2023年04月03日

マスク生活「負の影響」じわり 子どもの「顔の認識能力」に変化が

マスク生活「負の影響」じわり 子どもの「顔の認識能力」に変化が
2023年04月02日 TBS NEWS DIG

いよいよ新学期。
感染対策のため必要だったマスクだが、学校でのマスク着用も基本的には不要になる。
そんな中、マスク生活が子どもに負の影響をもたらした可能性が指摘されている。

子どもたちにとってこの3年間は、“顔のない世界”になってしまっていたというのだ。
目元しか見たことがない同級生は問題か?

マスク外すと別人の可能性
コロナ禍、マスク生活が3年続いたことで、学校での対人関係のあり様は大きく変わった。
ある民間会社の調査(※1)によると、小、中、高校生で、目元しか見たことがない同級生がいると答えたのは、小学生で70%、中学生、高校生では90%近くに及ぶ。
これが具体的に、子どもたちの将来にどのような影響を与えるかは、推測の域をでない。

しかし、顔認知が専門の心理学者で、顔について科学的に研究を続ける中央大学の山口真美教授は、子どもたちの将来に大きな影響を与えかねないと指摘する。
「顔っていうのは、目・鼻・口が揃った全体のバランスでその人なんです。
例えば、親しい人を思い浮かべてください。お母さんの顔、ボーイフレンド、ガールフレンドの顔…、目だけ思い出してくださいと言われても難しいはずです。
私達は、目元だけで人を覚えられないし、口元だけでも覚えられない。
目や口が合体した全体の印象で人の顔を覚えるというのが、今までの顔研究のポイントでした。

しかし、マスク生活で、下半分そだけ隠されてしまうという、全体のバランスがない状態が続いたわけです。
それによって、いったいどういう記憶になるか、実際に顔をどれだけ区別できているのかは、未知の世界なんです」
目元だけでも、顔を覚えられると感じている人も多いかもしれない。しかし、人間が顔全体で特徴を把握し、部分的にでは顔を認識することが難しいことは様々な研究で示されている。

山口さんによると、人間の頭の中には平均的な顔の印象があり、“顔の物差し”になっているという。
目だけで覚えているつもりでも、実際はマスクで隠れた下部分を、平均的な顔で補って見ているという。
もちろん、実際には下半分にも個性があり、平均顔とは違うわけで、その人の素顔とはギャップができてしまうわけだ。

顔のインプットが足りない?
コロナ禍の3年間は“顔のない世界” イギリスで行われた研究(※2)によると、人間は平均で約5000人の顔を識別できるという。
しかし、今の子どもたちは、親しい人を除いたほとんどの人の顔をマスク姿で見続けてきた。
そのため、識別する能力自体はあっても、平均の数には達しない可能性があると、山口さんは危機感を示す。

ーー顔を識別するというのは、本来どういうものなんですか?

「人間は、生まれてから約30年間、たくさんの顔を見て、頭にインプットし続けます。
親しい人だけでなく、その背景にあるたくさんの顔を見ていることが必要なんです。
自分では気づいてないかもしれませんが、道ですれ違ってる人、歯医者さんの受付ですとか、いろんなところで、いろいろな人たちの顔がインプットされていて、それがいつの間にか顔の学習になっているわけなんです。

ところが、コロナ禍ではマスクで下半分が隠され、背景にあるべきたくさんの顔が“ない”状態が続きました。
小、中、高校生たちは、本来はクラスメイトにたくさん会って、ノーマスクで、それぞれの顔の違いを頭の中にインプットしていくことが重要です。
ところが、その経験がすっぽり3年間なくなっているわけです」

ーー顔のインプットが少ないと、何が困るのでしょうか?

「たくさんの顔を見て、インプットする中で、これは美しいとか、自分の好みだ、などを学習していくことになります。
例えば、日本で生活していると、外国人の顔を区別しにくいという感覚があると思います。
でも、海外で暮らしてみると、最初のうちはわからなくても、一緒に生活していくうちに、それぞれの区別ができていくようになっていくものです。
これが顔の学習の効果です。

つまり、背景にあるたくさんの顔を、頭の中にデータベースとして入れて、区別できるようになっていくのです。
そういう細かい差異への印象が、マスクばかりの世界だと作りづらいのです。

また、人間関係にも変化が起きるのではないかと思います。
私たち大人世代では、たくさんの人に囲まれて、クラスメイトがいて、その後の同窓会でばったり会って、楽しいねってなりますよね。
でも、今の学生たちは、友達、クラスメイトとの関係がマスク姿だけで、クラス全体の印象が覚えられないまま卒業になってしまいます。

背景にたくさんの顔があるということが、私達にとって必要な世界なのに、それがなかったわけです。
子どもたちは違う感覚の世界にいるかもしれないということを考えてあげる必要があると思います」

マスク依存の苦悩
 若者が忘れてしまった本来の顔の魅力
顔の学習は30歳くらいまで続くのだとすると、もちろんここから学習を再開し、顔のインプットを増やしていくことは可能だ。
しかし、マスク着用は個人の判断となったが、いまも多くの学生がマスク姿だ。

民間が行った、小学生から高校生300人への意識調査(※3)によると、子どもたちの約9割が「“脱マスク”に抵抗がある」と回答している。
その理由の上位には、「自分の顔に自信がない」「恥ずかしい」「友達にどう思われるか不安」など、感染対策とは別の、心理的な理由が並んでいる。
山口さんはマスク生活によって若者の感覚に変化がおき、顔の魅力が動的から静的なもの中心になってしまっていることにも懸念を示す。
「江戸時代の日本人だったら、周りの顔しか見なかったけれども、今の日本人は、インターネットなどでセレブの顔ばかり見ていて、どんどん基準が高くなって、自分に厳しくなっているんじゃないかとおもいます。
でも、顔の魅力っていうのは、実は写真でパチッて撮ったものではなくて、もっと動的で、どういう表情していて、どういう問いかけをして、どういう話し方をしたかという、動きを含めたトータルで魅力なんです。

本当だったら、表情を動かすことによって自分でいろいろ変えられるし、そこで自分なりの魅力っていうのを見つけられるのです。
しかし、それをマスクでストップさせ、忘れさせてしまったことが、若い人たちの辛さにつながっているようにも感じています。
コロナへの対応で、感染対策、つまり、今をどうするかということが続きました。

でもこれからは、もう少し長いスパンで、子どもの将来のために、マスクは必要なのかを考えていく段階ではないかと思っています」 (3月16日放送・配信『』より)

※1 ※3『現役の小・中・高校生「マスク需要」に関する意識調査』東京イセアクリニック 2023 年 2 月 17 日
※2 Jenkins R., Dowsett A. J. and Burton A. M. 2018『How many faces do people know?』 Proceedings of the Royal Society B
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | 健康・生活・医療 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする