2020年09月03日

「子供をばい菌扱いするな!」絶叫する子と正義ぶる大人の罪

「子供をばい菌扱いするな!」絶叫する子と正義ぶる大人の罪
9/2(水) 日経ビジネス(河合 薫)

 「日本から出て行け!」「学校をつぶせ!」――。
 8月中旬、100人以上のサッカー部員らが新型コロナウイルスに感染した松江市の私立高校には、学校や生徒らを誹謗(ひぼう)中傷する電話や書き込みが80件を超えた。
「感染した社員をクビにしたのか」「従業員の指導がなってない」――。
 7月下旬、岩手県で初めてのコロナウイルス感染者となった男性が勤める会社には、県内外から100件近い電話やメールが殺到。
インターネット掲示板で社名が取り沙汰されてアクセスが集中し、サーバーが一時ダウンする事態になった。

 「なんでこの時期に東京から来るんですか? さっさと帰って下さい! みんなの迷惑になります」――。
 8月7日、東京から青森市の実家に帰省した男性を中傷するビラが、玄関先に置かれていた。
 男性は8月5日に帰省したが、仕事の関係でPCR検査を2回受けていて、10日前の検査でも陰性だったという。
 耳を疑うような罵詈(ばり)雑言、どんなに「怖いのはウイルスじゃない。人だ」と言われようとも、愚かな言動を繰り返す人々、「感染者を出した! 謝れ!!」という圧力の数々……etc.、etc.  

コロナウイルスの感染拡大が深刻化した3月下旬ごろから問題になっているコロナ感染にまつわるバッシングが、半年たった今も後を絶たない。
国内のコロナウイルスの累計感染者が6万6481人(8月30日時点)にまで増え、誰もが市中感染などで「かかるリスク」があるにもかかわらず、だ。
 「でもね、みんな怖いからでしょ」
「そうそう。専門家によると、こういうのって『感染への不安からだ』って言ってるもんね」  なるほど。

確かにウイルスのように目に見えない恐怖を感じると、私たちは見えている「誰か」を危険な存在だと見なし、排除することで、恐怖から逃れようとする心理を持ち合わせている。
恐怖という感情は「人の生存欲求」と密接につながっているので、恐ろしくなればなるほど利己的で、幼稚で、暴力的な言動が引き出さられてしまうのだ。

 だが、ホントにそれだけなのだろうか?
 「感染への不安から」という至極まっとうな専門家の意見が繰り返されること自体が、人間の愚かさを認めてしまっているのではないか。
「だってみんな怖いもん。仕方がないよ」と。

●風邪すら引けないコロナ禍の生活
 個人的な話になるが、私は仕事がら、「絶対にかかっちゃいけない」というプレッシャーを日々感じている。
なんせ、40度の熱が出ようとも絶対に仕事に穴は開けられない生活から、ちょっとでも具合が悪けりゃ「穴を開けなければならない」生活に180度変わってしまったのだ。

 テレビやラジオなら、たとえ「穴を開ける」ことになってしまっても、ピンチヒッターをお願いできる。
が、講演会やイベントは無理。
予定されていた時間が「空白」になり、イベント自体が飛ぶ。
何人もスタッフが関わり、たくさんのお金が動いているのに、「微熱がある」だけで欠席せざるをえない。
なので、風邪ひとつ引けないし、もし、こんな生活で感染したら、どこで、どうやって感染したのか絶対に分からないくらい、徹底した「感染しないための生活」を続けている。

 だからといって、私は感染した人たちを誹謗中傷しないし、しようとも思わない。
もちろん外出したときに近くで大声でペラペラ話す人や、換気がされていない環境に不安を抱くことはある。
でも、そういう場合は自分が移動する、
あるいは一言「換気してもいいですか?」と言えば済む話だ。

 要するに、恐れることと他人を攻撃することは全く別のお話であり、そもそも誹謗中傷を繰り返す人たちは、「自分は正しいことをやっている」としか思っていないのではないか。
 東京都の職員が防護服に身を包んで、夜の街関連の施設に立ち入り調査をしてるのと、マインド的には近い。
 「あんたたちがそんなことやってるから、感染するんだよ!」と、“正義”の名を借りた中傷合戦に参加し、自分の存在意義を誇示する恍惚(こうこつ)感に浸っているのだ。

 と同時に、心のどこかで「感染し、たたかれる人」を、いい気味だと思っているのではないか。
 このような感情は心理学ではシャーデンフロイデ(ドイツ語)と呼び、「他者の不幸、悲しみ、苦しみ、失敗を見聞きしたときに生じる、喜び、うれしさといった快い感情」と定義される。
 日本語では「欠損のある喜び」「恥知らずの喜び」と呼ばれ、「他人の不幸は蜜の味」的感情である。

 一般に自己愛の強い人ほどシャーデンフロイデが強く、その不幸がさほど深刻ではない場合に沸き立ち、逆に、深刻さが増すと消されていくことが多いとされている。

●「寝ながら泣いてしまう」という子供たち
 ……いずれにせよ、人間の究極の愚かさが正義と快感につながっているとは、実に恐ろしいことだ。
 誹謗中傷と「社会的地位や自己アイデンティティー」を主張したい欲望が、背中合わせという不都合な事実に決して踊らされないよう、「私」たちは常に胸に手を当てて自分の言動を考えてみる必要がありそうである。

 というわけで、かなり前置きが長くなった。
今回はその「人間の愚かさの末路」について、書こうと思う。
 先週、国立成育医療研究センターが2020年6〜7月に実施した「コロナストレス」に関する調査結果を公表した。
 この調査では、子供たちのコロナ禍におけるいじめやスティグマ(否定的ならくいん)に着目して質問を構成。
全国の子供(7〜17歳)と保護者、合わせて6772人が回答している。
 その結果、なんと「子供の72%」に、何らかのストレス反応が認められたというのだ。

 子供たちの気持ちを自由に書いてもらったところ、コロナのことを考えると寝ながら少し泣いてしまう(小学低学年男児)死にたくなる(小学高学年女児)コロナのことを考えたりニュースで見たりするとなんとなくイライラする(中学女児)  など、かなり深刻な状態に追い詰められている子供がいることが分かった。
 また、「こどものことを決めるとき、おとなたちはこどもの気持ちや考えをよく聞いていると思いますか?」という問いに対して、小学校低学年の15%、小学校高学年の25%、中高生の42%が、「あまりそう思わない」または「全くそう思わない」と回答。

飲み屋さんとかで大人たちが騒いでいるのを見ると、私たちが普段学校とかでしている対策は何なんだろうなと思う(中学女児)
「子供がずっと家にいるのがストレス」って言うけど子供も同じだし、自分の存在を否定されるのはつらい(中学女児) 子どもをバイ菌あつかいしないでほしい(中学女児)大人はおさけをのみにいけるのに、こどもがあつまってあそぶのはダメなのはなんで?(小学低学年男児)
子どもがかわいそうだから……とか大人はよく言うけど実際思ってないくせに……と思う(小学中学年女児)  etc.etc.…・、かなり辛辣である。

●子供に影響を与える大人の言動
 さらに、注目すべきはスティグマに関する結果だ。
ご覧の通り、32%の子供は「もし自分や家族がコロナになったら、そのことは秘密にしたい」と回答し、また40%の子供が「コロナになった人とは、コロナが治っても、あまり一緒には遊びたくない人が多いだろう(付き合うのをためらう人が多いだろう)」と答えた。
 一方、保護者では、29%が「もし自分や家族がコロナになったら、そのことは秘密にしたい」、73%が「もし自分や家族がコロナになったら、そのことは秘密にしたいと思う人が多いだろう」、7%が「コロナになった人とは、コロナが治っても付き合うのをためらう(あまり一緒には遊びたくない)」と回答した。

https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00118/00089/?SS=imgview&FD=-1298512866 出所/国立成育医療研究センター「コロナストレス」に関する調査  

さて、この結果をどう捉えるか?
 私は「大人たちの言動が子供に影響を強く与えている」と解釈している。

 3年前にいじめられていた福島県の子供の「手記」を思い出してほしい。
少年は福島から横浜市内に自主避難してきたことから、壮絶ないじめに遭った。
 転校した直後からいじめは始まり、名前に「菌」を付けて呼ばれ、鬼ごっこの鬼ばかりさせられた。
 そして、両親が公開した手記にはこうつづられていたのだ。
 「いままでなんかいも死のうとおもった。でもしんさいでいっぱい死んだから、つらいけどぼくはいきるときめた」
 「みんなきらいだ、むかつく、学校も先生も大きらいだ」  
「教室のすみ、防火扉にちかく、体育館のうら、『人目が気にならないところに持ってこい。
賠償金あるんだろう』と言われた」

 何度読んでも胸がつまる。
生き抜いてくれたとことに頭が下がる思いだ。
賠償金? いったいなぜ、子供たちの間で「賠償金」なんてことがいじめにつながったのか?  答えは実にシンプル。
大人が言っているからだ。
いじめは子供世界だけのお話ではない。
 いつの時代も、子供の世界は大人社会の縮図だ。

 子供は大人が考える以上に、大人たちの言動を観察し、まねる。
 母親が「先生の悪口」ばかり言う家庭の子どもは、先生をバカにする。
母親が「○○さんの奥さんって、△△なのよ〜」と愚痴り、それを聞いていた父親が「○○さんのところは、××だからな」とバカにするやりとりを見ていた子供は、両親と同じように○○君をバカにする。

●なぜ子供たちが感染を秘密にしたいのか
 大人たちは子供のいじめが発覚する度に、学校や先生の対応ばかりを批判するけど、学校にいる大人も、家庭にいる大人も、テレビの中の大人も、みんなみんな子供たちの“お手本”なのだ。
 件の調査で明かされた子供たちの「声」からも、子供は大人が考える以上に、「大人たちの言動」に敏感なことが分かるであろう。
ちょっとでも具合が悪いと、「コロナだ!」と騒ぎ立てられ、親が医療従事者というだけで、いじめの対象になる。
そういった言動は「見ている」傍観者の子供たちにもストレスになる。
 これが大人たちが繰り広げる誹謗中傷の末路だ。

 専門家は必ず言う、「子供の不安に寄り添ってください」と。
 テレビのコメンテーターたちは必ず言う、「いじめは許されない」と。
 全くその通りだし、そういった見解に異論は1ミリもない。
 でも、その前に「私」の言動をもっと見つめ直してほしい。
なぜ、子供の32%が「コロナに感染したら秘密にしたい」と回答したのか? 
なぜ、秘密にしなければいけないのか?

 繰り返すが、コロナ感染を恐れることと他人を攻撃することは全く別。
「自分は正しいことをやっている」って!?
 そんなもんは“正義”の名を借りた刃(やいば)でしかない。
これ以上、子供のいじめに加担しないでほしい。
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☁ | Comment(0) | 健康・生活・医療 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする