2023年03月18日

元公安捜査官も驚愕!強盗・特殊犯罪集団「巧妙な個人情報収集の手口」と対抗策

元公安捜査官も驚愕!強盗・特殊犯罪集団「巧妙な個人情報収集の手口」と対抗策
稲村 悠:日本カウンターインテリジェンス協会代表理事
2023.3.17 ダイヤモンドオンライン

強盗・特殊詐欺グループが 情報収集に注力する背景
 昨年から今年にかけて相次いだ、「ルフィ」らが関与したとみられる広域連続強盗事件は、東京狛江市での強盗殺人事件という凄惨(せいさん)な事件から急展開を見せ、フィリピンに滞在した被疑者らが相次いで検挙された。
 この犯罪グループは、末端の実行者を闇バイトで募集し、自らはフィリピンから末端の人物に指示するという何とも「効率的」な手法をとっていた。

 そもそも、この手法は特殊詐欺で確立されたものと思われ、特殊詐欺においても、掛け子、受け子などの実行者を闇バイトという形で募集し、自らは表に出ない形で指揮し、捜査の手が届きづらいプロセスを作り上げていた。
 しかし、こうした組織作りや犯罪の手法よりも驚かされるのは、彼らの情報収集能力の高さである。

 筆者は、現役時代に特殊詐欺グループのリーダー格の人物と接したことがあるが、彼は海外における資金運用方法や不動産投資などに関して、どうやれば“金”になるのかについていつも真剣に考え、常に関心高く勉強をしていた。
 話ぶりもいわゆる“ヤカラ”のような口調ではなく、非常にスマートで、ある意味、「特殊詐欺というビジネス」に真剣に向き合っているように見えた。
彼に言わせれば、起きている間はずっと“どうやれば特殊詐欺が成功するか”を考えているそうだ。
 このように、彼らが犯罪ビジネスに真剣に向き合う中で、いかに効率的に実行できるかと試行錯誤し、そのために注力することになった一つが“情報収集”だ。

 今回の広域強盗事件において、実行者は被害者宅に入った後に迷うことなく金庫に向かっていた。
その際、フィリピン刑務所内にいる指示者が、被害者宅の図面を見ながら携帯電話で「右に行け」などと実行者に指示していたとも言われている。
 では、どうやって被害者の情報を収集したのであろうか。
 そこには、ただの情報(Information)を、示唆を含む情報に昇華させたインテリジェンス(Intelligence)にする恐るべきノウハウが隠されていた。

犯罪集団が行っている 電話を使った情報収集方法
 犯罪集団の情報収集の一つとして、最も知られている手法が電話である。
 例えば高齢者宅への次のような電話だ。 「警視庁XX署の生活安全課のものですが、最近特殊詐欺がはやっています。ご自宅にお一人住まいの場合は気を付けてください」
 これに対し、高齢者が「大丈夫です。近くに息子夫婦が住んでいますので」などと答えようものなら、犯罪集団に独居であることが推察されてしまう。
 注意すべきは、こうした直接的な質問だけではない。スパイ活動においては間接的な質問で情報収集することが多いが、犯罪集団も似ている面がある。

 犯罪集団が行う情報収集には、例えば「広域アンケート」と称し、自動音声でガイダンスに従って番号を押すように促すような手法がある。
 高齢者宅に、自動音声で「電気料金に関するアンケート」の電話がかかり、「1カ月の電気代が5000円未満の方は“1”を、5000円以上の方は“2”を押してください」などと言われて、高齢者が“1“を押下してしまえば、即座に一人暮らしと把握されてしまうだろう(総務省「2021年度家計調査―単身世帯―」によれば、一人暮らしの電気代の平均は一カ月5482円)。

 こうした手法については、特殊詐欺が猛威を振るった1999年以降、「母さんオレだよ」のオレオレ詐欺からその手法を進化させていった。
 オレオレ詐欺の頃は、だますという「実行行為」は電話のみで行われていたが、現在は、実行行為の効率性を上げるために、まずターゲットの情報を引き出す手段として電話を活用する手法に変化してきている(この情報を引き出す行為自体も含んで実行行為とするという点は割愛する)。

 また、電話口での高齢者らの反応が犯罪集団にチェックされていることにも留意しなければならない。
犯罪集団が作る「闇名簿」には、高齢者らの口調や性格、警戒心の高さなども備考として記され、犯罪を行う上での貴重な情報となっている。

犯罪集団はどのようにして ターゲットを絞り込むのか
 広域連続強盗事件やこれまでの特殊詐欺において、活用されたのがこの闇名簿である。
 そもそも公に提供されている名簿があるのをご存じだろうか。
 インターネットで「名簿 業者」や「名簿 リスト」と検索してほしい。個人情報が含まれる名簿を取り扱う業者が散見されるだろう。
彼らが所有するデータは、同窓会名簿から一戸建て居住者や通販購入者(高級衣類、アクセサリー)、投資家名簿や富裕層名簿など、さまざまである。
 これは、大いに問題があると思わないだろうか。

 一部、「2022年4月の改正個人情報保護法により、05年以降に入手した個人情報が提供できなくなった」と掲載している業者もいるが、にもかかわらず、こうした名簿情報が販売・提供されている。
 名簿業者によれば、営業でのアプローチに使用することを想定しているのだそうだが、犯罪集団がフロントカンパニーを作り、新規営業先を得るためと偽って名簿を閲覧・購入するのは容易だろう。
 こうした手法で、例えば、通販で高級アクセサリーやその他の高額商品を購入した人物の名簿、不動産投資した人物の名簿などを入手し、それらの名簿に共通する人物を見つけ出すことで、資金にかなりの余裕がある人物が特定できる。
 そして、その人物に前述のように電話でアプローチして、独居か高齢者か、穏やかな性格かなどを確認し、現地を下見すれば、強盗の準備ができてしまう。

 また、前述の通り、今回の広域連続強盗事件では家の図面まで作成していた事実があるが、配送業者や引っ越し業者から情報を買ったり、家のリフォームや納品を装った手口で自宅内を見たりする手法もある。
 犯罪集団は、これらの手法を複合的に組み合わせ、収集した情報をしっかりと分析して犯罪を実行しているのだ。

 加えて一点、極めて重要な事実がある。
 闇名簿においては、前述の名簿業者では知り得ない公的機関によるものと思われる情報が含まれる点だ。
 例えば、口座情報や納税状況、さらに家族構成を把握できる戸籍などが自治体から流出することで、その闇名簿はより恐ろしい内容になる。
 恐らく、金銭の授受や“ゆすり”などを通じて、自治体の協力者から情報を収集しているのだろう。 
 このように、犯罪集団の手は広く深く社会に浸透しているのだ。

スパイ捜査における 2つの情報収集方法
 私が国内におけるスパイ捜査を行っていた視点で、2つの手法を紹介したい。  

一つ目は、情報収集手段の一つであるOSINT(Open source Intelligence)である。
 OSINTはウェブや公文書、各メディアなどの公開情報から得られる情報を分析し、示唆を導出する手法である。
 犯罪集団からの目線で言えば、先に挙げた名簿業者も立派な公開情報である。

 さらに、例えばGoogleMapのストリートビューでターゲットの自宅を下見すれば、自宅の車種や駐輪している自転車などから家族構成を推察できる。
その他、ターゲットが会社経営者であれば、法人登記や不動産登記を閲覧することで、資産状況のみならず、親族経営であれば親族の名前なども把握できる。
 これらの手法は、犯罪集団がある程度、電話や名簿等でめどをつけたターゲットに対し行われるだろう(もちろん、実地の下見も行われる)。
 ここですべて紹介してしまうと犯罪集団に悪用されるため、詳しくは割愛するが、OSINTのノウハウがあれば、特定の人物に関し、公開情報のみで相当深い情報が得られるだろう。
 また、先ほどの名簿に加え、ぜひインターネットで「電話帳 個人」と検索してほしい。
その中には、地番と氏名、電話番号が閲覧できるサイトがあるので、自身やご両親などの自宅が掲載されていないかぜひ確認してほしい。
 これも、OSINTにおける公開情報である。世界の9割の情報はOSINTで得られるといわれている。  

そして二つ目は、COLLINT(Collective Intelligence)である。
 これは、一部利害関係を共通とする組織同士で情報を共有する手法である。
 2017年シンガポールで暗殺された、北朝鮮の金正恩総書記の異母兄である金正男氏に関し、彼が2001年に日本に入国する際、事前に英国情報機関のMI6から公安調査庁に情報提供されており、彼が不法入国しようとしていた情報を事前に入国管理局に提供していた。
MI6が公安調査庁を非常に信頼していたからなし得た連携だった。
 なお、余談だが、この件では、警察側が金正男氏をしばらく国内で泳がせて、どのような人物と接触するか把握しようとしていた。
だが、入国管理局が金正男氏をすぐに拘束してしまったことから、警察側が激怒したという逸話もある。

 いずれにせよ、このように情報機関同士の情報共有においては互いの信頼性が問われるわけだが、犯罪集団同士の情報共有では、信頼関係よりも、いかに儲かるかという“利害関係”が前面に出てくる。
 その結果、速やかに情報は共有・売買され、一度出た(犯罪集団にとって有益な)情報は、瞬く間に犯罪の世界に広まる。前述のMI6と公安調査庁の連携のような高尚な話にはならないだろう。

ダークウェブで やりとりされる危険な情報
 これまで解説してきた犯罪集団が収集し、作り上げてきた情報が、闇サイトで売買されているのは、報道などを通じてご存じだろう。
 闇サイトには皆さんが想像するような一部掲示板などのアクセスしやすいサイトが多数存在する。
だが、一般にアクセスが難しいといわれるダークウェブでは、その内容を見たことのない方からすれば、非常に恐ろしい危険な情報がやりとりされている。
 例えば、筆者が目視できたものだけでも「日本人のパスポート情報(顔写真のページ見開き、氏名・生年月日等記載)」「日本企業の社員のメールアドレス」などに加え、日本政府が使用した膨大なメールアドレスも、現在使用されているものかは判別がつかなかったが、売買されていた。
その他、闇名簿と思しき情報のサンプルを見せ売買するような集団も存在した。

 これらの情報の収集や売買は、サイバー攻撃にも通じるものがある。
サイバー攻撃では企業の脆弱(ぜいじゃく)性につながる情報を収集し、売る集団がいる。
 それと同様に、特殊詐欺や強盗を行うために、情報をふんだんに含む闇名簿を作成し、売る集団が存在する。

ここではっきりと分かるのは、犯罪集団にとって、情報は非常に価値があるものということだ。
犯罪集団が通信手段として 使った「テレグラム」とは  さて、広域連続強盗事件で脚光を浴びた通信手段として、通信アプリ「テレグラム」(写真)がある。
 その情報通信の秘匿性もさることながら、恐ろしいのはコミュニティ(Group)機能である。

 テレグラムにおいては、近くにテレグラムを使用する人物が表示されるほか、Groupという形で不法行為を想像させるコミュニティが複数存在し、自由に参加し、Group内メンバーにコンタクトが取れる。
 このように、テレグラム開発元の意図にかかわらず、犯罪を助長してしまう機能が付いている。
犯罪は、こんなにも身近に存在するのだ。

自宅と電話対応で効果的な 犯罪集団への対策とは
 ここまで紹介してきた犯罪集団のさまざまな情報収集手段に対し、効果的な対処法は多くはない。
 まず、意識として犯罪集団の“高い”実力を知った上で、「自身の情報は出さない」「自身の情報は既に出ていると思っておく」ことが肝要だ。
 その上で、セキュリティ上の対応策をいくつかお伝えしたい。

<自宅におけるセキュリティー>
・防犯カメラの設置
・インターホンでの対応
・(窓ガラスを割れにくくする)防犯フィルムの貼り付け
・補助錠の設置
・在宅時の施錠
・置き配の使用
・現金を自宅保管しない
・強盗侵入時に110番する時間を稼ぐため、立てこもれる場所を用意(地下室やトイレなど)

<電話口におけるセキュリティー>
・電話口で自身の生活に関する情報を一切答えない、即座に切る
・公的機関であっても、電話は一度切り、掛け直す(その際、相手の所属部署を聞き、相手が言った番号に掛け直さず、ホームページなどで調べた番号に掛け直す)
・電話で何かを聞かれても、自身で判断せず、遠慮なく家族・警察に相談する

 広域連続強盗事件後の報道では、近隣の住民から「あのとき、こんな変なことがあった」と、不審な下見や訪問の様子をうかがわせる情報が出てきた。
強盗という極端で残忍な犯罪において、このような端緒がある場合も少なくない。
 どうか、犯罪集団の高い実力を知った上で、あなたの家族、そして地域が一体となってコミュニティ内で情報を共有し、高い防犯意識を醸成していただきたい。
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする