2022年04月19日

「非武装中立」を主張する日本の左派は、自分たちが戦争の確率を高めているとご存知か

「非武装中立」を主張する日本の左派は、自分たちが戦争の確率を高めているとご存知か
4/18(月) 現代ビジネス
橋 洋一(経済学者)

「安全保障」と「貿易」の歴史的関係 
 ロシアのウクライナ侵攻を受けて、EUに加盟申請し、NATO加盟を国民が支持する国が増えている。
EUやNATOの存在感は高まってくのだろうか。
 軍事的結びつきの強さと経済的結びつきの強さは比例する。
貿易の盛んな国とはリスクを共有していることになるから、経済同盟と軍事同盟は一体になって当然だ。
これは、世界中どこを見ても普遍的な条件である。
 言ってしまえば当たり前すぎる話なのだが、安全保障と貿易を結びつける視点は、外交の基本として常に持っておいたほうがいい

最近、経済安全保障という考え方が主流になっていることとも整合的だ。
 それがもっとも顕著に現れているのが、EU(欧州連合・1958年設立、現在27ヵ国)だ。
スウェーデンなどユーロを導入していない国も一部あるが、ユーロの導入国同士は完全無関税だ。
ユーロでないEU加盟国に対しても個別に関税条約が結ばれ、基本的に無関税化の方針となっている。
つまり通貨がユーロであろうとなかろうと、EU加盟国同士の経済的結びつきは非常に強い。

 では軍事的結びつきはどうか。
それがNATO(北大西洋条約機構・1949年設立、現在30ヵ国)である。
NATOは、アメリカ、カナダという北米国とヨーロッパ諸国の間で結ばれている軍事同盟だが、ヨーロッパのNATO加盟国は、EU加盟国とほぼ合致していることが見て取れるだろう。
 これまでの経緯を見ると、現在、EUとNATOの両方に加盟している国は21ヵ国あるが、すべての国が、まずNATOに加盟し、追ってEUに加盟している。

軍事的結びつきを強めたうえに、経済的な結びつきを築いているということだ。
もともと第二次大戦後にNATOがEUより先にできたという歴史的事実はあるもの、まずは安全保障ということで、EUへの加盟のほうが結果として後になった。

 なお、NATOに加盟しながらEUには非加盟の国は9ヵ国あるが、欧州でないアメリカ、カナダを除くとそれぞれの国の事情がある。
イギリスは2020年12月にEUから離脱し、モンテネグロと北マケドニアは近々EUに加盟する見込みだ。

フィンランドとスウェーデンの動き
 NATO非加盟だがEUに加盟している国は6ヵ国ある。
フィンランド、スウェーデンはロシアを意識したためにNATOに加盟せず、いわゆる緩衝国になってきたといわれる。
ところが、今回のロシアのウクライナへの侵攻により、国民の間では安全を求めてNATO加盟の動きも出てきている。
 フィンランドのマリン首相は、「ウクライナ侵攻ですべてが変わった」としてNATO加盟の意向だ。
スウェーデンの与党「社会民主党」も長年NATO加盟に反対という立場だったが、アンデション首相は、スウェーデンの安全保障の立場は根本的に変わったとして、やはりNATO加盟に前向きだ。

 今回、ウクライナはNATOへの参加を求めてきたが、ロシアはそれを阻止するために侵攻をしたフシがある。
しかしロシアの蛮行は本来中立的な国を逆に刺激してしまった。
フィンランドやスウェーデンのNATO加盟が認められれば、EU加盟からNATO加盟という初めてのケースになる。
 NATOは極めて強力な同盟であるので、戦後73年間も攻められたことがない。
ところがNATOに加盟するためには、欧州国であることのほか、紛争がない国であるという条件がある。

 ロシアはNATOに加盟できないようにフィンランドとスウェーデンと紛争を起こすこともありえる。
このため今後数ヵ月、両国は予断を許さない状況になる。
実際、メドベージェフ安全保障会議副議長は、両国がNATO加盟すれば、核のないバルト海はなくなるといい、核配備を示唆している。
また、ロシアがフィンランド国境に向けミサイルシステムなどを移動という英メディアの報道もあった。
 一方、ウクライナはEU加盟申請した。
当然、加盟はすぐには認められないが、この動きは、NATO非加盟・EU加盟のフィンランド、スウェーデンのNATO加盟と連動するかもしれない。

「お花畑論」に変化は出てきたのか
 こうした世界の流れの中、「非武装中立」や「話し合いで問題は解決する」といった日本国内の一部にあった安全保障や防衛に関する、いわゆる「お花畑論」に変化は出てきたのか。
今後の憲法改正を含む防衛の議論は進むのか。

 本コラムでは戦争確率を減らすためには、
(1)防衛費をアンバランスにしないこと
(2)同盟(集団的自衛権)を強めること、
(3)相手国が民主主義であることが、決定的に重要と書いてきた。

日本の周りを見ると、中国、ロシア、北朝鮮と非民主民主義国家があり、地政学的には世界の中でも危険地帯だ。
 なお(1)〜(3)のほかに、
(4)貿易取引の多いこと、
(5)国際機関への参加も戦争確率を減らす要因としてきたが、いずれも要因として弱かったとも書いた。

特に、NATO加盟のあとにEU加盟という事実をみれば、(4)の前に(2)があり、(4)は(2)の結果とも解釈できる。
また、(5)は今回のように安保理常任理事国が武力行使する際には何の意味ももたない。
 日本としてできることは防衛費増額と同盟強化である。
防衛費については、先週の本コラム「ウクライナ侵攻で日本の野党は「防衛費」と「原発再稼働」というタブーにどこまで迫れるか」で書いた。
 あのドイツでさえ覚醒した。

ところが日本の左派はよく「ドイツを見習え」と言うのに、今回言えなくなってしまった。

自衛隊は「解消するまで働け?」
同盟強化では、安保法制により集団的自衛権は一部強化されたが、今のままではアジア版NATOが創設されても加盟することはできず、不十分なものだ。
せめて自衛隊を国際法適用対象となる「軍隊」とする必要がある。
同盟強化では、核共有も有効だが、野党はその議論すら乗らない状況だ。

 安保法制の際、集団的自衛権に反対していた人は今まったくおとなしくなって何も言えなくなってしまった。
フィンランドやスウェーデンも集団的自衛権を求めて、NATO加入を目指しているくらいだ。
ここでも、日本の左派は、「フィンランドやスウェーデンを見習え」といえなくなってしまった。

 日本では、防衛費増額と同盟強化に反対する人がいる。
そうした人たちは、非武装中立を主張する。
しかしこれは、防衛費がゼロで、同盟なしとなるので、もっとも戦争確率を高める暴挙である。
話し合いの重要性は否定しないが、戦争は話し合いがうまく行かなかった結果である。
話し合いを上手く行うためにも、防衛費増額と同盟強化が欠かせない。
話し合いだけに委ねることは戦争確率を低めることにはならない。
 いずれにしても、そうした人たちの主張は戦争確率を高めているにもかかわらず、「戦争反対」というなど、筆者からみると矛盾だらけだった。
今回のウクライナ情勢で、その矛盾が誰の目にも明らかになってしまった。

 共産党の志位委員長は「急迫不正の侵略がされた場合、自衛隊を含めあらゆる手段を用いて、国民の命と日本の主権を守る」としている。
共産党綱領では自衛隊の解消を掲げているが、解消するまでは働けというようなものだ。
これは、どのようなブラック企業でもないような、あまりに自衛隊に対し失礼な言い方だろう。
 7月に参院選が予定されているので、選挙戦の中で、防衛議論をしたらいい。
公約に掲げる党や争点化を避ける党もでてくる。
その上で、国民はどの政党がまともか判断すべきだ。
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☔ | Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする