岸田新内閣発足 いつまで持つか、地味で小粒な傀儡政権
2021/10/04 日刊ゲンダイ
カネも公認権も他派閥に譲った岸田人事に党内からも「唖然」の声
岸田新内閣の全容が固まったが、さっそく「何だ、こりゃ?」の大合唱になっている。
党執行部は「政治とカネ」の問題を抱えるなど“スネ傷”の人物だらけで、閣僚人事も新味ゼロ。
この政権は一体何をやりたいのか、さっぱり見えてこない。
ハッキリしているのは、党重鎮や派閥に過剰なまでの気を使ったということだけだ。
中でも、幹事長と官房長官のポストを両方とも他派閥に譲ったことには、党内も唖然だ。
甘利幹事長は麻生派で松野官房長官は細田派。
自身が率いる岸田派(宏池会)からは、党四役や官房長官、財務相など主要ポストへの起用を見送った。
衆院選を控えた今、公認権と党のカネを握る幹事長の権力は絶大だ。
そのポストに甘利を就けたのは、総裁選で岸田支持を打ち出した論功行賞と同時に、「3A」と呼ばれる盟友関係の安倍前首相、麻生新副総裁に配慮したものだ。
今後の党運営は甘利、麻生が主導することになる。
安倍の出身派閥で最大派閥の細田派は、岸田総裁誕生に多大な貢献をしたとして、幹事長か官房長官のポストを求めていた。
幹事長を麻生派が押さえたことで、細田派には官房長官ポストを渡してバランスを取った形だ。
「首相になれるなら、3Aにひれ伏して、人事権も明け渡すということでしょう。
岸田氏は保守本流たる宏池会の理念も捨て去って、3Aにおもねり、安倍政治の亜流を続けようとしているように見えます。
宏池会の首相は1991年の宮沢喜一以来30年ぶりですが、岸田氏と同じように他派閥に支えられて首相になった宮沢喜一だって、女房役の官房長官だけは譲らなかった。
これだけ主要ポストを他派閥に渡してしまえば、岸田氏は何をやるにも他派閥に“お伺い”を立てなければなりません。
3Aの操り人形で、言いなりになるのは目に見えている。
派閥の闇支配が完全復活したということです」(政治評論家・本澤二郎氏)
論功行賞や3A傀儡の批判に対し、岸田は「適材適所」と愚にもつかない釈明をしていたが、よくもまあ、選挙前にこんな人事をやれたものだ。
菅内閣をさらに小粒にしたような地味な布陣には、「これで選挙を戦えるのか」と自民候補者から悲鳴に近い声が上がっている。
岸田内閣を安倍、麻生、甘利の「3A」が裏で操る構図は、内閣の陣容からも明らかだ。
党役員や閣僚の人事も甘利が主導したとされ、高市政調会長に電話で人事を伝えたのも甘利だったという。
もっとも、“闇将軍”が3人もいると、あちらを立てればこちらが立たずで、「人の話を聞くこと」が特技の岸田は右往左往することになるはずだ。
実際、早くも3Aの結束に軋轢が生じている。
象徴的なのが、安倍の強い意向で細田派の萩生田前文科相に決まりかけていた官房長官人事が覆り、松野元文科相に内定した経緯だ。
「安倍さんは官房長官に腹心の萩生田を推していた。しかし、まだ当選5回ということもあり、甘利さんが『党内で不満が出る』という理由で起用を見送った。
それで同じ細田派の松野さんにお鉢が回ってきたといわれています。
派閥内での序列は松野さんの方が上なので細田派幹部は納得していますが、安倍さんは面白くないでしょう。
岸田さんが甘利さんを頼りすぎているようにも見えます」(細田派関係者)
各派閥に気を使い、微妙に思惑が異なる3Aの意向も汲みながら政権運営をすることになるのが傀儡の悲哀だ。
安倍・菅政権で続いてきた官邸主導も後退するとみられている。
「党の力が強くなるのはいいとしても、どっちつかずを続けていれば求心力を失うだけです。岸田氏がリーダーシップを発揮して、内閣支持率が上がり、衆院選で大勝すれば官邸の力は強まりますが、新政権の布陣を見ると、どこまで岸田氏本人の意思が反映されているか疑わしい。リーダーシップは期待できそうにありません」(政治ジャーナリスト・山田厚俊氏)
マタ裂き状態に苦しむ新内閣になりそうだ。
いまから「あの男に官房長官が務まるのか」と揶揄されているのが、新官房長官に決まった松野博一(細田派)だ。
しょせん論功と派閥の論理で選ばれたに過ぎないが、それにしても、あまりにも“軽量”“小物”である。
官房長官に起用されたのは、細田派が「幹事長か官房長官は細田派に任せてもらいたい」と要求したためだ。
幹事長には麻生派の甘利が就いたため、細田派には官房長官が回ってきた。
意外にも安倍ベッタリではないという。
今回の総裁選では、安倍が推した高市ではなく、岸田を支持。
町村派(当時)代表の町村信孝と同派の安倍が争った2012年の総裁選の時も、町村を支援している。
松野は当選7回。早大法学部を卒業後、ライオンに入社。2年ほどで退社し、松下政経塾に入っている。
森喜朗元首相に近い文科族だ。
永田町では「控えめ過ぎて存在感がない」「押しが弱い」との評価だ。要するにパッとしない。
元衆議院議員で政治学者の横山北斗氏が言う。
「私が05年に文部科学委員会にいたころ、松野氏も委員でした。自民党から下村博文氏や馳浩氏が委員会に出席して発言していたのを覚えていますが、松野氏が何を語ったのか記憶にありません。迫力不足で印象に残らないのです」
安倍政権が7年も続いたのは、菅官房長官の存在が大きかったという。
逆に菅政権が短命に終わったのは「菅官房長官がいなかったからだ」とも言われている。
ただでさえ総理が非力なのに、女房役まで小物では、この政権は長く続かないのではないか。
注目は警察出身官房副長官と大物次官の首相秘書官
組閣の裏で注目されたのが「官邸官僚」人事だ。
安倍・菅政権の8年9カ月にわたり霞が関官僚のトップに君臨し、官邸主導政治の一翼を担ってきた杉田和博・官房副長官が退任。その後任に栗生俊一・元警察庁長官が内定した。
「当初は、“官邸のアイヒマン”と呼ばれた北村滋・前国家安全保障局長が副長官に就任する案も検討されましたが、さすがに“安倍カラー”が強すぎると反発があった。
安倍政権下で警察庁長官になった栗生氏も、安倍前首相に近いことで知られています。
杉田氏の退任で一気に官邸機能が弱体化することを恐れ、安倍政権を踏襲して副長官に警察庁OBを置くことにしたのでしょう」(官邸関係者)
官邸官僚では、首相秘書官の異例人事も話題だ。
岸田は政権発足に合わせて8人の秘書官を内定。まとめ役を担う筆頭格には、嶋田隆・元経産次官を指名した。
次官経験者の秘書官は異例だ。
「首相の懐刀として、安倍首相における今井尚哉秘書官(当時)のような存在になるのではないか。
嶋田氏は原発事故後の東京電力で取締役を務めた後、経産次官になった。
有能さは誰もが認め、霞が関での評価は今井氏よりずっと高い“やり手”です」(霞が関関係者)
秘書官は他に財務省の宇波弘貴・主計局次長、経産省の荒井勝喜・商務情報政策局長、外務省の中込正志・国家安全保障局担当内閣審議官、警察庁の逢阪貴士・会計課長ら各省のエース級が集められた。
「それにしても秘書官8人は多い。混乱するだけではないか。
しかも、警察と経産が主導する官邸では、安倍政権と何も変わりません」(本澤二郎氏=前出)
岸田は官邸官僚の話も聞き過ぎて迷走しそうだ。
目玉なし、誰も名前を知らない新入閣組
新政権とあって、大臣の顔ぶれは大幅に変わったが、なぜか留任したのが茂木外相と岸防衛相の2人だ。
さらに、萩生田が文科相から経産相に横滑りしている。
3人とも菅内閣でこれといった活躍があったわけではなく、ほかに処遇する手段がないから閣内に残ったのが真相らしい。それだけに党内からは「なぜ、あいつが」と怨嗟の声もあがっている。
それにしても、これほどサプライズなしの組閣も珍しいのではないか。
目玉大臣が一人もいない。新入閣組も無名ばかりだ。当選5回、6回、7回の“入閣待機組”がズラリと並ぶ、まさに“滞貨一掃”内閣である。
滞貨一掃の象徴が、77歳で初入閣する参院議員の二之湯智(当選3回)だ。国家公安委員長に起用される二之湯は、すでに改選を迎える来夏の参院選には出馬せず政界引退することを表明している。
さすがにネット上でも「思い出入閣」「引退の花道」と書き込まれている。どこが適材適所なのか。
「組閣を見た第一印象は、選挙で苦戦しそうな議員を入閣させているということです。
公明党の斉藤鉄夫が典型です。
女性を3人抜擢していますが、3人とも主要閣僚には就いていない。形だけ女性を重用したということでしょう。
どうにもメッセージのない組閣人事です」(政治ジャーナリスト・角谷浩一氏)
選挙対策で大臣ポスト、公明党への配慮の露骨
公明党の指定ポスト「国交相」は赤羽大臣の続投論が根強かったが、なぜか斉藤鉄夫副代表が就任することになった。
大臣ポストを利用した選挙対策なのは明らかだ。
これまで斉藤は比例中国ブロックで当選してきたが、次期総選挙は広島3区から与党統一候補として出馬する。
もともと広島3区は、公選法違反で逮捕された河井克行元法相の選挙区だ。斉藤は実は大苦戦している。
斉藤の当選は、自民党の全面協力が欠かせないが、地元の自民県連の動きが鈍いという。
「河井氏の後釜として独自候補を立てたかった自民県連を押し切る形で、斉藤氏の擁立が決定された経緯があり、自民県連にはしこりが残っています。
加えて、地元の自民系議員のほとんどは河井氏から現金をもらっているため、動きたくても動けない。
4月の参院広島選挙区の再選挙でも自民党は野党候補に敗れています」(自民県連関係者)
公明が「幹部落選」に強い危機感を抱いているのは間違いない。
立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)はこう言う。
「適材適所ではなく、公明党への配慮から斉藤氏の起用が決められたのは明らかです。
大臣になれば、箔がつき、知名度も上がります。
国交相は地元の建設業者にも睨みが利き、集票も期待できる。
逆に言えば、斉藤氏は大臣の肩書が必要なくらい苦戦しているということでしょう」
広島3区は注目の選挙区になりそうだ。
【この人事に二階や菅、河野冷や飯組は黙っているのか】
ハッキリと冷や飯を食わされた河野前行革相や二階前幹事長、菅前首相は、この先、どう出てくるのか。
このまま黙っているとは考えにくい。
総裁選で岸田と争った河野本人は、党広報本部長に“降格”。河野陣営からは「何が全員野球だ」と怒りの声が上がっている。
河野を担いだ菅も包囲網を敷かれたようだ。
「今回は、神奈川県選出議員の登用が目立つ。山際大志郎や牧島かれん、田中和徳幹事長代理といった具合です。同じく神奈川選出の菅、河野、小泉(前環境相)を孤立させる狙いがあるのだろうと囁かれています」(自民党関係者)
5年間、幹事長を続け、権力を握っていた二階は無役となった。
二階派は47人、菅グループも30人程度いる。手練手管にもたけているだけに、反主流派に回ったら、それなりの力を発揮するはずだ。
高千穂大教授の五野井郁夫氏(国際政治学)はこう言う。
「安倍政権は、石破元幹事長を冷遇し、抑え込みに成功してきましたが、反主流派が石破派だけだったから可能だった。でも、今後は分かりません。
とくに派閥で一定の議員を抱える二階氏が影響力を保持することになれば、岸田氏は反撃される可能性がある。
失策を繰り返したり、国政選挙で惨敗することになれば、陰に陽に揺さぶってくるでしょう。
発信力のある河野、小泉両氏に公然と政権批判されれば、岸田氏は苦しい。野党にも追及されるでしょう」
弱腰の岸田に相手が務まるとは思えない。
この大臣で新型コロナ対策はできるのか
岸田政権でもコロナ対策が最重要課題になるのは間違いない。
実際、第5波は収まりつつあるが、病床確保、ワクチンのブースター接種、地方との連携など課題は山積している。
ほとんど無名の後藤茂之が厚労相に初入閣したが、コロナ禍の重責を担えるのか。
厚労省はコロナ対応から年金まで扱う巨大組織だ。
菅も「厚労省分割は不可避」と口にしたほど仕事量が多い。
しかも、厚労官僚は動きが鈍く、ミスばかりしている。
本来、厚労相は派閥の領袖クラスの大物でなければ務まらないポストだ。
前出の金子勝氏はこう言う。
「ワクチン接種が米国を追い抜くまで進み、治療薬も登場しつつある。新規感染者数も大幅に減少しています。
岸田首相が、これまでコロナ対応に当たってきた西村、田村両大臣を留任させず、無名の後藤氏を厚労相に就けたのは、コロナは一件落着したと捉えている表れだと思います」
しかし、現在のような感染収束期は、次の感染拡大に備える大事な時期だ。侮るとあっという間にウイルスは市中に蔓延してしまう。
また、ワクチンが効きにくい新たな変異株の流入も懸念され、水際強化も必要だ。
コロナ軽視のしわ寄せは第6波で跳ね返ってくる。
新政権に対して野党は、「1日でもいいから予算委員会を開くべきだ」「予算委員会で争点を明らかにしてから、衆院選で審判を仰ぐべきだ」と、予算委員会の開催を強く訴えている。
しかし、甘利明や小渕優子といったスネ傷議員を党幹部に登用した岸田は、野党の追及を恐れて、予算委員会を開かず、そのまま解散・総選挙に突入するつもりだ。
ボロが出る前に解散してしまえという魂胆なのだろうが、ここまで審議を嫌がるのは異様だ。
アキレス腱を抱えているのは間違いない。
はたして、この政権はいつまでもつのか。
「新閣僚のスキャンダルなど、よほどのハプニングが起きない限り、11月の総選挙は乗り切れるでしょう。
問題は、来年1月からはじまる通常国会です。6月までの長丁場だけに、多くの内閣が支持率を落とし、政権運営が危うくなった。
それでなくても岸田新政権は爆弾を抱えている。
甘利疑惑だけでなく、安倍前首相の“桜疑惑”の捜査も続いている。
これまでと違って党内には“反主流派”もいる。
来夏には参院選があるだけに、もし支持率が下落したら“岸田政権では参院選を戦えない”と岸田降ろしが起きる恐れがある。かつて森喜朗首相も、参院選前に引きずり降ろされている。
そうなったら9カ月足らずの短命政権になります」(自民党関係者)
前出の角谷浩一氏はこう言う。
「来夏の参院選前、岸田首相は選挙に勝つために内閣改造をするはずです。支持率アップのために“安倍離れ”を狙う可能性がある。その時、波乱があるかもしれません」
国民不在の傀儡政権がいつまで持つのか、見ものだ。