「貯金も保険も一石二鳥」の変額保険はお得なのか
結局「虻蜂取らず」の残念な結果になりかねない
2022/05 /05 東洋経済オンライン
岩城 みずほ : ファイナンシャルプランナー・CFPⓇ
長くデフレが続いてきましたが、このところ、さまざま商品が値上がりし、家計への影響を心配する人も増えています。
「変額年金」の特性とは?
会社員の戸田雅彦さん(仮名・53)は、この春、長女が大学に進学しました。
2年後には長男も進学を控えていますので、2人の教育費の支払いで、預貯金が大きく減ることになります。
戸田さんは、「もしこのままインフレが続くと生活費が増えるだけでなく、預貯金の実質的な価値も目減りするのではないか……」と、自分たちの老後資金を心配しています。
そんな戸田さんのもとへ、先日、20年ほどの付き合いになる保険会社のライフプランナーから連絡がありました。
「今度Y社に転職するので、現在の契約しているX社の変額年金を払済(はらいずみ)保険にして、新しくY社の変額年金に加入してもらえないか」というものでした。
払済保険とは、保険料を支払うのが苦しくなったときなど、加入中の保険を見直す方法の1つです。
その時点での解約返戻金相当額を一時払い保険料に充当することで、その後の保険料の支払いはなくなります。
保険金額は少なくなりますが、保障は維持されます。特約などはなくなります。
戸田さんは、ライフプランナーの申し出になんとなく不信感を覚えたといい、私のところにご相談に来られました。
戸田さんが加入していたのは円建ての変額年金でした。死亡保障を持ちながら、老後資金を作る目的で加入したと言います。解約返戻金が、払い込み保険料の総額を上回る65歳頃をメドに解約するつもりだったそうです。
変額年金は、運用対象(特別勘定)を自分で選ぶことができ、運用実績に応じて、保険金額や払い戻し金額などが変動するものです。
戸田さんは、アメリカの株式と日本の株式をそれぞれ50%ずつで運用していました。
契約したのは2005年、保険料は月額約3万1000円です。保険証券には20年後の2025年の解約返戻金は、約690万円と記されています。
死亡したときには、1500万円が支払われます。
私は、以下のシミュレーション結果を戸田さんに見せました。
このシミュレーションは、契約をした期間は同じ2005年として、2022年2月末までで、毎月3万円ずつ、アメリカの株式と日本の株式の指数連動型の商品に、それぞれ50%ずつ積み立て投資をした結果です。
「2005年から月3万円」で618万円が1776万円に 累計投資額(配当再投資分は除く)は618万円。2022年2月末の時価総額は約1776万円となりました。
内部収益率法で計算した年率の利回りは10.96%です。
ここで使っている指数は、TOPIX(東証株価指数)と、アメリカの指数(S&P500にほぼ連動するMoringstarUS Large Cap)です。
実際は株価指数に直接投資することはできませんし、税金、手数料なども考慮していません。
あくまで一定の想定のうえでのシミュレーションであり、類似した投資信託で運用すれば年平均10%までは届かないかもしれません。
しかし、時間を味方につけて複利効果で資産を増やしていけば、ご覧のとおりかなりの成功と言ってよいと思います。
つまり、私がお伝えしたいのは、お金を増やす目的なら、「お金の置き場所は非常に大切です」ということです。
保険会社は、変額保険の保険料のうち、諸費用を控除した金額を特別勘定で契約者が選定した投資対象に投資して運用を行います。
保障と運用の両方にコストがかかるため、このように、どうしてもお金の増え方に差がついてしまうのです。
なお、このツールは、NPO法人「みんなのお金のアドバイザー協会」が無料で提供しているものです。
当ウェブサイトの「家計の資産形成応援ツール」にあります。
内外の株価指数に連動した定額積み立て投資の長期にわたるリスクとリターンを正しく理解していただく目的で、過去の株価データに基づいたシミュレーションをするために作成、公開されたものです。
このシミュレーション結果は、実際の投資信託などの運用商品の成績に一致したり、保証したりするものではありません(詳しくはHP掲載の注意書き等をお読みください)。
「保障」と「貯蓄」は別々に考える
端的に申し上げると、戸田さんはお金の置き場所を間違えたわけです。
保険は保障を目的に保つもので、保険ではなかなかお金は増えません。
保障と貯蓄は別々に考えるべきでした。
でも、過ぎ去ったことを後悔しても仕方がありません。
すでに支払ってしまって取り戻すことのできない費用(コスト)のことを経済学ではサンクコストといいますが、過去は忘れ、気持ちを切り替えて、お金を増やしていく合理的な方法をとりましょう。
今回のお話で行くと、やはりライフプランナーが戸田さんに新たに勧めているY社の変額年金も、お勧めできるものではありませんでした。
お金を増やす鉄則は、「長期、分散、低コスト」です。
投資対象をグローバルに分散し、運用コストを抑え、長く積み立て投資を続けることです。
税制優遇のある個人型確定拠出年金(iDeCo)や「つみたてNISA(少額投資非課税制度)」を、お金の置き場所として優先的に使うといいでしょう。