2022年09月14日

メディアに蔓延する“安倍ロス”。批判記事を書いてきた記者も「心に穴が開いたまま」

メディアに蔓延する“安倍ロス”。批判記事を書いてきた記者も「心に穴が開いたまま」
2022年09月13日 SPA!

安倍元首相が凶弾に倒れてから1か月以上がたつ。
モリ・カケ・サクラと在任中は連日メディアを賑わしてきたが、死してもなお安倍氏の話題で持ち切りだ。
大きすぎる存在を失った今、マスコミが陥っている「安倍ロス」に迫る。

◆安倍元首相の死によって報道の中心に空洞ができた
「記者を辞めて、アパレルとか農業とか、全然違う職に就こうかと考えています」
安倍元首相の突然の死から1か月半。
悲しげに話すのは、実は安倍政権に批判的な記事を多く書いてきた全国紙の記者だ。
「周りには『アベの再々登板がなくなった!』と喜んでいる人もいる。
でも、僕は安倍さんが死んだと聞いてから、心にぽっかり穴が開いたまま。何のやる気も出ない。
思い返せば安保改正やモリ・カケ・サクラと10年近く安倍さんを批判してきたわけで、突然いなくなると困ってしまう。
安倍批判のネタならいくらでも思いついたのに、今は何を書けばいいのかまったくわからないんです」

◆「安倍政権を擁護し続けてきた自分の合わせ鏡のように思えて…」
当然、安倍政権を応援してきた側の記者も深いロスに苛まれている。
「事件の一報を聞いたときは『ついにサヨクがやりやがった』と憤りました。
『これで散々安倍叩きをしてきたメディアは責任をとって一掃されるだろう』とも期待していたんです」

しかし、事件の背景に横たわるのは自民党と旧統一教会の癒着。 胸中は複雑だ。
「山上徹也容疑者のツイッターはサヨクどころか安倍シンパ、ネトウヨ的な発言もありました。
まるで40歳を過ぎて非正規に甘んじながら、安倍政権を擁護し続けてきた自分の合わせ鏡のように思えてなりません。

私は騙されていたのでしょうか?
 日本からカネと女性を韓国に送っている旧統一教会と自民党がここまで深く手を結んでいたなんて……。
自分の書いた安倍政権応援の記事を読み返すと、吐き気を催します」

◆メディアも翻弄される“安倍の亡霊”の正体
マスコミのなかにはロスではなくハイになった記者もいる。
「宏池会出身の岸田政権に代わったときのほうがロスでした。
岸田首相は何がしたいのかわからず、叩く材料もない。
それが今は旧統一教会の問題が噴出。
カルトや嫌韓の要素もあり、普段は政治に興味のない人の関心も高い」(フリージャーナリスト・50代)
「ポスト安倍は案外早く出てきそう。その最右翼が萩生田光一政務調査会長。旧統一教会とべったりなのも安倍さんに似ている」(テレビ局記者・20代)

◆本当の意味で安倍ロスが来るのは…
一方、地方紙60代のベテラン記者は「旧統一教会問題は“安倍の亡霊”だ」と俯瞰的に見ている。
「祖父・岸信介の代から旧統一教会と関わりがあったのは事実。
旧統一教会の報道では我々は亡くなった安倍晋三の姿を見ているわけだ。
最後の打ち上げ花火のように、報道は過熱しているが、亡霊はいつか消える。

本当の意味で安倍ロスが来るのは、旧統一教会報道が下火になったときだろうね」
アフター安倍ロスについて、これまで安倍政権を苛烈に批判してきた政治学者の白井聡氏はこう分析する。
「安倍氏が退陣してからも相変わらず統治機能が腐りきっているように、強固な権力構造が崩れることは基本的にはないでしょう。
野党は弱体化しすぎて、自民党内の自浄作用も働いていない。
ただ、ある種の政治的シンボルであった安倍氏の死によって、旧統一教会問題は腐敗体制の一端を炙り出し、東京五輪汚職にも本格的なメスが入りました。
蓋が開き始めた今、『なんだか安倍ロスだよね』と肩を落としている場合ではありません」

◆安倍元首相は貴重な議論の架け橋だった
一方、安倍夫妻への取材経験があるライターの梶原麻衣子氏は、頻出する「安倍政治が社会の分断を生んだ」という言説に異を唱える。
「どちらの立場でも、仲間内では安倍さんの評価を全肯定か全否定かに回収される苦しみがあったと思います。
しかし、実は安倍さんには右派と左派に共通する数少ない“鉄板の話題”という一面もありました。
逆説的ですが、たとえ右派でも政権への不満がくすぶれば、左派と対話するきっかけにすることができた。
安倍さんは分断どころか、貴重な議論の架け橋だったのです」

◆韓国記者にも安倍ロスは広がっている?
戦後最悪といわれる日韓関係のなか、隣国で安倍元首相の銃撃事件は、どのように報じられたのか?
 韓国の新聞記者・朴道允氏(仮名・30代)は語る。
「銃撃事件の発生直後から、韓国でもトップニュース扱いです。
私が報道した速報も瞬く間にSNSで拡散されました。
もちろん韓国では安倍さんに否定的な報道が多かった。

慰安婦や徴用工問題、最近では佐渡金山のユネスコ推薦にあたり『歴史戦を避けるべきではない』との発言など。
首相を退任してからも、韓国でも大きな存在だったのは確かです」
それゆえに、韓国人記者のなかにも「安倍ロス」は広がっているという。
「不謹慎ですが、日韓関係に興味のある私の立場から言えば仕事が“つまらなくなった”と感じています。
安倍さんの言動は、良くも悪くも韓国内でも大きく取り上げられ、安倍さんは“ひとつのニューストピック”として成立していましたから」

今後は韓国で日本の存在感はますます低くなるだろうと朴氏は予想する。
「韓国では旧統一教会の話題はほとんど報じられていません。
すでに韓国は日本の平均賃金を抜き、昔と違って韓国人は日本への関心は高くない。
そんななか、唯一韓国人が関心を抱いていた日本の政治家の安倍さんが亡くなった。
慰安婦や徴用工問題は解決していない。

報じなければならないことは多いはずだが、これから韓国で日本のニュース価値はさらに下がるでしょうね」
安倍ロスは続きそうだ。
         【政治学者・思想史家 白井 聡氏】
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする