香山リカのココロの万華鏡
集うシニアの気持ち
毎日新聞2020年11月17日
病院の昼休み、若手の医師がポツリと言った。
「あーあ、今年はいろんな誘いを全部、断ってるんですよ。
高校の同窓会とか趣味の集まりとか。
医者が“密”なところでコロナに感染するのはマズいですからね」
彼が言うには、帰り道にある居酒屋や中華料理店はけっこうにぎわっているそうだ。
「お客さんの多くはシニアのグループなんです。
あの人たちは、感染のリスクはないと思ってるんですかね?」
仕事に追われ、さらにプライベートでも会合に参加せずにがまんしている若手医師は、平気で会食をしているグループにちょっといらだちを覚えたのかもしれない。
すると、その場にいた私と同世代の医師がこんなことを言った。
「そうか、今年は先生、本当にたいへんだったね。
でも、先生たちは未来があるから、これからいくらだって楽しいことがあるだろう。
この年になると“いま同窓会を中止にしてしまったら、この先、もう集まる機会はないんじゃないか”って考えちゃうんだよね」
そのやり取りに私は思わず噴き出してしまった。
たしかに、若い人たちがパーティーやスポーツをがまんするのはつらいことだろう。
とはいえ、彼らには先がある。
新型コロナウイルス感染症が収束したあとに、これまでの分を取り戻すことだって十分にできる。
それが50代、60代以上になると「今年はこの行事をやめておこう」と思ったときに、ふと頭の中でこんな声がするのも事実だ。
「本当にやめていいの? いまやらずにいて、何年かあとでできるようになったときには、自分がすっかりおとろえているかも」
もちろん、無理をして旅行や宴会をやるのは、決して良いことではない。
とくに高齢になればなるほど、感染のリスクも考え、慎重に行動するにこしたことはない。
ただ「全面的に集まりを中止するのは残念だから、人数を少なくして短時間だけ会いますか」と言って、お互いの顔を見ながら小規模な会食をする人たちの気持ちも、よくわかる。
これから忘年会やクリスマスパーティーのシーズン。
いつも通りというわけにいかないのは明らかだ。
若い人たちにとっては、この季節の予定が減るのは、さぞ残念だろう。
でもシニアだって同じ、いやシニアこそ「この機会を逃したら……」と思っていることを若い人たちにも知ってほしい。
来年こそは気軽に集まり、食事や会話を楽しめる年になるよう願っている。(精神科医)