菅政権の終わりの始まり…“支持率急落&中身ナシ”という「絶望的現実」
1/19(火) 現代ビジネス
安積 明子(政治ジャーナリスト)
「対策が遅すぎる!」 「予算の規模が小さすぎる!」 「こんなわかりにくい内容で、国民の理解が得られるのか!」
第204回通常国会が始まった1月18日午前、自民党本部で開かれた「経済成長戦略本部」。
コロナ禍対策を審議するこの会議では、次のような意見すら出たのだった。
「こんなことでは、政権交代もありうるぞ!!」
これは冗談から出た言葉ではないに違いない。
実際に自民党内から、次期衆議院選に向けてこれまでにない危機感が湧き出ている。
たとえば自民党のある議員は、「経験したことがないほど、地元の有権者は厳しい。私はいつも叱られる」と述べている。
いや、まだ有権者が叱ってくれる方がましだ。
有権者から無視されるようになれば、政権を維持できなくなる。
それこそ自民党の終わりになる。
このような危機感が自民党で噴出している原因は、おそらく週末に公表された2つの世論調査結果だ。
日テレと讀賣新聞の共同調査では、内閣支持率は前月比6ポイント減の39%で、不支持率は同6ポイント増の49%。支持率より不支持率が上回ったのだ。
テレビ朝日の世論調査でも支持率が34.8%で、不支持率が42.5%。
そして注目すべきは自民党の政党支持率が45.7%と、内閣支持率を上回っている点だろう。
これは自民党に対する官邸からの“睨み”が利かなくなっていることを意味する。
もちろん菅政権を生み出した二階俊博幹事長は菅義偉首相の味方に違いない。
だが衆参合わせて394名の自民党の国会議員のうち、二階派のメンバーは47人(他に無所属の特別会員が3名いるが)で、大きさでいえば党内で4番目の派閥に過ぎない。
昨年9月の自民党総裁選では菅総裁への流れを作った二階氏に対し、志公会の麻生太郎副総理兼財務相、清和会の細田博之会長、そして平成研の竹下亘会長が渋々同調した。
だがメンバーの数からいえば、後者3派閥の方がはるかに多い。
実際には菅首相に替わって擁立できる人材がいないために、動きを止めているにすぎない。
だが地表に出ていなくても、地下深くでマグマはエネルギーを貯めるつつある。
またもや「短冊型」原稿…
さらに二階幹事長にしても、全面的に頼るわけにはいかない。
そもそも国民の大ブーイングを招いた「ステーキ会食」は二階幹事長が主催したものだった。
二階幹事長からお呼びがかからなければ、菅首相は合流しなかったはずだ。
しかも二階幹事長が菅首相をサポートした理由は、ただ二階派が生き残るために幹事長職にとどまるのが目的で、菅首相の政治的手腕に期待したわけではない。
鳴り物入りで打ち出したGO TOキャンペーンも、所詮は二階幹事長の支持団体のためのものにすぎず、感染拡大の原因として中止せざるをえなかった。
菅政権の最大の失敗といえる。
すでにそれらを痛感しているのだろう、この日の菅義偉首相の表情は冴えなかった。
信頼できる有能な側近を持たない菅首相は、まさに孤独の宰相といえる。
目は落ちくぼみ、かなりやつれたという印象だった。
菅首相は18日の施政方針演説に備え、前日の日曜日は外出もせずに赤坂宿舎で演説原稿を何度も読んだというが、それでも施政方針演説では読み間違いが目立っていた。
それに対して原稿案を黙読しながら聞いていた自民党議員の何人から、野次を飛ばすように異例の訂正が入っている。
そもそもこの施政演説の原稿は、果たして菅首相の“国民への思い”が入ったものだったのか。
実はその数日前に原稿案を読んだのだが、その硬直した内容に驚いた。
決して評判が良かったとはいえない10月の所信表明演説と、ほとんど変わらなかったからだ。
10月の所信表明演説は菅首相が総理大臣になって最初の記念すべき演説だったが、各省庁からの政策を羅列したいわゆる「短冊型」というもの。
残念ながら、政治家としての見識や国家観をうかがわせるものではなかったというのが大勢の見方だ。
そうした批判が多かったため、施政方針演説では改善されるだろうと思っていたのだが、またもや同じ「短冊型」原稿だった。
しかも挿入されたエピソードといえば、菅首相が1996年の衆議院選で初当選した当時、菅首相にとって「政治の師」ともいえる故・梶山静六元通産大臣から言われた2つのことのみだった。
すなわち、少子高齢化社会にあっては、国民に負担を強いることになるが、それを国民に説明すること。
そしてこれからの正念場に、国民の食い扶持をつくっていくのが政治家の役割だということである。
しかしこれらは「平時」の心得であって、「戦時」のものではない。
コロナ禍にあって多くの国民は生活に不安をいだき、それに押し潰される人たちも増えているのだ。
まさに命が脅かされている状態だ。
実際に2020年8月の自殺者数は1849人で昨年同月比で246人も増えており、9月10日付で加藤勝信厚労大臣(当時)より国民に向けて「生きづらさを感じている人へ」という異例のメッセージも出ている。
こうした危機的状況は菅政権発足前から発生しており、それを菅首相は受け継ぐ形で国のトップに就任した。
「未曾有の国難に対処する内閣」という意味で菅(すが)内閣は、東日本大震災時の民主党の菅(かん)内閣とよく比較されるが、菅(かん)内閣の場合はその任期中に全く予想外に発生したものだが、菅(すが)内閣はそれを認容した上で発足したという点で全く異なる。
新型コロナウイルス感染症の国内感染例が最初に発覚したのは2020年1月だから、菅首相は安倍内閣の中心である官房長官として8か月間、コロナ禍対策を行ってきたことになる。
しかも総裁選でも総理大臣就任時でも、菅首相は新型コロナウイルス感染症対策を第一に挙げていた。
覚悟とやる気は十分にあるはずだ。
ところがその後、それがさっぱりと見えてこない。
野党の政権批判の言葉
「“熱意”と“ビジョン”と“具体性”に欠けている。加えて“スピード感”がない」
衆議院で施政方針演説が終わった後、国民民主党の玉木雄一郎代表は危惧をもってこう述べた。
参議院での施政方針演説の後、立憲民主党の福山哲郎幹事長も次のように述べている。
「経営者、雇用者、1人親世帯などをどのように救済し、生活を守っていくのか言及がない」
普段ならバイアスがかかって聞こえる野党の政権批判の言葉が、命の瀬戸際で絶叫する国民の声のように思えてくる。
果たしてその声は菅首相に届くのか。
新型コロナウイルス感染症対策を巡る本格的な論戦は、20日から始まる。