コロナとインフル「同時接種」副反応はどうなる?
この冬いよいよインフルエンザとの同時流行か
久住 英二 : ナビタスクリニック内科医師
2022/10/02 東洋経済オンライン
新型コロナ第7波が明らかに収束に向かう一方で、この冬はいよいよインフルエンザとの同時流行との見方が強まっている。 新型コロナ発生以来、インフルエンザの流行は2シーズンにわたって消失していた。
冬季の行動自粛や、マスク、換気などの予防策が功を奏した部分もあるだろうが、国をまたいだ人の移動が減少し、ウイルスが流通しなくなったのが最大の理由と考えるのが適当だ。
しかし、渡航制限は急速に解除され、国際的な人の動きが再開している。
結果として、オーストラリアなど南半球の国々では今季、インフルエンザが流行した。
日本の来たる冬にインフルエンザが流行すると考え、対策を練るべきだ。
危惧を抱いた厚生労働省が新たに認めたのが、新型コロナワクチンとインフルエンザワクチンの同時接種だ。
同時接種でも「副反応が増えることはない」 同時接種では文字どおり、1回の受診で複数のワクチンを打つ。
片腕に2本打つ場合は、局所反応の重なりを避けるために2.5センチ以上間隔をあけるといい。
といっても、新型コロナワクチンは筋肉注射で肩のあたり、インフルエンザワクチンは皮下接種で二の腕あたりに打つので、そもそも接種部位は重ならない。
それでも患者さんの話を聞いていると、慣れない同時接種への不安や誤解が少なくないようだ。
安心していただきたい。
「同時接種によって副反応が出たり強まったりする」なんてことはまずない。
同時接種は、とくにトラベルクリニックでは当たり前の光景だ。
海外渡航前には何種類も打たねばならない人が多く、1本ずつ接種していてはスケジュール的に到底間に合わない。
同時接種により、発熱など副反応は相加的に増えるが、相乗的に増加することはない。
新型コロナとインフル両ワクチンの同時接種も、アメリカやイギリスでは1年以上前に解禁となっている。
その有効性・安全性についてのエビデンスも、今年1月までに出揃った。
ファイザーの新型コロナワクチン(2回目)とインフルワクチンの同時接種については、昨年11月に『The Lancet』誌に安全性と有効性に関する研究が発表された。
局所または全身の副反応の発生率は、単独接種と比べて上昇せず、安全性に問題はなかった。
新型コロナウイルスに対する抗体価(有効性)にも影響は見られなかった。
インフルエンザの一部の株に対してはむしろ、抗体価の上昇も見られた。
モデルナの新型コロナワクチン(3回目)とインフルワクチンの同時接種についても今年1月、同じく『The Lancet』誌に発表された研究で、安全性と有効性が確認された。
接種から3週間以内に報告された有害事象(副反応を含むすべての不快症状)は、同時接種で17.0%、コロナワクチン14.4%、インフルワクチン10.9%で、同時接種に突出した問題はなかった。
また、単独接種と比べて、どちらのウイルスに対する抗体価も低下は見られなかった。
バイデン氏「パンデミックは終わった」
こうして「同時接種には何ら問題がない」との研究結果が示されてから、厚生労働省は半年以上も新型コロナとインフル両ワクチンの“2週間ルール”を放置していた。
急に同時接種を認めた背景にあるとされる「同時流行」は、本当に起きるのか?
新型コロナについては9月18日、アメリカのジョー・バイデン大統領が「パンデミックは終わった」と発言して話題になった。
しかし実際、アメリカCDC(疾病予防センター)の発表では、同国では今なお1日に約6万人が新たに感染し、400人近くが亡くなっている。
もっと言えば、全世界では毎日40万人超の新規感染者が出ている。
世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム事務局長の言うように、新型コロナはようやく「終わりが視野に入ってきた」という段階にすぎない。
第8波は来る、ということだ。
過去2シーズンを振り返ると、冬(11月下旬以降)に流行の波がやってきた。日本でも水際開放は既定路線だから、おそらく第8波は年越しを待ってはくれないだろう。
一方、インフルエンザはこの2年間、人々にすっかり忘れられた存在だった。
本当に今季は復活するのか?
以前の記事(水際対策緩和で「夏にインフル流行」3つの理由)で、
インフル流行の前提となる懸念材料を3つ挙げた。
改めて記すと以下のとおりだ。
@ 水際対策の大幅緩和 ⇒ 海外から感染症が流入
A 南米やオーストラリアでインフルが早期流行
B 2期連続の流行消失によるインフル免疫の低下
今まさにこの状況がそろったと言える。
世界保健機関(WHO)によれば、南半球では流行が落ち着いてきた一方で、アフリカ、アジア、アメリカの一部地域で小さな流行が見られる。
例年並みなら11月頃から国内流行が始まって1〜2月に患者が最多となるが、今季はピークが早まる可能性も大いにある。
実際、今年6月には東京都立川市でインフルエンザによる学年閉鎖があり、ナビタスクリニック立川でも患者が出た。
8月のコロナ流行期にも、ナビタスクリニック新宿で何人ものインフルエンザA型の感染者を診断した。
ウイルスは十分に日本国内に入ってきている。
9月半ばからは再び全国各地で集団感染が報告されており、季節とともに気温が低下すれば、感染者は着々と増加するはずだ。
大なり小なり同時流行は免れそうにない。
順序を問わず、とにかく速やかに打つ
そんな中、オミクロン株(BA.1)対応のワクチン接種が9月20日に始まった。インフルワクチンは10月1日から接種可能となる。
「でも、あんまり早く打つと、年越しまで効果が持たないのでは?」と心配する人もいるかもしれない。
たしかに、現在主流のオミクロン株BA.5系統に対し、従来ワクチンの効果は想像以上に短くなっているようだ。
感染予防効果が高く続くのは約2カ月間、重症化予防効果でも約3〜4カ月間という最新の研究結果が出てきた。
オミクロン対応ワクチンで、それがどれだけ引き延ばせるのかはまだわからない。
ただ、最後の新型コロナワクチン接種から5カ月以上経過している人、そして過去2シーズン、インフルエンザの予防接種を受けていない人は、すでにほぼ丸腰だ。
ワクチンの効果は通常、接種後2週間以降に安定的に発揮される。どちらのワクチンでも11月に入ってからの接種だと、12月近くまで十分な効果が得られないことになる。
流行開始に間に合うかどうか、心もとない。
なお、オミクロン株BA.5系統に対応するワクチンもすでに承認申請中なので、順調なら11〜12月には日本に入ってくると期待される。
ただ、その供給量は定かでない。流行開始が迫る中、やはり不確かなものを待ちづけるのはリスキーだ。
そんなこんなを考えると、10月に入ったら、自分の打てるワクチンから可及的速やかに接種するのが賢明だ(インフルワクチンの数日後に新型コロナワクチンを打ってもいいし、その翌日でも、まだ順序が逆でもいい)。
10月以降の接種なら、同時接種できるクリニックを今から探しておく、という選択もある。
予防接種に二度も足を運ぶのは、現役世代には大きな負担だ。
都合がつかずにタイミングを逃すリスクも高まる。
同時接種なら労力は半分だ。
「集団接種」では同時接種できない 本当は、予防接種をもっと効率よく進められる方法がある。
集団接種だ。 ナビタスクリニックの医師も例年10月になると、企業によるインフルエンザの集団予防接種に協力してきた。会社の会議室などを接種会場とし、社員の方々は空き時間などに立ち寄って打っていくこともできる。
新型コロナ以降、企業では社員が一堂に会するのを控える向きが強いが、社内での流行を回避したいなら、やはり集団接種は合理的だ。
本来は新型コロナとインフルエンザのワクチンを社内で同時接種できれば、最も効率がいい。
ところがそうはいかないのが現状だ。
新型コロナとインフルで、流通経路がまったく異なるためである。
インフルエンザは、そのほかの一般医薬品と同じく卸流通なので、企業による集団接種を自由に組み立てられる。
対して新型コロナワクチンは、国が自治体(市区町村)に配布する仕組みを維持しており、実質的に流通に規制がかかった状態だ。
もちろん同時接種を集団で行うとなれば、運営上の課題も少なくない。
例えば、ワクチンの保管、接種後の経過観察の管理、接種記録の扱いなどだ。
しかし、今後もし新型コロナワクチンをインフルワクチンのように定期的に接種することになれば、現行の体制を続けることのほうが非現実的だ。
新型コロナワクチンを入手できるか、十分かどうかも定かでなかった当初はともかく、配布した新型コロナワクチンが余って次々に廃棄されるような現状もある。
新型コロナ治療薬はすでに一般流通が始まっている。
新型コロナワクチンも、そろそろ一般流通に乗せることを視野に入れていくべきだろう。
パンデミックは終わった?
最後に、改めてバイデン氏の「パンデミックは終わった」発言を、私は一医師として重く受け止めた。
先のとおり、アメリカでは今も1日当たりの新規感染者が約6万人、死者が400人近く出ている。
それでも「もはや誰もマスクをしていない」し、「人々はすこぶる健康に見える」。
対して日本は現状、1日当たり新規感染者数こそ6〜7万人だが、死者数は100〜200人未満に抑えられている。
それでも「適切なマスク着用」がコンセンサスだ。
アメリカの人口は日本の約2.6倍だから、日本も単純計算で1日当たり新規感染者が2万人程度になれば、岸田文雄首相は「終わった」と宣言するのだろうか?
要するに、「パンデミックか否か」は、最終的には科学や数字ではなく、人間が、社会が決めるもの、ということだ。
いくら国内外で流行が続いていても、政治的な見地からは「終わった」というのが、アメリカにおいて尊重されるべき判断ということだ。
基本的に科学を重んじる医師として、考えさせられる現実である。 「パンデミック」という“パワーワード”を、アメリカのように強制的に過去のものとして前を向くのか、その圧に飲み込まれて思考停止し続けるのか──。その大きな変化の流れの中で、医師としてどのように適応していくべきか。
私自身の答えは、診察室で、日々多くの患者さんに向き合うことでしか得られないと思っている。