2021年03月28日

「福岡5歳餓死事件」に見るカルト的手口の異様

「福岡5歳餓死事件」に見るカルト的手口の異様
オウム真理教の内側と重なって見える
2021年03月27日 東洋経済オンライン
青沼 陽一郎 : 作家・ジャーナリスト

5歳の子どもが、実の母親から十分な食事を与えられずに餓死する。
福岡県篠栗町で昨年4月に起きた事件。
保護責任者遺棄致死罪で母親の碇利恵被告(39)と、知人の赤堀恵美子被告(48)が、今月初めに逮捕され、23日に起訴された。

親族以外の人物が保護責任者遺棄致死の罪に問われるのもきわめて異例のこと。
そこに浮かび上がるのは、典型的なカルトの構図だ。

「ママ友が悪口を言っている」とでっち上げて親密に
報道によると、2人はいわゆる「ママ友」として知り合ったが、3年前に赤堀被告が「ほかのママ友たちがあなたの悪口を言っている」とウソの話から「私は味方だ」と碇被告に持ちかけ、周囲から距離を置いた親密な関係がはじまったという。
その後、「保護者から子どものトラブルで訴えられた。暴力団とつながりのある“ボス”に仲裁してもらおう」などと架空の話をでっちあげ、碇被告から50万円を詐取する。
さらには「お前の夫が浮気している」「浮気調査費用を“ボス”が立て替えている」などと、これまた虚偽の話で碇被告からカネを引き出すと、ついに2年前の5月に離婚に追い込む。
そのうえで「元夫との裁判や慰謝料で今後お金がいるので質素な生活をしなければならない」「慰謝料を多く取るために生活が困窮していると見られたほうが有利だ」などと言って、2019年8月ごろから碇被告の3人の子どもにも食事制限をさせるようになった。
その際も「ボスが怒るから食べすぎたらいけない」「12台の監視カメラでボスが見張っている」などと碇被告を脅している。

しかも、同年11月から碇被告は生活保護を受給していたが、それも赤堀被告に手渡していた。
赤堀被告は他にも児童手当など計約200万円を騙し取ったとして、詐欺罪などで起訴されている。
詐取した総額は1000万円を超えるとみられている。

赤堀被告は、碇被告の預金通帳を預かり、食費も与えず食料は自ら運んで差し入れるなど、家庭の生活全般から食事の量も管理。
昨年3月には食事の差し入れが減り、10日間、水しか与えられないような生活の末に、三男で当時5歳の翔士郎くんが重い低栄養状態に陥り、4月18日に餓死した。
死亡時の体重は約10キロで、5歳児の平均18.9キロの半分ほどしかなかった。
まさに骨までしゃぶりつくすような赤堀被告の所業だが、母親である碇被告もどうしてそこまで相手の指示に従順だったのか。

結果からすると、この母親は相手から逃れられない呪縛に陥っている。
それはカルトにおける教祖と信者の関係もいっしょだ。
極端に聞こえるかもしれないが、この2人の関係を置き換えると、かつて殺人まで犯したオウム真理教の内側と重なって見える。
比較してみればよくわかる。
その道筋と6つの共通点をみていく。
不安に駆り立てられた人を囲い込む

@不安と生きづらさ
2人の関係は、「ほかのママ友たちが悪口を言っている」と告げられたウソからはじまっている。
言われた側は、突然のことに驚いたはずだ。
しかも、真面目な性格だったのだろう。
人に嫌われたくないという思いが、不安を駆り立てる。
それまでの生活が、急に生きづらいものになる。
オウム真理教の場合は小さなヨーガ教室から始まり、生きることの辛さを説いた教祖の麻原彰晃(本名・松本智津夫)の著作に傾倒した若者たちが参集してくる。
20世紀の終わり。
バブル経済まっただ中。
その時代を生きた者にしか理解し難いかもしれないが、現代とは明らかに違った空気が漂っていた。
そこに不安も生まれる。
物欲にまみれたこの豊かさが本当の幸せなのだろうか。
この幸せもいつまで続くか。
このころに「幸福の科学」や「ワールドメイト」といった新興宗教が相次いで誕生してブームとなったことも、時代が後押ししたひとつの証だろう。

麻原も最初は、少なくとも表面上は信者に寄り添うようにして、人心を掌握していく。
赤堀被告が「私は味方だ」と声をかけたように。

A情報の遮断と敵視
赤堀被告は「私は味方だ」と言って悪口をいうママ友を敵視させ、碇被告を引き離した。
そうすると正確な情報にはアクセスできない。
赤堀被告の都合のよいものだけになる。
次に偽の浮気情報で夫婦の仲を切り裂き、離婚させて孤立させる。
もはや赤堀被告の言葉を信じるしかない状況ができあがる。
オウム真理教は、富士の麓に巨大な教団施設を作って、信者を外界から遠ざけたことは周知の事実だ。
社会とのトラブルを起こしながらも、悪いのは社会のほうだと敵視し、自分たちが優れ、虐げられているという都合のいい情報ばかりを共有する。
内部の情報操作で教祖を神格化させていく。

B威厳と畏怖
赤堀被告は、自分の背後に暴力団とつながりのある“ボス”の存在があると言った。
ボスの怒りをかう恐ろしさを示唆している。
オウム真理教では、あがめ立てる神仏が教祖についていた。
というよりも、神仏のお告げを受けられるのは自分だけだと言った。
時には、そのお告げを利用して信者を煽動した。

C監視
碇被告は生活が12台のカメラで監視されていると信じた。
赤堀被告がそういうからだ。
実際には赤堀被告に監視、隔離されている。
教祖に超能力があるとされたオウム真理教では、教祖が信者の心の中までを見透かしていると信じた。
実際には、教団施設に監視カメラが置かれ、信者が互いを監視して告げ口していた。

経済的に孤立させ、苦しい状況に追い込む

D財産没収
赤堀被告は、母親から通帳を取り上げ、保護費も提供させて、経済的にも孤立させている。
そうして私腹も肥やす。
オウム真理教では、出家にあたって全財産のお布施を強要した。
教団から逃げられないようにする目的だったが、結果的に教団の資産が増えることになり、それがテロ事件の下支えともなった。

E苦行
まるで極限修行のような食事制限、貧困生活は心から正常な判断を奪う。
それでも、我慢して従ったのは、それで離婚問題もすべて解決すると信じたからだ。

オウム信者の修行の先にも「解脱」という到達点あり、それによって乱れた今生の「救済」という大義があった。
だが、睡眠不足と疲労を招くばかりの出家生活は、やはり正常な判断を奪う。
気がつけば指示に従って動くテロ組織の一員になっていた。
教祖の指示とは言え、実行したのは信者たちだ。

福岡のケースも子どもが死んではじめて異常に気がつく。
司直の手によって閉鎖的な環境から解き放たれて、後悔と自責の念に襲われる母親。
ただ、これを洗脳だとか「マインドコントロール」と論評する報道も少なくないが、一連のオウム裁判では弁護側がマインドコントロール理論を主張したものの、ことごとく否定されている。
そうして190人が有罪となり、うち13人の死刑が執行された。

不安な時代は判断を狂わす
小さな命と多くの命を奪った2つの事件に教訓があるとすれば、結果的には抜け出せない呪縛に陥っていたとしても、その入口はこの世界のどこにでもあるということだ。
オウム真理教の誕生にあった、当時の時代的背景。
カネとモノにあふれたバブル経済にわいていた特異な時代。
その当時はなかった「ママ友」という世界。
そこから放逐される恐怖。

今はコロナ禍にある。
この状況がいつまで続くのか、不安は募る。
経済的に追い込まれている人たちも少なくない。
自粛生活による孤独。
そうしたところで、ふっとしたことがきっかけで詐欺にひっかかったり、甘い言葉を信じたくなったりすることがあるかもしれない。

普通なら心が奪われることはなくても、環境が人の心を左右する。
判断を狂わせる。
そしてカルト的なものにはまる。
取り返しのつかない事態に落ちる。

誰もがそうなってもおかしくはない、いや、むしろなりやすいと自覚したほうがいいかもしれない。
そういう未知の時代を生きている。
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☁ | Comment(0) | 健康・生活・医療 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする