自衛隊メンタル教官が教える疲労コントロール法、疲れた心をリセット!
2021年02月12日 ダイヤモンドオンライン
仕事、生き方、人間関係…誰しも人生の中で一度は「やめるか?やめないか?」という問題に直面したことがあるでしょう。
何かを「やめる」ということは、これまでの努力や歩んできた道を一部否定することでもあるので、本人にとって悩ましく厄介な問題です。
そんな「やめる・やめない」問題で悩んで身動きが取れなくなり、苦しみを長引かせている人も多くいます。
そこで今回は、陸上自衛隊でメンタルケアに携わってきた下園壮太さんの著書『自衛隊メンタル教官が教える 心をリセットする技術』(青春出版社)から、「やめられない心」の原因の一つである疲労との向き合い方について解説します。
「やめる・やめない問題」をラクにする自衛隊の考え方
私は自衛隊で心理幹部として隊員へのメンタルヘルス支援を行ってきました。
自衛隊は決めたことを初志貫徹する組織、という印象を持つ人が多いかもしれませんが、実は、任務に対してはとても柔軟に対応をする組織です。
例えば、緊急性のある災害支援などは、準備していったことと現場で求められていることがまったく食い違っていた、というようなことは日常茶飯事です。
刻々と変わる任務に対応するには、まず「健康で動ける隊員」が必要です。
次に「目標を仮置きし、少し動いて、状況の変化を観察すること」が必要です。
平たく言うと、考えすぎず、思いついたらやってみて、それでまた考える、というサイクルを上手に回していくのです。
実は、自衛隊におけるこのような作戦の進め方が、自分の中で固定しやすい「やめる・やめない問題」を柔軟に動かしていくのにぴったりなのです。
この方法なら、いたずらに自信を失うこともなく、疲労したり不安で動けなくなることが少ないからです。
これらの経験の中で、私がつかんだ「やめられない心」をラクするためのポイントを紹介します。
自衛隊訓練で重視するのは「疲労のコントロール」
何をおいても優先して取りかかりたいのが、「エネルギーのケア」です。
「やめること」とエネルギーはまったく関係ないと思われる方が多いでしょう。
しかし、私が自衛隊で隊員の精神面のケアをするときに気づいたのが、「エネルギーケアが何より大切なのだ!」ということでした。
日頃からトレーニングを積み、体を鍛えているとはいえ、災害の救援活動や紛争周辺地域での任務は、肉体的、精神的に過酷なものです。
予測できないトラブルが起こったときにもすみやかに状況を把握し、任務を遂行しなければいけません。
鍛えられた隊員でも、活動を続けているうちに集中力がなくなってきて、ミスをしはじめ、協調性がなくなり、ケンカをしやすくなります。
こうなってくると、何をやっても悪循環で、判断ミスで命の危険にさらされる事態になりかねません。
そんなときに私は、隊員たちに繰り返しこう伝えました。
「人間は疲れると、体調が悪くなるだけでなく、能力が落ち、性格も悪くなる」
頭痛・不眠など身体不調が出る、ミスが多くなる、イライラする、悲観的になる、人間関係が悪化する……。
これらは、根本的には疲れが原因であることがほとんどなのです。
そしてこれは、人間の基本原則と言えるものなのです。
この基本原則を忘れないように、軍隊組織では、時に冷徹なくらい、疲労のコントロールを優先します。
例えば派遣された災害現場や救助活動において、「ここまでやりたい、やらなければいけない」と隊員が思っていても、むしろそのように感情的、感傷的になっている現場であればあるほど、隊員たちを取りまとめる指揮官は予定通りに撤収し、隊員たちが充分に休息できる時間を確保します。
なぜなら、後ろ髪を引かれて中途半端な判断をすることによって、かえって心身の疲労を引きずり、危険を引き寄せる場合があることを指揮官は知っているからです。
重視すべきは短期の目標ややりがいではなく、長期的な目標達成です。
長期戦であるほど、長期にわたる疲労を見据えて「ここでやめておく」というつらい決断をするのが、指揮官の役割でもあるのです。
「疲労メーター」で自分の疲れに気づこう
実は、疲労を回復して体の条件が整えば、それだけで「やめる・やめない問題」に決着がつく人もいるのです。
エネルギーがなくなっているからやめられなかったんだ、ということに、人は元気になって振り返ってからやっと気づくのです。
こういった気づきにくい疲労に気づくために、ここでは疲労の指標となる「疲労メーター」を示しましょう。
多く当てはまるほど、あなたの疲れのレベルは上がっています。
私は、クライアントとはじめて接するときには、必ず疲労の度合いを把握するようにしています。
疲労が強いと、自己改善にチャレンジしても、「やめる・やめない問題」に取り組んでも、満足のいく成果が極めて出にくいのです。
まずはエネルギー対処を優先します。
◎疲労メーター
□ついこの間までできていた同じ作業にすごく時間がかかる
□以前より環境は改善したのに、なぜか元気がない。疲れが抜けない
□取るに足らないことでイライラしたり傷つきやすくなった
□この先のことが漠然と不安だ
□趣味を楽しめなくなってきた。意欲が湧きにくくなった
□責任を負うこと、新しいことを避けたくなる
□人に会うのが億劫だ
どんなに元気そうにふるまっても、しがみつこうとしても、無理には限度があります。
「人間は、がんばれても、3カ月から半年である」と、私は自衛隊時代から感じてきました。
自衛隊でも、海外勤務は3カ月から半年で終わらせるようにしているほど、この法則は明白です。
負荷が強い状態が続く場合、何とか持ちこたえても、半年を過ぎたころにはエネルギーが尽きて、ガクンと落ちてしまうのです。
がんばることで苦境を乗り越えてきた人ほど、疲れているという感覚を感じていても、頭で「大丈夫だ」と否定してしまいます。
しかし、「あなたがダメなわけじゃない、努力が足りないわけでもない。ただ疲れてしまっているから、今いろいろうまくいかないだけなんですよ」とお話しして、本人が疲れに気づくだけでも、直面しているトラブルの5割以上は、解決してしまうのです。
疲労は、「最近、どうもいろいろうまくいかない……」という思いの奥底に流れています。
だから、疲労に気づき、休もうと思うことが、まず大切なのです。
疲労回復に効果的な「おうち入院」のすすめ
疲労を回復する最も効果的な方法を、私は「おうち入院」と呼んでいます。
入院中は、人は治療を受け、回復するためにじっとしています。
パソコンを持ち込んで仕事なんてしていたら、医師に怒られます。
入院しているつもりで、ぼーっとする。
スマホは見ない、本も読まない、家事もしない。
ただ、眠ります。
眠ることによって、頭の中で必要のない情報がお掃除されて、重たかった脳のデータもうんと軽くなるのです。
「おうち入院はよさそうだけど、休みなんて取れない」という人も多いでしょう。
私自身も、自衛隊時代は土日も講演などで埋まっていて、おうち入院は難しい状態でした。
それでも何とか工夫してエネルギーを回復する方法はないだろうかと思い、考えついたのが、月曜の午前に半休を取ることでした。
週はじめの半日は、朝礼や会議でつぶれてしまいます。
自分が必ずいる必要がある会議もそう多いわけではありません。
そこで、月曜午前に半休を取ってみることにしました。
朝はゆっくりと目覚め、通勤ラッシュのない中、ゆっくり出勤できる。
実際にやってみると、これは確かに心身の休息になっているな、と実感し、そのリズムで毎週、半休を取るようにしたのです。
子育てや介護で忙しい人も、なかなか休めないものです。
1〜2時間でもいいから子どもやご両親と離れて、自分だけの時間を確保できる方法はないか考えてみてください。
家族と過ごすと、どうしても「がんばらなくては」という気持ちを発動させることになり、知らずにエネルギーを消耗してしまいます。
確保した大切な時間を過ごすときには、「『やめる・やめない問題』についてあまり考えない」ことも大切です。
休憩タイムは、人や仕事からも距離を置きましょう。
SNSのチェックもやめます。
あなたが、あまりエネルギーを使わず、リラックスできて、リフレッシュできること、楽しいと思えることは何でしょうか。
自分が楽しければ、何をしてもいいのです。
楽しいことと言っても、本を一冊読破するとか、資格試験のため○○を覚え切る、などと、お休みにまで何らかの課題や目標を設定してしまう人がいます。
それでは、リフレッシュするはずが疲れをためることになりかねません。
「今日は一日、生産性のあることは何もしないでぼーっとした!」。
そんなふうに言えるのが、本当の「お休み」なのです。