「日本人のリモートワーク」最大の問題はここだ 「あうんの呼吸」「一方的な伝達」それで大丈夫?
11/30(月) 東洋経済オンライン
岡本純子 コミュニケーション戦略研究家
■コロナ禍で生まれた「社内コミュニケーション問題」
新型コロナウイルスの感染再拡大に伴い、リモートワークの機運がさらに高まりそうです。
通勤がなくなり、楽だという声がある一方で、環境面や生産性の理由から、二の足を踏む企業や人も少なくありません。
11月4日に東京商工会議所が発表した調査によると、リモートワークを実施している企業は53.1%と6月上旬に比べ、14.2ポイント減少しました。
「企業規模が大きいほど導入率は高く、中小ほど低い」という結果でした。
「働き方改革(時間外業務の削減)が進んだ」「業務プロセスの見直しができた」「コスト削減につながった」などとその効果を評価する声も多かった一方、「社内のコミュニケーション」(57.9%)に大きな課題意識を抱えていることが浮かび上がったのです。
リモートワークをしている多くの人が実感しているように、「リモートワーク最大のネック」ともいえるのが、この「社内コミュニケーション」です。
「同僚や上司と話す機会が減った」「気軽に雑談できる場がなくなった」など、今さまざまな問題が生じています。
コロナ禍によって変質する「社内コミュニケーション」は、今後、どのようにしていけばいいのでしょうか。
今回は、その「社内コミュニケーション」について、問題点と解決のヒントを掘り下げてみます。
リモートの生産性は出勤に比べどれぐらい劣るのか勝るのか、興味深いところですが、スタンフォード大学のニコラス・ブルーム教授はある中国の旅行会社を対象に調査を行い、「リモートでは生産性が13%上がった」と結論づけました。
■ポストコロナのリモート比率は20%、週に2日
教授の調査によれば、2020年5月現在で、年収2万ドル以上のアメリカ人の42%がフルタイムでリモートワークをしており、「70%の企業がリモートに肯定的」という結果でした。
アメリカではかつて「リモートワークは機能しない」という認識が強く、ヤフーやIBMといった大企業が導入し、撤回するといった経緯がありました。
しかし、「ツールの発達」「Wi-Fi環境の改善」などにより、そうした負のイメージは払拭され、今後も定着していくとみられています。
一方で、社員の間ではそのとらえ方に差があります。
「ポストコロナでもリモート勤務をしたいか」という問いに、20%が「したくない」、25%が「毎日したい」、残りの55%が「使い分けたい」と反応は分かれました。
ブルーム教授は、社員のリモート比率はコロナ前が全社員の5%、コロナ時代は40%、ポストコロナは20%ぐらいになり、「週のうち2日程度がリモートで」という形で収まるのではないかと予測しています。
「リモートのデメリット」としてよく指摘されるのは「社員が同じ物理的空間にいることで生まれる「偶然の出会い」(セレンディピティ)が喪失してしまうこと」です。
「Water Cooler(水飲み場)での出会いやおしゃべりが、創発やイノベーションの機会を作り出す」という発想から、多くのアメリカ企業がそうした出会いを促進するよう工夫をしてきました。
ブルーム教授によれば、実際に会社で日々顔を合わせる人たちの間では関係性が深まっても、そういった一足飛びの絆が作りにくいことから、「リモートの人たちは出世が遅れがちになる」という調査結果もあるそうです。
また、「社員の孤独感」も懸念材料の1つとなっています。
今後、リモートは常態化していくわけですが、とくに日本企業の場合、戦略的というよりは、「見切り発車で場当たり的な『リモート推奨』による負の影響」が懸念されます。
懸念される理由は企業によっても異なりますが、おもな理由として次のようなことが挙げられます。
@ そもそも、社内コミュニケーションが戦略的に行われてこなかった
A きっちりとした人事評価システムが確立されておらず、リモートでの成果を測りにくい
B 対面重視で、意思伝達を「飲みニケーション」などに依存してきた
C Wi-Fiの脆弱性、家庭内で働くスペースを確保するのが難しいなどの環境的な障害がある
D 海外とのやり取りにおける言葉の壁がある
■日本企業の多くが「コミュ障」という現実
これまで1000人以上のエグゼクティブのコミュニケーション指南に携わってきてよく実感するのは、いまだに「言えば伝わる」「言わなくて伝わる」と思っている人が本当に多いことです。
そうした文化もあって、「社内コミュニケーションは自然発生的にあるもの」と認識されており、基本は「上から下、下から上への一方的な伝達・報告」で終わっているのがほとんど。
「上下左右の対話の機会」「偶然の出会いからの会話」はリモートになってさらに減ってきています。
日本社会はタテ社会、以心伝心文化の中で、フラットに自由にコミュニケーションをする慣習がなく、誰にでも伝わるように言語化する技術も継承されない中で、「対面での『あうんの呼吸』に依存」してきたわけです。
日本の労働者のエンゲージメント(やる気、会社への忠誠度、愛着、コミットメント)はじつは世界最低レベル。
生産性も先進国一低く、現行の職場コミュニケーションのお作法は「機能不全」、まったく使い物になっていません。
私はそういった日本企業の「コミュ障」気質にリモートでのコミュニケーション不足が相まって、今後、日本企業の業績に「大きな影」を落とすのではないかと心配しています。
一朝一夕に解決できる問題ではありませんが、次の「3つの方策」を提案したいと思います。
方策@ 物理的には「密」を避け、心理的には超「密」に
「リモートによって、朝から晩までウェブ会議」というように忙しい人もいれば、ネットワークの網目からこぼれ落ちる人もいます。
社員間の「つながり格差」が顕在化していたり、部署内では頻繁にコミュニケーションをとっていても、海に浮かぶ「離れ小島」のように、それぞれが孤立していてつながりにくい、といった状態も目につきます。
社員が物理的にバラバラな状態だからこそ、心理的には超「密」なコミュニケーションが必須です。
例えば、大手損保会社AIG損保では、日ごろからトップが率先して社内コミュニケーションを進めていますが、全社員を巻き込んだオンライン社員総会を企画するなど、つなぐ努力を続けています。
方策A 「タテ」ではなく「水平的」な情報伝播を
イントラネットや社内報など、企業から社員への一方的な発信だけでは情報は伝播しないし、受け止めてはもらえません。 上から下への上意下達・一方通行の情報伝達だけではなく、「社員間の水平的なコミュニケーション」を活発化させる工夫も必要です。
例えば、住宅設備メーカー最大手のリクシルでは、コロナ以前に導入した「社内版SNS」が社員コミュニケーションの活性化の起爆剤となっています。
瀬戸欣哉社長も積極的に参加し、社員のアイデアが即日採用になるなど、スピーディーな決断にもつながっています。
方策B コンテンツを「立体的に」パワーアップさせる
メールでの伝達、ウェブ会議、イントラネットへの掲載など、情報伝達の手段が「パターン化」していないでしょうか。
情報が氾濫するこの時代だからこそ、もっと受け手が喜んで、自ら積極的に取り入れ、さらに「ほかの人に話したい!」と思える「コンテンツ」として、パワーアップさせていく必要があるでしょう。
例えば、星野リゾートは社員をキャスターに仕立て、記者会見をニュース番組風に作って発信しています。
気軽にわかりやすく3次元の映像情報になっているため、「社員が見ても、すぐに理解できる」という利点があります。
楽天も動画で社内のニュースを毎日、発信し、好評を博しています。
コンテンツをもっと魅力あるものにし、ウェブ会議だけではなく「あらゆるチャンネルを活用してコミュニケーションを進める努力」が不可欠です。
■いまこそ、「人と人とのつながり」が重要
コロナ禍によって、リモートワークは今後も増えていくでしょう。
物理的距離のある時代だからこそ、人と人との心の距離を縮め、つながりをつくる「コミュニケーション」の重要性が、ますます高まっています。
拙著『世界最高の話し方』でも紹介しましたが、リモート時代にこそ効果的な「コミュニケーションのコツ」は数多くあります。
ちょっとした「話し方の工夫」で、「たんなる伝える」が「つながる」に変わります。
これからの世の中をたくましく生き抜くために、「リモート時代のコミュニケーション術」という「最強のサバイバルスキル」を手に入れ、自信につなげていってください。