2021年04月18日

いじめのピークは「小2」低年齢化の衝撃の実態

いじめのピークは「小2」低年齢化の衝撃の実態
10年前は中1だったのがなぜ変化したのか
2021/04/17 東洋経済オンライン
石井 志昂 : 『不登校新聞』編集長

学校でのいじめというと何歳くらいが多いイメージがあるでしょうか。
最新の調査を聞くと多くの人が驚くかもしれません。 文科省の調査によると、小学校2年生がいじめのピークであることがわかりました。
また、コロナ禍でいじめが増えていくことが予想されています。

『不登校新聞』の編集長としていじめや不登校を20年にわたり取材してきましたが、子どもたちの実態をお伝えします。

小1から陰湿ないじめが
eスポーツの分野で活躍中の永田大和さん(19歳)は、小学校2年生から小学校4年生にかけていじめを受けていました。 「同級生からは『居ない者』として扱われることが多かったです。
ほかのも、物を隠されたり、心当たりのない噂を流されたりすることもありました。
殴る、蹴るという暴力もありましたが、多かったのはそういうネチネチしたやつでした」

無視や噂話などのいじめは「コミュニケーション操作系のいじめ」と呼ばれています。
その特徴は見えづらいこと。殴る・蹴るといった見えやすい暴力ではなく、被害や攻撃性が見えにくい言わば「陰湿ないじめ」です。
陰湿ないじめといえば中高生というイメージが私にはあります。
むしろ見た目もかわいい小学生がまさかそんな陰湿ないじめをするとは思ってもいませんでしたが、永田さんと同様の陰湿ないじめのケースも最近は聞くようになってきました。

今年、小学5年生になった男児は、小学校の入学当初からいじめを受け始めていました。
男児が言うには同級生から「間接的に否定されることが多かった」と。
具体的には
(1)鬼ごっこの際にずっと鬼にさせられる、
(2)遊びの拍子に強く殴られる、
(3)「赤ちゃんみたいだね」など意図がわかりづらい言葉で否定されるなどです。
いじめのストレスから、男児は寝ているあいだに歯ぎしりがひどくなり、ある日、大泣きして学校へ行きたくないと母親に訴えたそうです。
男児はいじめを訴えると「みんなの空気が悪くなる」と思って黙っていたそうです。

小学校にとどまらず、幼稚園から「コミュニケーション操作系のいじめが始まっていた」と語るのは現在20歳の女性でした。女性は幼稚園のころから、仲間外れなどのいじめを受けていたため、小学校に入ってからは、いじめられないキャラを研究。その後は「自分を取り繕うように生きてきた」と話してくれました。
仲間外れや無視などの陰湿ないじめは小学校低学年でも確実に起きており、最近の文科省の調査をみると、それが広がっているという傾向が顕著に表れていました。

2019年度に起きた小・中・高のいじめは61万2496件。
学年別でみると、もっとも多いのは「小学校2年生」。
ちなみに10年前の調査結果を見ると中学1年生がピークでした。
多くの人の感覚と近い調査結果だと思いますが、現在はトップ3が小学校1年生から3年生が占めるなど、いじめの低年齢化は顕著なのです。

専門家の指摘を総合すると、いじめの低年齢化が進んだ要因は2つです。
ひとつは調査の定義が変わったこと。
ひやかしや悪ふざけといった軽微な事例も報告するよう文科省が求めており、これに応じて小学校低学年のいじめ件数は増えました。
ある小学校教員によれば、そもそも小学校低学年の場合の子たちによる人間関係のトラブルはよく起きていたそうです。
もうひとつの要因は、小学校低学年の子どもたちが感じるストレスが増加したことです。
不登校の子どもたちなどを長年にわたり見てきた西野博之さん(フリースペースたまりば)は、ストレスのあまり暴発してしまい、人間関係を築きづらい子も増えてきたと感じているそうです。

背景に早期教育の影響も
西野さんによれば、自分より弱い立場の子どもに暴力を振るうのは、子どもの性格が悪くなったわけではなく、小さいころからストレスをためこむ子が増えたからだと指摘しています。
要因は早期教育。
幼稚園や保育園のころから、学校に適応するための教育が盛んになり「手遅れにならないように」と習い事を掛け持ちするなど、余裕のない生活をする子が増えているそうです。
それだけが理由ではないと思いますが、「子どもたちの生きづらさはピークに達している」と西野さんは言います。

30年以上にわたり、小学校教員を務めてきた先生も「子どもたちの生きづらさ」を指摘していました。
チャイムが鳴る前に座らせることや、班ごとに決めたマナーやルールを守らせるなど「子どもたちに求める規範意識が年々、高くなってきていて、子どもがすごく生きづらそう」だと先生は語っていました。
高い規範意識を年少のころから求めた結果、子どもたちは表面上は「よい子」や「問題のない子」に見えるものの仲間内で暴力が横行してしまうのだそうです。
またコロナ禍でいじめが増えることも懸念されています。

NPO法人「共育の杜」の調査によれば、コロナ禍の影響によって9割の教職員が「今後いじめが増える可能性が高い」と回答していました(※2)。

コロナ禍の今だからこそ
そもそも4月は大人の注意が必要な時期です。
進学・進級により人間関係が刷新され、「問題がない」と見られていた子もいじめの標的になってしまうことがあります。
この時期に大人にお願いしたいことは、たったひとつです。

今回の記事の前半で紹介した小学校5年生の男児は「子どもがやったからといって軽く扱わないでほしい」と話してくれました。
いじめが起きていても「子どもどうしで起きたことだからしかたがない」や「悪ふざけだから大げさにしなくてよい」と判断をするのはいじめを受けた本人であり、先生や親ではありません。
苦しんだ人の年齢が幼少であっても「SOSを邪険にしないこと」は最も大切なことです。

もしもSOSを受けた場合、いじめを受けているとわかった場合は2つの対応をお願いします。
ひとつめは子ども本人が言った話を記録すること。
学校や相談機関と話し合いの資料になるからです。

もうひとつは、子どもの安全を確保すること。
いじめがある場合は躊躇せずに学校を休ませてください。
学校を休めば「社会性や学力が身につかない」と不安視される方もいますが、いじめを受け続けて身につくのは学力や社会性ではありません。憎しみや自己否定感です。
親に訴えても救ってくれなかったという不信感です。

私はたくさんのいじめ経験者に取材してきましたが、避難が早かった人ほど、心の回復は早い傾向がありました。
子どもが苦しいときほど、安心・安全が最優先という原則をぜひ実行してもらいたいと思っています。


※1・令和元年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査(2020年10月22日発表)。
また、いじめ件数の呼称は「発生件数」ではなく 「認知件数」 に2006年度から改められている。
いじめは第三者からは見えづらく「教員が認知できた件数は真の発生件数の一部である」という認識からの呼称変更。
文中では端的に「件数」と省略。
※2・NPO法人「教育改革2020『共育の杜』教職員勤務実態調査(2020年8月21日発表)
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☁ | Comment(0) | 健康・生活・医療 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする