2020年10月26日

「伝わりやすい文章」を書くために必要なたった1つのポイント

「伝わりやすい文章」を書くために必要なたった1つのポイント
2020.10.25 ダイヤモンド社書籍編集局
『死の講義』著者・橋爪大三郎インタビュー
取材・構成/川代紗生

文章は「結論」から書く

──伝わりやすい文章を書くために、おすすめの方法はありますか?

橋爪 
「トピック・センテンス・メソッド」というものがあります。
ひと言で言うと、結論から言うということだ。
考えているときには、結論って、最後に出てくるでしょう? 
ああでもない、こうでもないと考えて、最後に結論にたどり着くのが、頭にとっては自然なんです。

 でも、書くときにこの順番でやったら、全部の「思考のプロセス」を読者にお付き合いさせないといけないわけです。
時間がかかるし、負担が大きいですよね。
もちろん、そういう本もあっていい。
だけど、ビジネスで使う文章や、実用書に載せる文章は、結論から書くべきですね。
著者が責任をもって、「これが結論です」と提示する。

 「結論を提示する」ということは、前提や、途中のプロセスや、条件を理解しているということなんですよ。
結論が出てくるプロセスを体系的に理解して、把握していないと、結論から書くことはできない。
だから、文章の品質を保証するために、結論から書く「トピック・センテンス・メソッド」は、とてもいいやり方だと私は思う。  
「トピック・センテンス・メソッド」については、日本では『理科系の作文技術』(中公新書)という本の中で木下是雄先生が紹介されているので、くわしく知りたい人はそれを読んでみてください。

表現の幅を広げたければ「小説」を読め

──橋爪先生の本を読んでいると、的確でわかりやすい表現が散りばめられているのがわかります。
ボキャブラリーを増やし、表現の幅を広げるためにできる習慣などはありますか?

橋爪
 いろんな小説を読むことでしょうね。
だって、小説家って語彙のプロじゃないですか。
あらんかぎりの能力を駆使して、情景を描写している。
日本語の限界を試しているわけですよね。

 買い物に行くとき、ふつうは自転車か、せいぜいファミリーカーかなんかに乗っていくでしょう。
でも、小説というのは、スーパーに買い物に行くのに、ランボルギーニか何かの、そういう高速スポーツカーで行くみたいな話なんですよ(笑)。
いろいろな能力や備品が満載なんですね。

 日本語というのは、漢語と和語と片仮名でできているんです。
漢語というのは2000年ぐらい前、途中で徐々に入ってきた外国語で、片仮名というのは、つい最近やってきた欧米語ですよね。

そのなかで、言葉との距離感がなく、一番、「わかった感」が生まれるのは、和語なんです。
 それから、スピーチのときにはとくに役に立つと思うんだけど、故事の言い回しをリストアップして、使えるような字引があるといい。
たとえば、「負けるが勝ち」とか、「転ばぬ先の杖」とか、「江戸の敵を長崎で討つ」とか、熟語辞典に出ているようなものや、日常的な言い回しも。
「あ! これ、いいな」と思っても、すぐ忘れちゃう。
だから、そういうのをまとめて、これを活用しましょうみたいな本があるといいですよね。

 たとえば、政治家の演説を聞いていると、官邸官僚が彼らの専門用語で書いているから、和語はほとんど出てこないですよね。
中央省庁の文書は役人同士が理解できればいいので、日常語を切り離して置き換えるという、自己防衛の固まりなんです。  『パワースピーチ入門』(角川新書)という本にも書いたんですが、日常語でもスピーチができるはず。
「本年度予算」とかは、どうしても漢語にしないといけないわけだから、それ以外のところを和語にする。
言い訳をしないで、枝葉を削る。

執筆スピードを上げる習慣術

──ご多忙な中でたくさんの本を同時進行で書かれている、橋爪先生の執筆ルーティンを教えてください。

橋爪
 12時過ぎには寝て、8時ぐらいに起きる。
ちゃんと寝て、食事もちゃんと取る。
きわめて普通ですね。
寝る前には、「こういうことを解決しないといけない」という仕事上の疑問を考えて寝るようにします。
そうすると、寝ているあいだに頭が勝手に考えてくれる。

 たとえば、今書いているものがあったとして、「その次、どう書こう?」みたいなことですね。
考えても、そのことを、すぐ書けるわけじゃないでしょう。
たとえば30ページ〜50ページ書くとすると、5つか、6つのトピックを巡っていくわけじゃないですか。

今、書いているのは、このトピックなんだけど、その次、その次の次……というように、ぼんやり考えながら、今のところを書いている。
実は書いてみるまで、どうなるかわからないんですよ。
 だから、「ここはほぼ書き終わったので、次、これを書こう」みたいなことを確認して寝るわけですね。

──橋爪先生は、1日何時間ぐらい執筆されているんですか?

橋爪
 起きているあいだはなるべく。
修士論文を書くときに、最後の章が、まだ書けてなくて、あと24時間しかないということになったときに、下書きなしで60枚、しかも、ワープロがなかったから手書きで書いたことがあったけど、あれは新記録でしたね(笑)。
 ワープロになってからは、書くのが楽になったし、スピードも速くなりましたね。

──執筆スピードを速くするコツは何でしょう?

橋爪
 ややこしいことを、ややこしく書こうと思わないことですね。
「こんなりっぱなことを書ける、りっぱな著者なんですよ」っていうふうに書かないことです。
そういう意識がちょっとでもあると、難しい語彙や複雑な言い回しで書こうとしてしまう。
そうすると、時間がかかるし、読むのも時間がかかる。
見通しが悪くなるから、何を言っているのかもわからなくなる。
自分でもわからなくなるんだ。

──世の中に出ている本には、そういうものが多かったのでしょうか?

橋爪
 学術的なものは9割方がそうですね。
文章がわかりやすいと批判しやすいんですよ。
何を言っているかわかるから、間違っていたら、すぐに批判できる。

でも、反証可能性があるということは、学問の基礎ですから、文章はわかりやすくなければならない。

 本質はアイデアなんだから、アイデアで勝負すべきであって、アイデアがあるかのように見せかけて、勝負するのはダメなんだ。
 「プレーン・センテンス」(シンプルで素直な日本語)で書くことにすれば、書くことに神経をほとんど使わないから、速く書ける。
あ、文学は凝らないといけないんだけどね。
でも、文学じゃない場合は、プレーン・センテンスで書けばいい。
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 | Comment(4) | 健康・生活・医療 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする