2020年10月17日

コロナで加入増加!民間医療保険は本当に必要か?

コロナで加入増加!民間医療保険は本当に必要か?
2020.10.16 ダイヤモンドオンライン
早川幸子:フリーライター

新型コロナウイルスの猛威は一向に衰える気配を見せず、冬に向けてインフルエンザとの同時流行も懸念されている。
「コロナの陽性となって入院したら、たくさん医療費がかかるのではないか?」
「感染して仕事を休んだら、収入が減ってしまうのではないか?」といった不安を持っている人もいるだろう。
 こうした不安を手っ取り早く解消できそうなのが、民間の医療保険への加入だ。
そのせいか、保険の見直しを専門とするファイナンシャルプランナーのもとには、新たに医療保険の加入を検討する人からの相談が増えているという。

コロナ患者には宿泊施設の療養でも 特例的に入院給付金が支払われる
 民間の医療保険は、病気やケガで入院や手術をした場合に、あらかじめ決められた入院給付金や手術給付金などが支払われる。
新型コロナウイルス感染症も、疾病(病気)に該当するため、万一、罹患して所定の入院や手術を受けた場合は、給付金の支払い対象になる。
 ただし、入院給付金は、病気やケガで入院した場合に「1日あたり1万円」などが支払われるもので、その保険契約の内容が記載されている約款で定められている病院や診療所に入院しなければ給付を受けることはできない。
 新型コロナウイスル感染症の治療では、医療崩壊を防ぐために、無症状の病原体保有者や軽症患者は、ホテルなどの宿泊施設や自宅で療養するケースも出ているが、本来は、こうしたケースは給付金の支払い対象外だ。
 だが、今回は金融庁からの要請によって、医療機関以外の宿泊施設や自宅でコロナの療養をしている人も、特例的に入院給付金の支払い対象として取り扱ってもらえる措置が取られている。

 万一、コロナに罹患した場合に、ホテルや自宅で療養していても、入院給付金をもらえれば、安堵感を得られるのは間違いない。
だが、医療保険に加入していないと、コロナになった時の医療費が支払えないかというと、そんな心配は無用だ。

指定感染症の医療費は公費負担 患者の自己負担は原則なし
 新型コロナウイルス感染症については、まだ分からないことも多いが、これまでの調査・研究で感染しても無症状のままの人もいれば、重症化する人もいることは明らかになっている。
 無症状ですめばよいが、肺炎の症状が出て重篤化すると、抗ウイルス薬の投与、集中治療室での人工呼吸器などによる治療が行わるようになり、医療費も高額になることが予想される。
 ただし、新型コロナウイルス感染症は、1月28日の閣議で、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)」で定められている「指定感染症」に決定された。
そのため、感染拡大を防ぐための医療の提供体制、医療機関による患者数の届け出のほか、医療費の負担についても、法律に基づいた運用が行われている。

 指定感染症に定められると、都道府県知事は、患者に対して検査や入院の勧告、感染拡大を防止するための就労制限などを行えるようになる(10月9日の閣議で措置内容が見直され、24日から入院対象が重症化リスクのある高齢者や基礎疾患のある人に限定される予定)。
 感染症の蔓延防止のためとはいえ、強制的な入院は一時的にせよ個人の権利を制限することになる。
そのため、感染症法の第三十七条では、自治体の勧告や措置による入院の場合、治療にかかった一連の費用(検査、診察、医薬品、医学的処置、入院費など)は、公費負担にすることを定めており、原則的に患者の自己負担はない。
ただし、第三十七条の2で、患者やその配偶者などの扶養義務者が、入院費用を負担できると判断する場合は、その費用を患者に求めてもよいとしているため、自治体の多くは、所得の高い人に対しては、指定感染症であっても治療費に一定の自己負担を設定している。

 例えば東京都では、市町村民税の所得割(住民税のうち、収入に応じて決まる部分)が56万4000円を超える人は、月額2万円を限度とした一部負担金がある。
 このように高所得層には一定の自己負担はあるものの、決して高額ではない。
ほとんどの人は、コロナに感染して治療費そのものは高額になったとしても、そのすべてが公費で賄われるので、医療費の心配はないのだ。
 また、会社員や公務員などで、被用者保険(企業や団体などに雇われて働く人のための健康保険)に加入している人は、新型コロナウイルスに感染して仕事を休むと、その間は傷病手当金をもらえる。

コロナで仕事を休んでいる間は 傷病手当金が支給される
 傷病手当金は健康保険の給付で、病気やケガで仕事を休んで、給料を払ってもらえなかったり、減額されたりした場合の所得保障だ。
 1日あたりの支給額は、平均的な月収(※)を30日で割った金額の3分の2で、連続して3日休んだあとの4日目から最長1年6カ月の間に、実際に休業した日数分が支払われる。

※傷病手当金が最初に支払われた日から連続した、過去12カ月の各月の標準報酬月額(月収)の平均。
就職後すぐに病気やケガをして、休職までの期間が12カ月に満たない場合は、就職から休職までの標準報酬月額の平均額と、28万円(協会けんぽの場合。全加入者の標準報酬月額の平均)を比べて、少ない方の金額をもとに支給額を計算する。
 支給要件は「労務不能の状態」なので、入院や通院をしていなくても、自宅療養も対象になる。
仕事をできない状態かどうかは、原則的に主治医が判断する。
しかし、 新型コロナウイルス感染症については、感染拡大防止のために医師の診察を受けずに自宅療養している人がいる可能性もあるため、特例的に事業主が証明すれば給付対象になる措置が取られている。
 現状では、傷病手当金の制度があるのは被用者保険のみで、都道府県が運営している国民健康保険の加入者は病気やケガで仕事を休んだ場合の所得補償はない(特定業種で運営している国保組合のなかで、財源に余裕のある一部の組合には傷病手当金の制度があるところも一部ある)。

派遣社員やパートタイマーなどの非正規雇用の労働者も、厳密には企業や団体に雇われて給与をもらって生活している被用者だ。
ところが、労働時間などの加入要件の線引きによって勤務先の健康保険に加入できないために、仕方なく国民健康保険に加入している人もいる。
こうした人がコロナに罹患して休業を余儀なくされると、無収入になってしまう。
 そこで、これも特例として、国保に加入している被用者を対象に、国が財政支援をすることで、被用者保険と同様の傷病手当金が支給されることになっている。
 支給されるのは、新型コロナウイルスに感染、または発熱などで感染が疑われ、休業した日から3日経過したあとの4日目から、最長1年6カ月の間に実際に休業した日数分。
 適用期間は、当初2020年1月1日〜9月30日までの間とされていたが、感染拡大を受けて12月31日まで延長されることになった。

保険でカバーできるリスクは限定的 貯蓄を妨げない程度に抑えよう
 このように、正規雇用の労働者だけではなく、非正規雇用の派遣社員やパート社員なども、コロナに感染して休業を余儀なくされた場合は、加入している健康保険から傷病手当金がもらえるようになっている。
 自営業者やフリーランスの人には傷病手当金は支給されないが、コロナの影響で売り上げが減少した場合は、持続化給付金や家賃支援給付金などの申請ができる。
万一、罹患した場合はこうした助成によって当面の生活費はカバーできそうだ。

 前述のように、新型コロナウイルス感染症の治療費は自己負担がないうえに、休業中は、健康保険や国からの所得補償も受けられる。
 そもそも、保険は日々の収入や手持ちの預貯金では賄えないような、大きな経済的リスクに備えて加入すべきものだが、医療費や当面の生活費は、民間の医療保険に加入していなくても、ある程度の貯蓄があれば賄える。
本当に医療保険に加入しなければカバーできないリスクなのかどうかは疑問だ。

 その一方で、今、問題になっているのは解雇や雇い止めなどによる減収だ。
総務省統計局が10月2日に発表した「労働力調査(基本集計)」によると、8月の完全失業率(季節調整値)は前月比0.1ポイントアップの3.0%。
完全失業者数は、前年同月比49万人増の206万人で、7カ月連続で増加しており、多くの人が雇用保険の基本手当の給付を受けながら暮らしている。

 コロナ禍によって起きている経済的リスクは、感染症の罹患による医療費や収入減だけではなく、企業の倒産や解雇などによって、仕事を失うことでも発生している。
 だが、民間の医療保険から給付を受けられるのは、病気やケガで入院や手術をした時だけで、解雇や雇い止めにあっても給付金はもらえない。
 保障を得るためには相応のコスト(保険料)もかかるが、お金を受け取れる範囲は限定的だ。
そこに保険料をたくさんつぎ込んでしまい、貯蓄がままならなくなると、その他のリスクに対応できなくなってしまう。

 人生は、何が起こるか分からない。
昨年の今頃は、だれも世界がコロナに見舞われて、オリンピックが先送りになるなんて考えもしなかっただろう。
 想像を超えるリスクに対応するためには、使い道が限定される保険商品よりも、何にでも使える貯蓄をできるだけ増やしておくことが有効だ。
そのためにも保険商品の利用は最低限に抑えて、その分を貯蓄に回し、ちょっとやそっとのことでは倒れない骨太の家計を日頃から作っておきたい。 (フリーライター 早川幸子)
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☁ | Comment(0) | 健康・生活・医療 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする