2022年03月06日

電車内での凶行に遭遇したらどうすべき?トラブル対処マニュアル

電車内での凶行に遭遇したらどうすべき?トラブル対処マニュアル
2022年03月05日 SPA!

このところ、「拡大自殺」を目的とした放火や喫煙を注意した高校生への暴行事件など電車内での凶悪犯罪が相次いだ。
もし遭遇した場合どうすればいいのか。専門家と考えた。

◆何かしたいと思う人はいる。声をかけ協力し合う態勢を
 昨年10月31日の夜、会社員のSさん(32歳・東京都)は、渋谷のハロウィンを見物しようと京王線新宿行きの特急に乗車。
乗客17人が重軽傷を負った“京王線ジョーカー男”による凶行が行われた電車だ。
犯行は3〜5号車で起き、乗客が6号車に乗っていたSさんの前を通過して逃げていった。
「犯人も見てないし、逃げてくる人たちは無言だったため事件が起きたことはわかりませんでした。
『ピーピー』と通報ボタンが押されたらしき音も聞こえたが、初めて聞いたため確証は持てません。
そうこうするうちに(5号車で)炎が上がったのが見え、火災だと思い、私も移動を始めました」

◆異常を察知した場合は非常通報ボタン
 交通技術ライターの川辺謙一氏は、列車内で異常を察知した場合、安全を確保した上で非常通報ボタンを押し、乗務員に状況を知らせるべきだという。
「非常通報ボタンには、インターホンで車掌と通話ができるものと、異常を知らせるだけのものがあります。
電車が遅れてしまったらとためらう方もいるようですが、定時運行よりも乗客の健康や命が大事なのは当然のこと。
斉藤国土交通大臣も、異変があれば躊躇せずボタンを押すよう求めています」

 非常通報ボタンは痴漢や暴行などの犯罪行為、不審な荷物を見かけた際も活用すべきだという。
ボタンが押されることが多いのは急病人の発生時だ。
昨年5月、JR学研都市線で通学中だった大学生のNさん(19歳・大阪府)は、ボタンを押して急病人を知らせている。
「何人かが席を譲り横になっている人がいて、自分がボタンに近かったので押しました。
乗務員に説明すると、次の駅で担架などの準備が万端になっていました」
 このように、ボタンが押されても直ちに停車するとは限らない。
連絡を受けた司令所の判断により、次の駅で対策をとる場合が多い。
「駅間で止めると皆が不安になってストレスを感じやすく、救急や警察も駆けつけにくい。そのため、異常が起きたときは駅に止めるのが好ましいです」(川辺氏)

◆「非常用ドアコックを触らないほうがいい」理由
 ジョーカー男による放火事件のあった京王線特急は国領駅で緊急停止したが、ホームドアがズレていたためしばらくドアが開かず、Sさんは窓からホームに脱出した。
 各扉には非常用ドアコックが設置されている。ふたを開けてレバーを動かすと、手動でドアが開く。
「大きな火災や地震でない限り、一般の方は非常用ドアコックを触らないほうがいいです。
走行中だと転落の危険性があり、停車中であっても線路に降りるには高すぎ、対向列車が来る可能性もある。
まずは非常通報ボタンを押し、乗務員の指示に従うのが順序です」

 列車外が危険だとはいえ、凶悪犯罪の場合、密室の車内で逃げるのは限界がある。
Sさんが避難した際には、連結部で人だまりができてしまったという。
もし、凶器を持った犯人が追ってきたら、追いつかれてしまう可能性が高い。

◆逃げるのが第一だが逃げるべきではない人も
 暴犯被害相談センターの加藤一統氏は、身辺警護のスペシャリストだ。
列車内で起きる凶悪犯罪への対処を次のように説明する。
「誰でもいいから殺したいという犯行では、最初に狙われたら私のような専門家でも避けるのは難しい。
ですから電車に乗るときは、スマホから目を上げて周囲を見るタイミングを作るべきです。
事件が起きたらまず逃げるというのは正しい対処ですが、果たして『逃げる』だけで完結する社会はどうなのか。
子供や老人、身体の不自由な人など、全員が逃げられるわけではない。
また、立場的に逃げるべきではない人もいます」

 保育士が引率する児童を置いて逃げるわけにはいかないし、親であれば身を挺して大切な我が子を守ろうとするだろう。
加藤氏のような身辺警護の仕事もそうだ。

◆刃物を持った相手に対応する方法
 元自衛官で、退官後に米国軍事会社でスナイパーとして中東の戦場を経験したOS氏が、刃物を持った相手に対応する方法を次のようにレクチャーする。
「恐ろしくてすくんでしまう人は、闘う必要はまったくありません。
端の車両にいて逃げ場がない、守るべき人がいるなどのやむを得ない状況で、なおかつ頭に『闘う』という選択肢が浮かんだ人だけが立ち向かうべきです」

 そうと決めたら、まずは、目的を明確にすることが重要だという。
「駅に到着する気配があれば、数分時間を稼げばよい。対峙する際は、バッグなどを盾にして胴体を隠すことは必須です。
時間稼ぎならば、盾と同時に持ち物のうちスマートフォンやACアダプタ、ステンレスボトルなどを投げつけるのも非常に有効です。
このとき声をかけて、できるだけ大勢で対処するのがいいでしょう」(OS氏)

 3人でバッグを持って立ち塞がれば、通路を塞ぎ、後ろの人を守ることができる。犯人は刃物を持っていることで圧倒的に有利な立場だが、立ち向かう側は、数の優位を生かして威圧することで相手の動きを止める可能性が高まる。
「無力化するためには凶器の排除が必要です。
バッグを盾にした状態で一気に距離を詰め、死に物狂いで凶器を持った手を押さえます」

◆声をかけて協力し合うことの必要性
 ただし、訓練を受けた人間でも手や顔などに切り傷を負うことは避けられないため、心構えが必要なようだ。
前出の加藤氏が話す。
「本当に殺す気がある人間が持っている刃物は大きく見えるんです。
想像以上に恐ろしいということを認識した上でイメージトレーニングをしてください。
そうじゃないといざというときに動けません」

 京王線に乗り合わせたS氏はヘッドホンをして気がついていない人に「火事です! 逃げて!」と声かけをしながら逃げた。また、JR学研都市線で非常通報ボタンを押したNさんは、複数人で救助にあたり「素晴らしい行動力を持った人が何人もいることが知れてよかったです」と述べている。

 一人で行動に移すのは難しくても、何かできることはないかと思う人は少なくない。
まずは、声をかけて協力し合うことが電車内のトラブル対処には必要だろう。

【交通技術ライター・川辺謙一氏】
東北大学大学院工学研究科修了、化学メーカー勤務後に独立。
技術系出身の経歴を生かし、交通分野で高度化した技術について執筆

【暴犯被害相談センター・加藤一統氏】
1995年より身辺警備に従事し、900件以上の警護依頼を請け負う。
優良なボディガードや探偵の無料紹介所「ボデタンナビ」を主宰

【元・民間軍事企業スナイパー・OS氏】
陸上自衛隊を任期満了後、オーストラリアで狙撃手の訓練を受講。
民間軍事企業(PMC)に勤務し中東で任務に。
退役し現在は会社員

取材・文/池田 潮
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☀ | Comment(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする