2023年04月07日

「買わずにいられない」精神状態に導く催眠商法

「買わずにいられない」精神状態に導く催眠商法
あの手この手で高齢者の「心」を奪い去る
井艸 恵美 : 東洋経済 記者
2023/04/06  東洋経済オンライン

「オレオレ詐欺」をはじめとする特殊詐欺の被害に遭うのは、大半が高齢者だ。
なぜ高齢者が狙われるのか。
4月3日発売の『週刊東洋経済』の特集「狙われる高齢者 喰い尽くされる親のカネ」では、高齢者が詐欺や悪徳商法に狙われる社会的構造と、加害者たちの実像に迫った。
親の資産防衛マニュアルも収録。家族を被害から守るための完全保存版だ。

ある日、コンビニの空き店舗に「健康食品」と書かれたのぼり旗が立つ。
閉め切った会場にはパイプいすが並び、続々と集まる高齢者たち。
販売員の小話で盛り上がり、無料で洗剤やトイレットペーパー、おコメや卵など日用品や食品がもらえる。
暇潰し、お土産目当てに通っていたはずの来場者が高額商品を買わされる。

会場の雰囲気で高齢者の判断能力を鈍らせ、商品を売りつける「催眠商法」の手口だ。
国民生活センターが集計する相談者の支払金額は平均170万円に上り、「2カ月で500万円以上を契約した」という相談事例もある。
「普段は家族に冷たくされているお年寄りが、若い販売員に優しくされるとうれしいもの。
孫のように販売員をかわいがり、期待に応えようと商品を買う人もいる」

2カ月ごとに各地を転々
そう明かすのは、実際に催眠商法に携わっていた男性(50歳)だ。
男性は2002年に関西地方に本社を置く健康食品販売会社に入社。
6年間販売員を務めた。
2カ月ごとに各地を転々とする販売会場には、商品の魅力を伝えて会場を盛り上げる「講師」と、合いの手を入れて客と契約を取り付ける「アシスタント」の販売員がいた。

催眠商法の販売員をしていた男性と表彰状
20代後半に催眠商法の販売員をしていた男性(活動名はロバート・熊)。
成績優秀者として社内で何度も表彰された
現在は関西の食品スーパーで働いている
「帰りに無料で商品を配ると感謝してくれ、人当たりのいいおばあちゃんは、少し押せば財布を開く『見込み客』」だったという。
販売員の中には、高齢者から関心の高い健康の話題を振りまいたり、「母親をがんで亡くしている」と語って客の涙を誘う人もいた。

販売員には約26万円の基本給に加え、販売成績に応じた臨時ボーナスが支給される。
金払いのよい客を囲ったり、見込み客の取り合いをしたりと社員間の競争は激しかったという。
客側は、毎日話をするうちに情が湧き、特定の販売員を応援する気持ちが芽生える。
消費生活センターに寄せられた相談では高齢者が借金を負うなど、支払い困難になるまで追い詰める例もある。
だが、家族の心配をよそに、本人には被害に遭ったという自覚が乏しいケースが目立つ。
男性は「販売員はあの手この手で客の心をつかみ、最終的に『買わずにはいられない』という精神状態に持ち込む。
納得して買っているから、だまされたとは感じ切れない」と話す。

予防策は趣味を持つこと
催眠商法の予防策は、趣味を持つことだと男性は強調する。
「熱中できる対象がないから、販売会場が生きがいになってしまう」。
男性は催眠商法の被害撲滅を訴え、2018年に『あやしい催眠商法 だましの全手口』を出版。
手口を理解することが対策になると指摘する。
高齢者の心を操るその手法は、“詐欺”とも思わせないという意味で、被害を認知しやすい特殊詐欺以上に巧みだ。
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☔ | Comment(0) | TrackBack(0) | 健康・生活・医療 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする