防衛費の「無駄遣い」が止まらない…アメリカに抵抗できない「日本の悲惨な末路」
2/11(木) :現代ビジネス(半田 滋)
国会で2021年度予算案の審議が始まった。
防衛費は過去最大の5兆3422億円となり、新型コロナウイルス感染症対策の予備費5兆円よりも多い。
武器購入や23万人いる自衛隊の人件・糧食費に多額のカネがかかるとされるが、目に余るのはその無駄遣いぶりだ。
イージス・アショア代替策としてのイージス・システム搭載艦2隻の建造、開発した米国と日本以外どの国も買わないオスプレイの導入、米国でも評判の悪い滞空型無人機「グローバルホーク」の輸入は、まさに「無駄遣い3点セット」。
オスプレイとグローバルホークは、米政府への支払いが進み、実際に導入中止を決断できるのは新たに建造するイージス・システム搭載艦だけ、ということになる。
限られた予算を有効活用すべきなのは言うまでもないが、なぜか野党の中にも防衛費は「聖域」と見なす向きがあり、追及の手は緩い。
まず、イージス・システム搭載艦の導入過程から振り返ろう。
昨年6月、当時の河野太郎防衛相が配備停止を公表した後、国家安全保障会議で正式に導入断念を決定した。
ところが、トランプ米大統領にイージス・アショアを含む米国製武器の「爆買い」を約束した安倍晋三首相は収まらず、「イージス・アショア代替策」と「敵基地攻撃能力の保有」の検討を求める安倍談話を出して退陣した。
「安倍政権の継承」を明言する菅義偉首相は昨年12月、イージス・システム搭載艦2隻の建造と敵基地攻撃に転用できる12式地対艦誘導弾能力向上型の開発を閣議決定し、21年度予算案にこれらの関連費用が計上されている。
イージス・システム搭載艦の問題は多い。
そのひとつは巨額の費用がかかることだ。
地上配備を前提に設計されたイージス・アショアの大型レーダー「SPY7」を船に載せることにより、イージス護衛艦「まや」型を大型化する必要が生まれ、1隻あたりの建造費は2500億円以上と「まや」型と比べて766億円以上も高騰。
この差額だけで汎用護衛艦が1隻建造できるほどだ。
米国で開発中のイージス艦専用レーダー「SPY6」ならそのまま「まや」型に搭載できることから船体の大型化に伴う出費は不要となるうえ、「米政府御用達」の保証も受けられる。
だが、防衛省はイージス・アショアのレーダー転用にこだわった。
結局、SPY7を搭載するイージス・システム搭載艦は、米政府にとって未知の艦艇となり、防衛省はレーダーの性能を確認する実射試験費や人材育成費を負担することになる。
運用開始後も米政府の支援が欠かせず、バカ高い費用を請求される可能性が出てきた。
「まや」型は乗員310人なので、イージス・システム搭載艦も同数と仮定すれば、2隻で620人の要員が必要だ。
人員増が人件費の増加につながるのは言うまでもない。
海上自衛隊は予算不足と人員不足から汎用護衛艦の建造を見合せ、2年前から小型で安い護衛艦の建造を始めている。
この小型艦は、多機能護衛艦(FFM)と呼ばれ、1隻495億円、乗員100人とすべてがコンパクトだ。
FFMと比べ、1隻2500億円以上、乗員310人というイージス・システム搭載艦2隻の建造は、組織の実情を無視した「巨大なカネ食い虫」というほかない。
防衛省が天守閣を海に浮かべるのに等しい珍妙なアイデアにこだわるのは、イージス・アショアの配備断念により、米政府から多額の違約金が請求されるのを避けるためだ。
イージス・アショアをめぐり、米政府との間で2018年度6億円、19年度1757億円の契約を締結しており、配備断念となれば、そっくり違約金として没収されるおそれがある。
モノが手に入らないにもかかわらず、2000億円近いカネが米政府に取られるのだ。
そうなれば政治問題に発展し、安倍前政権や菅政権が野党に追及されるのは必至。
そうした事態を回避するため、防衛省は青天井の支払いになりかねないイージス・システム搭載艦を何食わぬ顔で建造しようとしている。
振り返れば、安倍前首相がトランプ前大統領の求めるままに購入を約束したことが間違いの元だった。
ミサイル迎撃に対応するイージス護衛艦は4隻から8隻に倍増され、迎撃ミサイルの射程も2倍に延びることが決まった後のイージス・アショアの追加購入は過剰であり、不要だ。
ここは米政府に違約金を支払ってでも、イージス・システム搭載艦の建造を見送るべきだろう。
値上げされ、それを買わされ…
次にグローバルホークを見てみよう。
グローバルホークは2万メートルの高高度から偵察する無人機だ。
米空軍が63機を調達する予定だったが、開発の遅れと価格高騰により、45機に削減、またドイツが導入をキャンセルするなど、売れ行きはよくない。
防衛省は2014年、米政府との間で3機を合計510億円で購入する契約を結んだ。
ところが、米側は17年4月になって、追加部品の開発に費用がかかるとして119億円高い合計629億円に値上げすると通告してきた。
一方の防衛省には武器の価格が25%上昇した場合、購入中止を検討するルールがあるが、米側が示した値上げ幅はそれより少ない23%。
図ったような「寸止め」に防衛省は中止を検討したが、最後は首相官邸の「予定通り買え」との声に押し切られた。
米人技術者の生活費「約30億円」も負担
だが、問題は終わらない。
防衛省は、尖閣諸島上空から中国公船の監視に活用する予定だったが、その後「陸上偵察用なので海上偵察には不向き」と判明。
巨費を投じて使えない偵察機を買うことになったのである。
さらに追い討ちを掛けたのは、再び米政府だ。
防衛省が負担するのは機体価格だけではない。遠隔操作に必要な地上装置や整備用器材などを含めると導入にかかる初期費用は実に1000億円にもなる。
この負担とは別に維持管理のための費用が毎年約100億円もかかる。
驚くべきことに、この費用の中に3機が配備される青森県の三沢基地に滞在することになる米人技術者40人の生活費約30億円が含まれているのだ。
一人あたり、年間7500万円の生活費を負担する計算。どれだけ優雅な暮らしをさせようというのか。
「なぜ生活費の負担までするのか」との防衛省側の問いに米側は「彼らは米国での生活を捨てて日本のために働くのだ」と「さも当然」と言わんばかりの回答だったという。
オスプレイ問題とは何だったのか
最後はオスプレイだ。
自衛隊のオスプレイ導入は、異例の経過をたどった。
本来、武器類はユーザーである自衛隊が選定する。
だが、10年先の安全保障環境を見通して策定する「陸上自衛隊長期防衛見積り」にオスプレイの名前はなかったとされる。
陸上自衛隊はオスプレイの2倍以上の人員や物資を空輸できるCH47大型ヘリコプターを55機も保有していたからだ。
導入することになったのは、米軍が沖縄配備を進めた2012年当時、沖縄から上がった配備反対の声に対し、民主党政権の玄葉光一郎外相が「安全性を訴えるため自衛隊も保有すべきだ」と提案、当時の森本敏防衛相が同調して調査費を計上、これを安倍晋三政権が引き継いだことによる。
「沖縄の民意」より「米軍の意向」を優先した政治判断である。
オスプレイは滑走路がいらない、夢の航空機とされるが、開発段階から墜落事故が相次ぎ、米国ではすでに40人以上が墜落事故で亡くなっている。
陸上自衛隊には17機配備される。
自衛隊版海兵隊と呼ばれる「水陸機動団」(長崎県佐世保市)が運用することから、防衛省は佐世保に近い佐賀空港への配備を決めたが、地権者の有明海漁協の反対により、実現できず、千葉県の木更津駐屯地に暫定配備されることになった。
今後、首都圏の空をオスプレイが飛び回ることになる。
こうして見てくると「無駄遣い3点セット」は、いずれも米国からの武器導入であり、政治家が関与したことがわかる。
文民である政治家が「これを使え」と軍事のプロである自衛隊の武器を選んだのだ。
その結果の「無駄遣い」である。
2021年度予算に盛り込まれるコロナ対策費は、どれほど多くても困るという話ではない。
不要不急な武器なら購入は見送り、その分を国民の安全安心のために使うべきだろう。