、家族を路頭に迷わすことなく生きていけるのかと不安を感じている。
それなのに、成果の出なかった「アベノミクスを継承します」と言った瞬間、国民は白けてしまうだろう。

忘れてはならない、もう1つの論点
そもそも、次期総裁・次期首相には、当面のコロナ対策は別として、長期的にはもっと大きな役割がある。
地盤沈下する日本経済をどう立て直していくのか、IT化の遅れをどのように取り戻していくのか、GDP比で先進国最悪の政府債務をどう解消していくのか、少子高齢化問題をどのように解決していくのか、米中対立の中で日本の立ち位置をどこに置くのか、などの問題に対処していくことである。

これらの重要問題について、党員投票方式の総裁選で各候補が論戦を展開していくことは、日本の将来にとって最も重要である。
それに1カ月がかかったとしても、適切な総裁イコール次期首相を選ぶことのほうがはるかに大事だ。
自民党にとっても数合わせの総裁を選び、国民の支持を失って次の総選挙で惨敗するよりも、大きな利益のあることである。自民党幹部には党員投票方式の総裁選の重要性を再認識し、両院議員総会での短絡的な数合わせの総裁選から、早急に頭を切り替えてもらいたい。
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☔ | Comment(2) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする