「もし仲間がうつ病になったら何と声をかけるか」……俳優・安田顕が知った「うつ病」のリアル
12/20(日) 文春オンライン
将棋棋士の先崎学九段が、自らの経験をもとに執筆したエッセイ『 うつ病九段 プロ棋士が将棋を失くした一年間 』(文春文庫)。
この本を原作にした特集ドラマが12月20日、夜9時よりNHK BSプレミアムにて放送される。
映像化にあたり、主役の先崎棋士を演じるのは安田顕さん。原作を読み、心を揺さぶられたという。
「『うつ病』というと重くなりがちなテーマですが、淡々とした語り口で、時には真面目に、また時にはユーモラスに、病気に立ち向かっていく姿が描かれています。
先崎さんの将棋に対する思い、病を乗り越えたいという気持ちが伝わり、ぐっときました」
先崎氏がうつ病と闘っていたのは、将棋界のみならず日本中が藤井聡太ブームに沸いた2017年。
7月のある日、大切な順位戦の盤面に集中できなくなった。
頭のなかでは不安と死のイメージが駆け巡る。
家族は精神科医である兄の先崎章氏に相談、章氏はすぐに入院を勧める。
そこからおよそ8カ月、先崎氏は対局をすべて休み治療に専念することになる。
安田さんはこの作品を通して、うつ病とはどんなものなのかを改めて知ったという。
「原作や脚本を読んで、うつ病の方がとらわれる希死念慮は『死にたい』ではなく、『死になさい』という脳からの信号なんだと知りました。
またうつ病の症状は人それぞれと聞き、実際に先崎さんご夫妻からお話を伺ったのですが、先崎さん視点で描かれている原作を読むことに加えて奥様の話を伺ったことで、演技への取り組み方が定まりました。
奥様からは、先崎さんがどう見えていたのか。そして何を感じたのか……。
大変デリケートなお話を伺ったのですが、最初にそういうアプローチをさせていただけたことは、とてもありがたかったですね」
もし親しい仲間がうつ病になったら……
ドラマでは、兄の章氏が先崎氏の顔を見てすぐに入院を勧めるシーンや、病にかかってから初めて棋士仲間に将棋で勝利するシーンなど、安田さんの表情がポイントとなる場面が多い。
「回復期は、感情が戻ってくるということなので、今までやらせていただいた役柄とそれほど違いはありません。
しかし、病の状態が悪いときの無表情のほうは、つくりあげるのがすごく難しかった。
自分の解釈が合っているのか分かりませんが、無表情とはいっても、心は揺れている、しかしそれが表面に出てこない状態なのではないかと。
自分の思いと脳から出る信号が違っている。
改めて、怖い病気だと思いました」
うつ病は当事者だけでなく、それを支える家族や身近な人にとって負担が大きい病気だ。
家族全員で先崎氏のうつ病と闘うなか、精神科医である章氏は、うつ病の症状に苦しむ弟に繰り返し「必ず治ります」と連絡したという。
うつ病がとても身近な病気である現代、安田さんは章氏のこの対応を心にとどめておきたいと語る。
「もし親しい仲間がうつ病になったら……
考えれば考えるほど涙が出そうになりますけど、医師でない自分が言えることがあるとしたら、『みんな待ってます』かな。この作品から、それを教えてもらいました」
やすだけん/1973年、北海道生まれ。
舞台、映画、ドラマなどを中心に全国的に活動。話題作に次々と出演し、硬派な役から個性的な役まで幅広く演じている。
INFORMATION 特集ドラマ「うつ病九段」
「週刊文春」編集部/週刊文春 2020年12月17日号