「順位によって出世の仕方が変わる」自衛隊の環境がハラスメントを生む理由
2022年11月21日 SPA!
自衛隊の離職率は極めて高い。
研修終了後10年以内に50%程度が辞め、定年退職まで残るのは、同期のうち4割程度ともいわれている。
私たち国民を守ってくれるはずの組織が、なぜそんな状況になってしまうのだろうか。
◆「時代錯誤」な感覚がハラスメントを生む?幹部候補生の学校生活
自衛隊で役職に就くにあたり、避けては通れないのが「幹部候補生学校」に通うことだ。
部隊によって差はあるが、半年以上の入校が一般的。
短い期間のように思うが、元海上自衛隊の3等海佐だった30代の坂口さん(仮名・男性)は「もう二度と行きたくない」と当時を思い返す。
「朝6時にラッパが鳴って起床するんですけど、みんな5時20分ぐらいには起きて、ひげ剃り、洗面、布団を綺麗に畳んでおくなど身の回りのことをすべて済ませています」
起床後はダッシュで校庭に出て体操、乾布摩擦、腕立て伏せなどを行い、部屋に戻れば再び布団のチェックをする。
「ベッドメイキングは基礎中の基礎で、一切の乱れが許されません。
指導者にシーツや毛布をわざと剥がされることもあって、それを再び元に戻す。
すべて船上生活を想定しての訓練です」
◆「何が楽しくて生きているんだろう……」
その後は8時間の授業が待っており、「休憩」や「自由時間」という概念はない。
昼食と夕食の後に40分ほど時間があるが、この時間を使い「制服や作業服にアイロンをかける」「靴を磨く」「宿題をする」など決まった日課をこなす。
消灯時間の22時まであっという間だ。
「そもそもスマホも取り上げられていて、言葉は悪いですが囚人のような生活。
自分が望んだので当たり前ですが、『何が楽しくて生きているんだろう……』と自問自答することはしばしばありましたね」
「時代錯誤」とも言える幹部候補生学校の生活。
有無を言わせない規律、階級社会を自衛隊員としてのキャリアの序盤に味わうことで、のちのハラスメントにつながってしまうのではないか……そんなことを考えてしまう。
◆自衛隊の環境はなぜハラスメントを生むか
ここまで自衛隊というものが、いかに「一般社会とかけ離れた環境」にあるかを伝えてきた。
海上自衛隊に30年近く勤務した元幹部の沖田さん(仮名・男性)は「圧倒的な縦社会に置かれ、他との競争を強いられることが原因」と語る。
「幹部候補生学校でも、例えば200人いたとしたら、1から最後まできっちり順位づけされるんです。
それによって出世の仕方も変わってくるので、成績を上げるためにどんなことを考えるかと言ったら、『上司に良い顔をする』『人の足を引っ張る』といったよこしまなこと」
その圧倒的な縦社会こそが、さまざまなハラスメントを生む要因になっていることは容易に想像できる。
◆競争意識に拍車をかける「学歴による待遇の差」
また前出の坂口さんは、「学歴による待遇の差」も競争意識に拍車をかけていると加える。
「3佐から2佐、2佐から1佐に昇進するときの材料として、同期からその人に対する評価を短い文で書く『同期間評定』というものがあります。
このあたり、“防衛大卒業かそうでない人”で如実に変わってきて、前者であれば同窓生からの好意的な意見が一斉に集まるんです。
一般大学から入隊した人からすれば『卑怯だな』となりますよね。
そうしたやっかみを持った人は周囲にも結構いました」
陸・海・空で、24万7000人を抱える巨大組織、自衛隊。
それだけ人数がいれば、中で起こる多少の争いは仕方ないだろう。
だが、任務の本質は日本の国防。
機能不全に陥れば、国家として残された選択肢はほとんどなくなる。
失われつつある信頼を取り戻すため、今すぐ自浄作用を備えてほしい。
取材・文/東田俊介 ―
[[自衛隊のヤバすぎる]実態]―