つらい不眠症を防ぐ正しい知識と効果的な方法
「自己流の対策」でこじらせないための処方箋
2020/09/21 東洋経済オンライン
上原 桃子 : 医師・産業医
現在、布団に入ってもよく眠れない、眠りが浅いと訴える方が多くなっています。
こうした症状は睡眠障害のひとつ「不眠症」と呼ばれます。
睡眠時間が少ないと労働生産性が低下するというデータがOECDの調査で得られています。
自身の健康のためにも、気持ちよく仕事をするためにも不眠症の対策が重要といえます。
不眠症の原因は?
不眠症は日本人の約5人に1人が悩まされていると言われており、その症状は大きく以下の4つのタイプに分けられます。
@入眠困難 布団に入ってもなかなか(2時間以上)眠れない
A中途覚醒 一度眠っても翌朝までに何度も(2回以上)目が覚める
B早朝覚醒 通常時の2時間以上前に目が覚め、眠れなくなる
C熟眠障害 眠っているはずなのに、熟睡した感じがない
ただ、1日や2日上記のような症状が出たとしても、過剰に不安になる必要はありません。
体調の変化等で一時的に睡眠の質が下がることがあっても通常は数日で元に戻ります。
週2回以上症状があり、それが1カ月以上続いている自覚がある場合に病院の受診を検討しましょう。
不眠症の原因はさまざまですが、とくにA中途覚醒B早朝覚醒は加齢のほか、うつ病や寝る前の飲酒で見られやすい傾向にあります。
寝つきが悪いとき、少量のアルコールを寝酒として飲むことでリラックスできる方もいらっしゃいますが、飲む量や頻度には気を付けましょう。
習慣化させてしまうと気づかないうちにアルコール依存状態となり、不眠症や日中の生産性低下につながります。
そうなっては本末転倒です。
また、腰の痛みや頻尿といった身体症状によって眠れない「身体的要因」も重要です。
そしてやはり働く世代における不眠症の主な原因は、交代勤務などによる「睡眠リズムの乱れ」とストレス・不安などによる「心理的要因」です。
まずは不眠症を引き起こす原因を突き止め、それを解決していくことが重要となります。
不眠症の予防に有効なこと
不眠症のいちばんの対策は、まず不眠にならないよう予防することです。
ちょっとした生活習慣の改善で寝つきよくぐっすり眠れるようになります。
以下にいくつか対策をあげますが、すべて一度にやろうとはせず、改善できそうなところから取り組むのがよいでしょう。
まず朝は起床時間をできるだけ一定にし、朝日を浴びることが重要です。
ヒトは朝日のような強い光刺激で生活リズムを整えているため、毎日決まった時間に1日をスタートさせることが大切です。
昼寝をしたい場合は30分以内を心がけましょう。
パワーナップ(power nap・積極的仮眠)も最近労働生産性を上げる方法のひとつとして話題になっています。
これはヒトの生体リズムが午後2〜4時に眠気を訴えるようにできているため、その頃に20分程度の短い睡眠をとることで適度に脳を休憩させ、午後の能率を上げるというものです。
勤務時間内の昼寝は難しくても、お昼ごはんの後に少し仮眠をとる時間を設けてみてはいかがでしょうか。
ちなみに不眠の原因としても有名なカフェインですが、摂取から約20分後に身体に効くことを利用して、あえて寝る前に一杯のコーヒーを飲むことですっきりパワーナップから目覚めることもできるようです。
帰宅後のリラックス方法としては、38〜41℃程度の湯船に浸かることで、身体を休ませる働きのある副交感神経を優位にすることができます。
それ以上の温度ではむしろ身体が興奮してしまう(交感神経が優位になる)ため、熱いお湯が好きな方は少なくとも寝る2時間前には入浴を済ませるようにしましょう。
普段シャワーで済ませる方も、時々は湯船でリラックスすることをおすすめします。
寝る直前はなるべくスマートフォンの光や、ニコチン(タバコ)やカフェイン(コーヒーなど)を避けます。
温かいスープやカフェインレスのお茶で少し身体を温めてもよいでしょう。
どうしても寝付けない場合は睡眠時間にこだわらず、一度布団を出ることが効果的とされています。
静かな音楽を聴く、本を読むなど身体を休めるうちに自然と眠くなるはずです。
それでも不眠症になってしまったら とはいえ多忙な勤務生活で日々の余裕もなく、すでに不眠症気味……という方もいらっしゃるかと思います。
原因の回避、つまり勤務形態の改善やストレス要因の除去がいちばんですが、難しい場合は産業医の先生に相談する、直接ご自身で近くのクリニックを受診するなどで薬物療法に一時的に頼ることもひとつの選択肢です。
睡眠薬というと「飲み始めたら最後、依存してしまってどんどん量が増える」といった強い抵抗感を持つ方もいらっしゃいますが、これは誤った認識です。
医師側は患者の睡眠障害の程度を見ながら最終的には薬をゼロにできるように処方をしっかり調整しています。
したがって、患者が自己判断で勝手に中断したり、増量したりしなければ比較的安全に使うことができます。
飲まなければ依存性もなくなるのでは?と思う方もいらっしゃいますが、睡眠薬は突然中止するとむしろ以前よりも強い睡眠障害がでる(反跳性不眠)ため、十分注意が必要です。
近年は副作用の少ない睡眠薬(メラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬等)が用いられるようにもなっていますので、睡眠薬に対する不安があれば遠慮せず医師に相談しましょう。
不眠症は日々の生活に潜む反面、ちょっとした対策で予防することもできます。
この機会に生活習慣を見直していただくことで、健康的な睡眠の助けとなれば幸いです。