2022年06月05日

「コロナで生じた同調圧力」の背景

精神科医が分析「コロナで生じた同調圧力」の背景
「長いものには巻かれない」ための対応策も紹介
2022/06/04 東洋経済オンライン
和田秀樹 精神科医

2年以上におよぶ新型コロナとそれに伴う自粛生活が、私たちの心身に与えたダメージは大きく、その副作用は実はこれから出てくる――。
『マスクを外す日のために今から始める、ウィズコロナの健やかな生き方』を緊急出版した精神科医、和田秀樹さんはそう警鐘を鳴らします。
自由に暮らせないストレスや同調圧力、マスク依存から脱却し、自らの免疫力を高めながら健やかに暮らすのにはどうしたらいいのか。
これからも続くであろうウィズコロナ時代を、自分らしく生きるための心構えを解説します。

経済学に「マクロ経済学」と「ミクロ経済学」がありますが、同様に心理学にも「マクロ心理学」と「ミクロ(マイクロ)心理学」という言葉があります。
まだ新しい区分法であるため、その定義は論者によってさまざまですが、本稿では「マクロ心理学」は国民全体の心理状態、「ミクロ心理学」は個人レベルの心理状態をあつかう心理学という意味で使いたいと思います。

さて、マクロ心理学的にいうと、コロナ禍以後の日本社会では、「同調循環」とでも呼ぶべき心理現象が起きています。
政府やメディア、そして国民などの各セクターが影響し合って、「同調」現象を拡大・維持する状況です。
ここでは、政府や分科会(新型コロナウイルス感染症対策分科会)を「ふりだし」にして、考えてみましょう。
政府の方針にメディアの大勢が同調 まず、
政府や分科会が何らかの方針を打ち出すと、テレビをはじめとするメディアの大勢が同調します。
一応はマスコミですから、少しは嫌味をいって、批判する姿勢を見せはするものの、むしろToo Late(遅すぎる)、Too Little(少なすぎる)ことを問題とし、実質的には賛成します。
むろん、全面的な反対キャンペーンを張ったりはしません。
そして、国民は、大勢としては賛成のメディアの影響を受けて、政府方針を是とする「世論」を生み出します。

たとえば、飲食店に対する政府の自粛要請があれば、「深夜まで営業している店はけしからん」という意見が多数を占めるのです。
そして、世論がそちらの方向に傾けば、政府は選挙怖さに、その世論に同調した方針をさらに強化します。
分科会では、形式的な異論は上がっても、大勢としては、政府の意向に沿った見解を出して、専門的に政府の政策を補強します。
こうして、互いに同調し合う循環構造が生まれ、その回転音が響くなか、「異論」はノイズとしてかき消されていきます。
要するに、この循環構造のなかでは、互いに同調し合うだけで、誰も「自分の頭で考えていない」のです。

このような同調圧力に関する社会心理学の研究は、おおむね欧米で行われてきました。
ですから、日本人だけでなく、人類全体にこうした傾向はあるわけです。
ただし、欧米、とりわけアメリカは、「人と違う意見をいう」ことをよしとするお国柄です。
たとえば、日本語で「とくに意見はありません」というのは、ごく普通のフレーズですが、アメリカで「I have no opinion」といえば、「意見もいえないバカ」と見下されることでしょう。
そのぶんアメリカは、日本ほどには同調圧力が働かない国です。

一方、日本人は、同調圧力に屈する傾向がひときわ強い。
一般的に、「閉鎖的社会に、同質性の高い人々が暮らしている」ほど、同調圧力は強くなります。
その点、わが国は「島国」という地理的な閉鎖空間で1つの国を形成し、社会的活動は企業・学校単位という閉鎖社会内で行われることが多い国です。
しぜん、人間関係は固定化し、同質性が高まっていきます。

日本人は「集団規範へ同調する傾向」が強い
そもそも、国内で暮らす異民族の割合が少なく、宗教や価値観も同質性が高い国です。
コロナ下で私たちの社会が強力な同調圧力を生み出し続けているのも、その閉鎖性と同質性ゆえです。
そうして、私たち日本人は「集団規範へ同調する傾向」がひときわ強くなりました。

閉鎖的な社会で、個人が勝手な行動をとると、秩序が崩れ、みんなが迷惑します。
そこで、日本社会の至るところに、どう行動すればいいかというルールが用意されています。
それが「集団規範」です。
ただ、ここで問題なのは、集団規範には、合理的根拠があるものと、そうした根拠のないものがあることです。

たとえば、「因習」と呼ばれるような掟、しきたりには、現代の目から見れば、根拠のないものが大半を占めています。
しかし、たとえ不合理でも、人間には、集団規範から外れることへの恐れから、規範に従う傾向があります。
そこに合理的思考はなく、安心を得るため、自ら思考停止する道を選んで、不合理な規範に同調するのです。
新型コロナに関する自粛ルールも、私は根拠に乏しい点では、「因習」に近い規範だと思います。
それでも、この国の同調圧力の高さが、人々にそれを守らせているのです。

と、「同調圧力」をめぐって、さまざまに述べてきましたが、残念ながら、この国の同調圧力は今後も簡単には弱まらないでしょう。
この国の政治家には、欧米の政治家のように、大胆な政策変更を提案する力はありません。
そこで、私は、1人ひとりの個人が、少しずつでも「自分の生き方を取り戻す」気持ちになることが大事だと思います。

「したかったこと」をリストにしてみる
その手始めとして、コロナ禍がはじまる前に、「自分がしたかったこと」を思い出してみてはいかがでしょうか。
それをリストにしてみるのです。
「ピアノを習いに行きたかった」「親に孫の顔を見せたかった」「あちこちに写生に出かけたかった」。
──どんなことでも、かまいません。
そうして、今、できることから、1つずつトライしてみるのです。
そうして、人生を「自粛」のなかで、これ以上、空費するのはやめませんか。

人生は、おおむね、人の意見に従うと、不幸になります。
失敗したとき、自分のせいではなく、人のせいにするためです。
その負の感情が人を不幸にするのです。
良識を働かせながら、自らの判断で、自分のしたいことをする。
──そうして、同調圧力には100%は屈しない。
同調圧力という「長いもの」に巻かれながらも、巻き返す。
この時代、自分らしく生きるには、そんな覚悟が必要だと、私は思うのです。
posted by 小だぬき at 18:09 | 神奈川 ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | 健康・生活・医療 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

迫る参院選で「優勢」の岸田自民党、実は死角だらけ

参議院選で優勢の岸田自民党、実は死角だらけ
コロナ対策や景気対策、防衛費増額など難題山積
2022/06/04 東洋経済オンライン
星 浩 : 政治ジャーナリスト

参院選の投開票(7月10日の見通し)が迫ってきた。
日米首脳会談などの外交日程をこなした岸田文雄内閣の支持率は堅調で、野党が勢いを欠いているため、自民党の優勢が伝えられている。
だが、ウクライナ戦争による資源高や急激な円安で物価が急騰。年金の減額など国民生活の困窮も広がる。

岸田自民党の足元は、盤石とはいえない。
その死角を探ってみよう。

 防衛費増額を主導しようともくろむ安倍元首相
「クアッド」の4首脳会談でも中国の海洋進出を牽制するなど、日本外交の存在感を示した。
防衛費は現在、約5.4兆円で国民総生産(GDP)比は1%程度。
自民党内では、5年以内に北大西洋条約機構(NATO)並みの2%程度に引き上げるべきだという意見が強まっている。
そのためには毎年1兆円ほどの増額が必要になる。
これに対して、野党の立憲民主党や共産党は「防衛費の中身の議論がないまま増額が優先されている」と強く反発している。

財政状況が厳しい中、防衛費増額分の財源の確保も難しい。
@国債増発、A社会保障などの経費削減、B増税、といった選択肢が考えられるが、いずれも容易には受け入れられそうにない。
安倍晋三元首相は、来年度の防衛費について「6兆円後半から7兆円が見えるくらいの増額」を提案。
この問題を主導しようと狙っている。
安倍氏はさらに、ウクライナ戦争でロシアのプーチン大統領が核兵器の使用を示唆したことに関連して、日本にアメリカの核兵器を置く「核共有」についても議論すべきだと主張。
岸田首相は「非核三原則を遵守し、核共有は議論しない」と明確に否定した。

防衛費や核共有をめぐる議論は、参院選で大きな争点となることは必至だ。
岸田首相は野党からの批判にさらされる一方で、安倍氏らの主張も無視できず、板挟みになる可能性がある。
安倍氏は財政問題をめぐる論議でも波乱要因となっている。
自民党内では来年度の予算編成に向けて財政再建を唱える麻生太郎副総裁や額賀福志郎元財務相らのグループと、財政出動を訴える安倍氏や西田昌司参院議員らのグループとの対立が激しくなっている。

岸田首相は当面の景気対策のための財政出動は容認しつつも、将来的な財政再建の必要性を重視する立場。
麻生、安倍両氏に挟まれている岸田氏は、参院選の論争で立場を明確にするよう迫られるだろう。
防衛費だけでなく、医療費などの社会保障や教育関連経費など歳出増が予想されるのに対して財源を確保するための増税に踏み切るのか。岸田首相は参院選の党首討論などで追及されるだろう。
そこで、増税を打ち出せば反発を招くし、増税を否定すれば「無責任」といわれる。
どっちつかずの対応を続けるようだと、「優柔不断」との指摘を受ける。
岸田首相にとっては綱渡りの論争になる。

物価高騰も懸念材料
岸田首相にとって、物価高騰も懸念材料だ。
ウクライナ戦争で世界的な原材料高が続いているのに加え、急激な円安が消費者物価を押し上げ、4月は対前年同月比2.1%を記録した。
消費税率引き上げのケースを除けば13年ぶりの上昇率である。

野党側は「岸田インフレ」と批判を強めている。
アベノミクスによる金融緩和で進んだ円安は当初、輸出企業の業績を好転させ、株高につながった。
しかし、アベノミクスでは成長戦略や構造改革が立ち遅れ、日本経済は停滞。
日本経済の弱さを示す「悪い円安」が続いている。

今回の円安は、金利引き上げを続けるアメリカとマイナス金利の日本との「金利差」にも起因している。
政府・日銀は、円安による物価高への影響は「全体の3分の1程度」と分析しているが、金融緩和・低金利政策から脱却できない岸田政権の経済政策が批判にさらされている。

年金の減額も政権批判につながる可能性がある。
平均給与が下がっているため、それに連動する公的年金も引き下げられる。
厚生労働省によると、4月から国民年金が月額259円下がって6万4816円、厚生年金(夫婦2人分、モデルケース)が月額903円下がって21万9593円になるという。

首相官邸のスタッフは「4、5月分の年金が6月15日に支給され、郵便局や銀行の口座で減額を知った高齢者が政権に不満を募らせるではないか」と気をもんでいる。
野党側はここぞとばかり、「高齢者へのしわ寄せ」と批判するだろう。
政権側は、低所得者には給付金支給などで対応していると説明するだろうが、高齢者の理解が得られるとは限らない。

岸田首相は「新しい資本主義」を掲げてきたが、当初、目玉だった格差是正のための富裕層増税は、株式の売却益や配当への課税強化が見送られた。
代わって「人への投資」などが強調されているが、予算の裏付けも乏しく、世論の関心も集めていない。
一方、新型コロナウイルスの感染対策で、岸田政権はワクチン接種で出遅れ、医療体制強化のための法整備も進めていない。このところ、新規感染者数は減少傾向にあり、この間に検査や医療の体制整備を急ぐ必要があるのだが、医師会などの抵抗もあり、抜本的な改革は進んでいない。

細田議長のセクハラ疑惑、「桜を見る会」問題も 自民党の不祥事にまつわる報道も止まらない。
自民党最大派閥の清和会(現在は安倍派)の前会長でもある細田博之・衆院議長の女性記者らへのセクハラ疑惑は週刊誌をにぎわしている。
安倍氏が首相在任中に開催した「桜を見る会」は、大勢の地元後援会員を招待するなど公私混同が明らかになったが、その前夜祭に安倍事務所が資金補填していたことに加え、こんどは大手飲料メーカーのサントリーが大量の酒を無償で提供していたことが発覚。野党側は批判を強めている。

こう見てくると、いまの岸田自民党は「突っ込みどころ満載」なのだが、参院選は盛り上がりを欠き、岸田自民党は安泰という見方が大勢となっている。
なぜか。主な理由は2つだろう。
まず、ウクライナ戦争や中国の台頭によって、日本でも安全保障についての関心が高まり、アメリカとの同盟関係を強め、国内的にも防衛力を整備していくことが必要だという国民の意識が強まっている。
それが自民党政権の安定を求める意識にもつながっているだろう。

加えて野党の分断である。
2016年、2019年の参院選で野党陣営は1人区を中心に連携し、一定の成果を出した。しかし、2021年の衆院選で立憲民主党と共産党が連携したにもかかわらず、伸び悩んだ。
それを受けて、同じ旧民主党系の国民民主党は国会での予算案の採決で賛成に回るなど自民、公明の与党に接近。
維新も立憲民主党とは距離を置いて独自の路線を歩んでいる。

この参院選で野党候補は乱立模様で、結果的に自民党候補を利する形となっている。
参院の定数は現在245。今回124議席が改選される(比例区50、選挙区74=補選を含む)。
自民、公明の与党には、非改選の70議席があるので、過半数の123議席を占めるには今回、53議席を確保すればよい。自公両党は、前回(2019年)70議席、前々回(2016年)76議席を取っているので、岸田首相にとってのハードルはかなり低い。

「憲法改正は急ぐ必要はない」が岸田首相の本音
参院選が波乱のないまま、自公の勝利、岸田政権の存続となったとしても、ここに列挙してきたさまざまな政策課題は、選挙後も待ったなしで取り組まなければならないものばかりである。
自民党内には、参院選で勝利したら憲法改正に取り組むべきだという意見もあるが、実際にはコロナ対策や景気対策、防衛費増額など当面の難題が山積しており、憲法改正に注ぐ政治的エネルギーは残らないだろう。
岸田首相はそもそも、宏池会の「護憲DNA」を引き継いでおり、憲法改正を急ぐ必要はないというのが本音だ。
当面の政策課題に政権の力を振り向けることになるとみられる。

岸田首相が参院選を乗り切れば、任期が3年あまり残っている衆院の解散・総選挙は当面なさそうだし、次の参院選は3年後。そのため、政権にとっては「黄金の3年間」となるという見方がある。
だが、それは政策課題に疎い「政局記者」たちの皮相な見立てだろう。
参院選を勝ち抜いても、岸田首相を待つのは「黄金の3年間」ではなく、次々と難題に直面する「七転八倒の3年間」になるだろう。
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする