「健康番組の情報」鵜呑みにする高齢者の超危険
インターネットの健康情報も怪しいものが多い
2021/04/25 東洋経済オンライン
松村 むつみ : 医師・医療ジャーナリスト
ある調査によれば、高齢者の多くが健康情報の多くを「テレビ」から得ているそうです。
依然として大きな影響力を持つテレビ。
しかし、テレビが発信する健康情報の多くはいまだ玉石混淆とも言えます。
正しい情報を得るには、どうすればいいのでしょうか?
医師で医療ジャーナリストの松村むつみ氏による『自身を守り家族を守る医療リテラシー読本』より一部抜粋・再構成してお届けします。
2017年に国内の雑誌に発表された、高齢者が医療健康情報をどこから得ているかの調査を図に示しました。 (画像:『自身を守り家族を守る医療リテラシー読本』より) これは、東京都と長野県で合計518人の60歳以上の高齢者に対して行われた調査の結果で、
テレビから得る情報は、「医者や専門家」から直接得る情報よりも割合が多くなっています。
調査によっては、「かかりつけ医」「健康診断」などがテレビよりも上位にきているものもありますが、どの項目も、総じてテレビが上位にきており、特に高齢者においては、インターネットの影響はそれほど高くはありません。
情報を得る先として「テレビ」、「医者や専門家」に次いで多いのは、「新聞」、「友人や家族」となっています。
また、株式会社インテージヘルスケアが全国11万人に対して行った調査によると、年齢が高くなるほど「かかりつけ医」「健康診断」などの信頼できる情報源から情報を入手する割合が高くなると報告されています。
この調査では、若い人ほど、テレビCMや家族や友人などの口コミから情報を得る割合が高い、という結果でした。
高齢になるほど病院にかかり、専門家から直接情報を得る機会が多いことを反映していると思われます。
依然として、テレビは大きな影響力を持っています。
文字情報だけではなく、映像や音声などを駆使して総合的に情報を伝えるのがテレビといえますが、昔と比較して正確性が求められるようになったとはいえ、医療情報に関しては、番組や局によってはまだまだ玉石混淆の情報を発信しているようです。
視聴者のリテラシーが試されます。
印象に残る情報に触れたときほど冷静になり、深呼吸して、自分で調べたり、さまざまな角度から検討してみたりすることが必要です。
高齢になるほど、かかりつけ医などから情報を得ることが多くなるという調査結果があるのは、喜ばしい傾向であるといえるでしょう。
最近は、薬局で薬をもらう際に、薬のことや病気のことについて、薬剤師に気楽に尋ねられる環境ができつつあります。
以前は、病院でないと処方してもらえなかった薬が薬局で手に入ることも増えました。
医療者と患者さん、一般の方々とのコミュニケーションを考えると、薬剤師が果たす役割は大きくなってきていると思います。
何か疑問があれば、薬局で気軽に聞いてみるのも、一つの方法です。
インターネットの健康情報も怪しいもの多い
薬や病気の治療について調べたいとき、インターネットであれば「どのサイトを見るか」は非常に重要です。
一つ安心できるのは、以前ディー・エヌ・エーにより運営されていたメディア「WELQ」の誤情報が問題となった際、グーグル社はSEOを変更して公的な情報や信頼できる情報が上位に表示される仕組みに変更しました。
このため、本書執筆時点では多くの医療情報に関して、公的ページが上位に表示される仕組みになっています。
例えば、「大腸がん」をキーワードに検索エンジンのGoogleで検索すると、国立がん研究センターの「がん情報サービス」が最上位に表示され、診断や治療についての正確な情報が手に入るようになっています。
どうしても、テレビやインターネットのメディアが扱う情報は断片的になりがちです。
インターネットを使って何か情報を得ようとするのなら、まずはこのような公的なページで病気について一通り調べ、基本的なことがらを把握するのがよいでしょう。
また、病気になったときに使える制度は、厚生労働省や自治体のページに掲載されています。
あわせてそちらも見てみましょう。
(画像:『自身を守り家族を守る医療リテラシー読本』より) がんをはじめとするさまざまな疾患について、現在は「ガイドライン」が出版されています。
日本で診療ガイドライン作成を支援している、Minds(厚生労働省委託事業EBM普及推進事業)によると、診療ガイドラインとは、「診療上の重要度の高い医療行為について、エビデンスのシステマティックレビューとその相対評価、益と害のバランスなどを考慮して、患者と医療者の意思決定を支援するために最適と考えられる推奨を提示する文書」と定義されています。
簡単な言葉で言い換えると、さまざまなエビデンスを統合して、診断や治療に対して、どの方法がどの程度勧められるのか、あるいは勧められないのかが書いてある文書のことです。
ガイドラインでは、その診断や治療を勧めるのにどの程度確証があるかを、A−Dに分けています。
一般的には、AやBであれば、その診断法や治療法は勧められるということを意味します。
A=行うよう強く勧められる。
B=行うよう勧められる。
C=行ってもよいが、十分な科学的根拠がない。
D=行わないよう勧められる。
ところで、「ガイドライン」は通常、あくまでも医師をはじめとする医療従事者が、診療の指針として使用するものであることに注意しなければなりません。
しかし、大腸がんや乳がん、子宮がん、膵がんなどでは、患者さんのためのガイドラインや、ガイドライン解説の本も出版されています。
これらの本は、自分が受ける予定の治療の説明を聞くのにも参考になりますし、医師への質問や、医師との話し合いにも参考として使用できます。