2023年01月20日

いくら防衛費が増えても、誰も装備を使いこなせない…「戦わない軍隊」自衛隊の現実について考える

いくら防衛費が増えても、誰も装備を使いこなせない…「戦わない軍隊」自衛隊の現実について考える
2023.1.19  現代ビジネス

実行力のある戦いは?
バイデン米大統領は日米首脳会談で日本の防衛力強化を称賛し、岸田文雄首相を「素晴らしいリーダー、真の友人」と呼んだ。
内閣支持率が30%台に低迷するなど暗い話題が多かった岸田首相だが、「日米同盟新時代」を開けて満足だったろう。
少なくとも防衛政策は、国民から支持されているのは事実だ。

政府は昨年12月16日、国家安全保障戦略など「安保3文書」を閣議決定した。
来年度から5年間の防衛力整備経費を約43兆円と定め、敵基地をたたく「反撃能力」を保有することになったが、この防衛力強化の方針は、「支持する」が55%で「支持しない」の36%を上回った(昨年末の日経新聞とテレビ東京調査)。

ロシアのウクライナ侵攻は覇権主義国家による理不尽な侵攻が、今も起きうることを認識させた。
北朝鮮によるミサイル発射は、いつ日本に着弾してもおかしくない恐怖を与え続けている。
中国が台湾に侵攻する「台湾有事」はタイムスケジュールに入っており、台湾と指呼の間にある日本に緊張が走るのは避けられない。

日本はロシア、北朝鮮、中国の隣国である。
岸田首相が公約した「防衛費をGDP(国内総生産)比2%にする」という負担は重いが、軍備増強で生じるリスクを含め、国民には引き受ける覚悟に加え、それが本当に防衛力の強化として国益に適うかどうか、あるいは国民を守ってくれるどうかを見守ることが必要だ。

筆者は、本サイトで北朝鮮のミサイル飛来に合わせ、「望ましいミサイル防衛の在り方」について、識者の意見を紹介してきた。
政府が掲げる「防衛力強化策」は、そうした各種提言を生かすものになっているが、一方で、「予算」と「装備」を強化しても、それを使いこなして戦う能力と、実行力のある戦いを可能にする体制が整っていないという現実がある。
そこに踏み込みたい。

まだショッピングリストの段階
予算1兆円の地上配備型ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」の是非が問われた際、筆者は《噴出する反対論といくつもの問題点》(2019年8月15日配信)と題して、民主党政権下で防衛政務官、防衛副大臣を歴任、自民党に移ってからも防衛問題に一家言を持つ長島昭久代議士が推奨する「統合防空システム(IAMD)」を紹介した。
イージス・アショア利用の弾道ミサイル防衛(BMD)では、低高度飛翔の巡航ミサイルや極超音速滑空弾には対応できないため、米軍と情報を共有し、迎撃対象を広範囲にしたIAMDが将来の北朝鮮以外の脅威にも備えるシステムになる、ということだった。

「国家防衛戦略」では長島氏の言うようにBMDからIAMDに移行したうえで、相手国のミサイル拠点などをたたく「反撃能力」を明記した。
そのために敵の射程外から攻撃できるスタンド・オフ防衛能力を持つ米国巡航ミサイルの「トマホーク」や国産の「12式地対艦誘導能力向上型」を配備することになった。
また、ウクライナに侵攻したロシアが、超高音速ミサイル「キンジャ―ル」を初めて実戦で使用し、北朝鮮が新型大陸間弾道ミサイル「火星17号」の発射実験を行った際には、《プーチン、金正恩の脅威で岸田政権が迫られる「本気のミサイル防衛」》(22年3月31日配信)と題して、坂上芳洋元海将補にミサイル防衛の在り方を聞いた。

坂上氏は、イージス艦に配備された迎撃ミサイル「SM−3」と地上で迎え撃つ地対空誘導弾パトリオット「PAC−3」の2段構えでは、複数同時ミサイル攻撃や極超音速ミサイルには対応できないとして、長距離艦対空ミサイル「SM−6」の実戦配備など具体的な「統合対空ミサイル防衛」の数々を語った。

坂上氏は今回、「予算」と「装備」を増強して米軍との連携を強める「安保3文書」を評価しつつも、「まだショッピングリストの段階。制度や法律を整えて自衛隊の質を向上させてこそ意味がある」という。
確かに日本のこれまでの防衛力向上は、「ショッピングリスト」を満たすのに汲々としていた。
象徴するのが、自衛隊の運用能力と稼働率の低さ、弾薬やミサイルの備蓄不足である。

日経新聞コメンテーターの秋田浩之氏は、同紙「オピニオン欄」(23年1月5日)で、「部品不足で稼働率は5割強」「弾薬やミサイルは不足。迎撃ミサイルは必要量の約6割」「自衛隊施設の約8割は防御態勢が不十分」としたうえで、「23~27年度に約43兆円の防衛費を投じるとはいえ、約15兆円は負の問題を解決するために吸い取られてしまう」と指摘した。

弾を撃つにも上官の許可が
「反撃能力」を保有し、GDP比2%の予算で歴史的転換期を迎えた自衛隊は、戦略的にも装備的にも新たなスタートラインに立ったといっていい。
だが、そのためには制度やシステムを実戦向きに整える必要がある。
ここから先は自衛隊OBや防衛産業関係者などの「本音」である。

自衛隊は立派な装備を有し、海外では陸海空軍の扱いを受けているが、実態は『軍隊のように見える警察』に過ぎない。
通常、軍隊は国際法・交戦法規が禁じること以外は何でもできるネガティブ・リスト(否定されることが決まっている)型でなくてはならない。
しかし本質的に警察である自衛隊は、法令に即して行動するポジティブ・リスト(やれることが決まっている)型だ。
これではダイナミックに動く戦場で戦うことなどできない」(自衛隊OB)

確かに戦闘を起こすに際し、実施可能かどうかを法令で判断、弾を撃つのに上官の許可を必要とするようなポジティブ・リスト型では敵にやられてしまうだろう。
有事の際、戦闘を継続できるかどうかの「継戦能力」にも疑問符がつけられている。

「長年、専守防衛を金科玉条としてきたために、攻撃を防ぐことしかできない。つまり継戦能力を持っていない。
なのに幼児がかっこいい玩具を欲しがるように、ハイテク正面装備の調達にこだわってきた。
攻撃できない弱みを装備でカバーしようとした。
でも、戦えないので弾薬や兵站の準備をおろそかにした。
砲弾もミサイルも圧倒的に不足している」(別の自衛隊OB)

戦いを前提とした軍隊ではないということだ。
それが自衛隊の質を落とし、非戦と武器輸出三原則が防衛産業を弱体化させた。

「防衛庁(07年から防衛省)・自衛隊は、長く『違憲で無駄な存在』と見なされ、社会的に認知されなかったので優秀な人材が不足している。
しかも『戦えず、戦わない自衛隊』という矛盾が、事なかれ主義者の出世を許してきた。
しかも国家安全保障局(NSC)が設けられて重要な政策立案機能が内閣官房に集中するようになった結果、内局が空洞化している。
一方で特殊な『自衛隊仕様』にこだわって武器装備品を製作、武器輸出三原則(2014年から防衛装備移転3原則)に縛られている間に防衛産業は衰退していった」(防衛商社幹部)

こうした弱点は防衛省・自衛隊のせいではないものの、「中途半端」に据え置かれたことで、そんな存在となった。
一挙に増えた「予算」と「装備」は猛々しく頼もしいが、反撃・継戦能力を持つということは、「戦わない自衛隊」から「戦う軍隊」に変わったことを意味する。
日米の同盟強化、豪・英・仏・伊・独などの準同盟国との関係を進展させている岸田政権に必要なのは、国会で論議を尽くして自衛隊から「戦えない」要因を取り除き、法的・システム的な環境を整えることだろう。
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする