2020年09月07日

認知症の発症予防=認知症予防財団会長・新井平伊氏

認知症の発症予防
=認知症予防財団会長・新井平伊氏
2020年9月1日  毎日新聞

「人生100年時代」の到来が近い。
年齢を重ねても自分らしく生きたいが、気になるのは認知症の問題だ。
公益財団法人・認知症予防財団==の新井平伊会長(67)=順天堂大名誉教授、アルツクリニック東京院長=は「薬の研究開発が進む。

予防とともに早期の発見、治療が脳の健康寿命を延ばす決め手になる」と説く。
       【聞き手・明珍美紀】

早期発見、生活見直しを
――2025年には65歳以上の5人に1人が認知症になるという厚生労働省の推計(12年)があります。

認知症の早期発見の方法は。
 認知症のごく初期の症状には、自分だけが物忘れを感じる主観的な認知機能の低下(SCD)と、物忘れが少し目立つものの日常生活や仕事は普通にこなせる軽度認知障害(MCI)があります。
 手がかりは、本人と家族からの問診です。
次いで記憶力、判断力などを調べる認知機能検査を行い、CT(コンピューター断層撮影)、MRI(磁気共鳴画像)などの画像検査で脳の萎縮や血管の変化、脳梗塞(こうそく)などの病変の有無を調べます。

認知症の約7割を占め、最も多いアルツハイマー病は、脳の中心にある海馬やその周辺から機能が衰える。
海馬は記憶に関わる器官で、比較的新しい記憶を覚えておくことが難しくなります。
「アミロイドβたんぱく」という物質が関わっているとみられ、早い人では、40代後半から脳にアミロイドβたんぱくがたまり始め、60代後半から70代で発症することが疫学調査で分かっています。

 ただし、MRIによる脳ドックではSCDでのアミロイドβたんぱくの発見はできません。
そこで、私が昨春、大学を退任後、東京に開いたクリニックで「アミロイドPET検査」を導入しました。

――PETとは。

 陽電子放射断層撮影のことで、微細ながん細胞の発見などに使われています。
この検査は脳の断面を撮影してアミロイドβたんぱくの蓄積度を画像で確認する。
米国で約20年前に開発されました。
日本ではアルツハイマー病の治療薬の臨床試験でアミロイドPETの検査例が500ほどありますが、SCD段階での実施はほとんどありません。
保険診療ではないのですが、クリニックではこれまで約80人がこの検査を受け、データを収集しています。
発症前に異常が見つかれば極めて早い段階で予防に取りかかることができます。

――予防と治療法は。
 予防にも三つの段階があり、発症させない1次予防は難しいものの、発症を遅らせる2次予防、進行を遅らせる3次予防は可能になってきました。

認知症は、アルツハイマー病のほか、頭部の病気、甲状腺疾患やビタミン欠乏症、さらには心臓、肝臓、腎臓の病気、薬物の影響などによって症状が起きるものがあり、それらの原因を取り除けば治る可能性が高まります。

生活習慣病はきちんと治療すること。
65歳未満の若年性で最も多いのは脳血管性認知症ですが、脳梗塞など脳血管障害を起こさなければ血管性認知症にはなりません。
あとはバランスのとれた食事と適度な運動、十分な睡眠です。

 一方、治療で現在、使われている薬は、進行や悪化を遅らせるなど対症療法と言えます。
でも、ホットニュースがあります。
日米の製薬会社が合同で開発している認知症治療薬の新薬申請がこの夏、米国食品医薬品局(FDA)に受理されました。
認可されればアルツハイマー病の発症を抑制する薬になる可能性があります。

――認知症への理解を深めるために訴えたいことは。

 認知症で脳の働きが悪くなるのは記憶や判断に関する部分だけで、例えるなら脳の5%ほど。
認知症になった人に尊厳を保ちながら関わることは非常に大切です。
新型コロナウイルス感染問題で認知症予防財団も事業が中止、延期になるなど影響を受けました。

認知症への対応は急務ですが、認知症になっても安心して暮らせる長寿社会を築かなければなりません。

聞いて一言
 認知症で最も多いアルツハイマー病は「超早期発見」が可能な時代になった。
一方で予防は「バランスのとれた食事、適度な運動、十分な睡眠」と他の病気と基本的に変わらない。
「長い老後をどう生きるかは、いまの生活を見直すことから始まる」と肝に銘じた
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☀ | Comment(0) | 健康・生活・医療 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする