中高年の「目の疲れ」、本当に効く方法とは
2020.10.7 ダイヤモントドオンライン
川口友万:サイエンスライター
読書の秋である。
秋の夜長は、“積ん読”になっていたビジネス書や小説を一気に片づけたいところだが、何とも困るのが目の疲れ。
40代半ばあたりから老眼が進み、本を読むのもひと苦労。
ピントが合わずに視界がかすむ。
年を取ると、なぜこんなに目がかすむのだろう。
目の筋肉の衰えと細胞の劣化、そして涙が減るためらしい。
どうすれば改善するのだろうか。
(サイエンスライター 川口友万)
ドライアイの チェックリスト
年を取ると目の調子がどんどん悪くなる。
かすんだり長く開けていると疲れて、本を読む気がうせる。
目が見えにくくなっている時、目はどうなっているかというと乾いている。
涙の量が減っている。いわゆるドライアイだ。
ドライアイとはどういう症状か?
目薬の製薬会社が作ったチェックリストによると、以下のうち5項目が当てはまるとドライアイの恐れがある。
1.目が疲れやすい
2.目やにが出る
3.目がごろごろする
4.重たい感じがする
5.目が乾いた感じがする
6.何となく眼に不快感がある
7.目が痛い
8.涙が出る
9.ものがかすんで見える
10.目がかゆい
11.光を見るとまぶしい
12.目が赤い
深いまばたきが ドライアイを防ぐ
結構、みなさん当てはまるのではないか。
ドライアイの最大の原因はパソコンだ。
パソコンの画面を見ながら作業をすると、肩が凝ったり目がかすんだり腰が痛んだりと、いろいろな症状を併発する。
長時間、モニターを見ながらキーボードとマウスで作業するという、今までなかった体の使い方が引き金になる。
眼科医によれば、パソコンを使っている時は、まばたきの回数が極端に減るのだそうだ。
普通、私たちは1分間に20回ぐらいまばたきをしているが、パソコンを使って作業をするとまばたきの回数がおよそ3分の1に減ってしまうという。
角膜の表面は、まばたきによって涙腺から押し出された涙で潤っている。
まばたきが減ると涙が減り、涙で角膜が潤わなくなる。
乾燥した目の表面にはガラスにひびが入ったような細かい傷ができ、異物感が出たり、視力が低下する恐れもある。
これがドライアイだ。
「異物感などの自覚症状」
「涙の分泌量・質の低下」
「角膜もしくは結膜に傷がある」
という3つの症状があると、ドライアイと診断される。
厚労省によれば、およそ2000万人にドライアイの危険があるというから、もはや国民病と呼んでいいだろう。
年を取った人の方がドライアイになりやすく、症状は深刻だ。
涙液は油層、ムチン層、水層の3層からなっている。
若い時は油層が分厚いため、涙が蒸発しにくい。
それだけドライアイになりにくいが、年を取ると涙の質が劣化し、油層が薄くなってしまう。
ドライアイは、パソコンでの作業時間が長ければ長いほど発症しやすい。
1時間より2時間、2時間より4時間、長く連続して作業が続けば続くほど目は乾いていく。
厚生労働省では、1時間ごとに10分の休憩を取るように指導している。
この時、涙を出すことが目を守ることになる。
まばたきを意識的にする、まばたきを深くすることによって涙液が出る。
普段のまばたきは案外と浅く、瞳孔の下まできちんとまばたきをしていない。
そのため、目の下の角膜がずっと乾いた状態になっていることが多い。
一番下まで意識的にまばたきをすることで涙が補充され、ドライアイを防ぐことができる。
冷やした目薬は 目の疲れに逆効果
ドライアイの発症には男女差があり、女性に発症しやすい。
パソコンでの作業者のうち、女性の有病率は48%と、およそ2人に1人がドライアイだ。
一方、男性の有病率は27%と、女性の半分程度。
女性の発症率が高い理由の一つとして、化粧を指摘する声もある。
アイメイクをする際に涙腺のうち油分を分泌するマイボーム腺が化粧品で塞がれ、油分の量が減ってしまうというのだ。
目にはたばこも良くない。
タバコの煙にさらされると涙の分泌が不安定になり、炎症の細胞が増えて目に負担がかかる。
コンタクトレンズもドライアイの原因だ。
コンタクトレンズは、それ自体が水分を吸う性質がある。
そのため、涙がコンタクトレンズに吸収されて、目の表面が乾きやすくなる。
パソコンを使う時はコンタクトを外してメガネに変えた方がいい。
ドライアイが悪化すると角膜に穴が開く。
穴が大きくなると目の組織が中から出てきてしまい、角膜移植しなければ失明することになる。
おかしいと思ったら、早めに医師に見せた方がいい。
ドライアイの症状が軽い場合は人工の涙液、角膜が傷ついている場合はヒアルロン酸入りの点眼薬を使う。
医療用は市販薬と違って、防腐剤やメンソールなどの刺激物が含まれていないので目に優しい。
市販の点眼薬を使い過ぎると、角膜の表面に防腐剤が蓄積して表皮が荒れるので注意が必要だ。
よりひどい症状の時は、涙点プラグを使う。
涙が蒸発するのは10%程度、残りは涙小管という管を通って鼻へと流れ込む。
そこで管の入口にあたる涙点を栓で塞ぎ、涙が流れ出すのを防ぐ。
コラーゲンを注射器で流し込み、栓をするキープティアという施術もある。
では、普段の目の疲れはどうすれば改善するのか?
目を温めればいいのだ。
温めるとまぶたの縁にある皮脂線の詰まりがなくなり(皮脂の融点は体温よりも若干高く約38度)、涙の分泌を促すことができる。
目が疲れたからといって、冷蔵庫で冷やした目薬をさすのは逆効果なのだ。
温めたタオルなどで目を温めると疲れが取れ、涙が再び流れ出す。
加齢による目の疲れは 若い時と何が違うのか
ドラッグストアの目薬売り場などでは、1500円前後もする目薬が数多く並んでいる。
それらの中には、加齢による疲れ目やかすみ目に効くという商品が多い。
加齢による疲れ目やかすみ目と若い時の疲れ目とは違うのか。
製薬会社は次のように説明する。
「(若い時の疲れ目と中高年の疲れ目では)疲れの原因が異なります。
疲れ目の主な原因は目を酷使することにより目の筋肉(毛様体筋)が疲労することです。
中高年の場合、目の筋肉の疲労に加え、加齢により目の筋肉の機能が低下していることが考えられます」(ロート製薬広報部)
疲れ目=目の筋肉が疲れる点では年齢は関係ないが、中高年は筋肉自体が衰えているので、目が疲れやすい。
中高年になると、なぜか目がまぶしくて、物を長時間見られないことも起きるが、あれも目の老化現象だ。
「また、角膜では皮膚と同様に、古くなった細胞が剥がれて新しい細胞が作り出されています。加齢により新しい角膜細胞を作り出す機能が低下すると、角膜細胞が減り表面がデコボコになります」(同)
角膜が滑らかさを失うと角膜の表面で光が乱反射し、光がチカチカとまぶしくなる。
年を取ると細胞の代謝がスムーズに行われないのは、小さなケガさえいつまでも治らないので実感する。
目の表面でも同じような代謝の劣化が起きているのだろう。
そうした加齢特有の症状に合わせて、目薬も成分が変えてある。
中高年向けの製品に共通して含まれているのがネオスチグミンメチル硫酸塩という成分だ。
ネオスチグミンメチル硫酸塩は筋肉を収縮させる働きがある。
なぜ筋収縮剤が加齢のかすみ目に関係するのか。
レンズの働きをする水晶体を厚くしたり薄くしたりしてピントを合わせるのが、毛様体筋の働きだ。
近くを見る時、毛様体に力が込められて水晶体がぐっと厚くなり、ピントが手前で合う。
ところが年を取ると毛様体の力がなくなってしまい、力を入れてくれなくなるのだ。
水晶体が厚くならず、近くにピントが合わなくなる。
これが老眼であり、かすみ目の正体だ。
そこでネオスチグミンメチル硫酸塩で毛様体筋を収縮させ、水晶体を厚くしてピントを合わせるわけだ。
眼科で処方する目薬には、ネオスチグミンメチル硫酸塩が市販薬とは、文字通り桁違いの量が配合してある。
疲れ目がひどい時は、医師の診察を受けて処方薬をもらうことをお勧めする。
加齢による目の疲れは筋肉の衰えなので改善は難しい。
目薬で筋肉を動かしながら、涙を増やすように目の周りをあたため、こまめに目を休めたり、太陽光を直接見ないように気をつけたりするぐらいしかない。
最近はルテインやゼアキサンチンという成分が目に良いことがわかっている。
網膜の黄斑部に分布し、高い抗酸化作用で網膜を守るのだ。
この2つの成分は、ホウレン草やケール、ブロッコリーなどの緑黄色野菜にたくさん含まれている。
ポパイではないが、目を良くする(少なくとも悪くさせない)ためには、緑黄色野菜を食べるのもいいだろう。