圧倒的に多い「自宅転倒」おひとりさまの重大危険
高齢期の前に進めておきたい片づけのポイント
杉之原冨士子 : サマンサネット社長
2023/04/11 東洋経済オンライン
「おひとりさま」と聞くと、「独身の人」を思い浮かべる人が多いかもしれません。
しかし、離婚したり、配偶者が亡くなったりすることで、既婚者でもおひとりさまになる可能性は十分にあります。
「将来に備えて何かしなければ」と漠然とした不安を抱えることなく、「準備は整った、もう大丈夫」と、残りの人生を安心して過ごすためにはどうすればいいのでしょうか。
『おひとりさま最後の片づけ やるべきこと・やらなくてもいいこと』より一部抜粋・再構成のうえ、片づけに動くべきタイミングとポイントについてご紹介します。
体力が落ちる前の準備が大切
皆さんは「プレシニア」「アクティブシニア」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
この言葉は国土交通省の資料(「高齢期の健康で快適な暮らしのための住まいの改修ガイドライン(平成31〈2019〉年3月28日公表」)の中で用いられた言葉で、プレシニア(50〜64歳)、アクティブシニア(65〜74歳)と記載されています。
今50歳の方が「プレシニア」の枠に入るなんて! とショックを受けるかもしれません。
けれども、これからの片づけは高齢期に入る前に意識することと、準備することがとても重要なのです。
住まいは人が生きていくための基盤です。
幸せになるための条件です。
日々買い物に行き、食事をつくり、掃除をする。普通の日常生活を送ることのできる暮らしの中で、夢や希望は生まれてきます。
それは、住まいが快適な状態であるからこそできることなのです。
高齢期の住まいは安心・安全で快適な部屋であることがベースになります。
そうでないと、家の中でケガをして入院したり、ゴミ屋敷化して最終的に空き家になったりという最悪のケースにつながるのです。
だからこそ「プレシニア」の段階での快適な暮らしを意識した片づけが「シニア」世代の、豊かで自分らしい暮らしにつながるのです。
重要なのは、何も置かない殺風景な部屋にすることではありません。
シニア世代を見据えつつ、本当にやりたかったことが今こそできる、ポジティブな部屋にしていきましょう。
まずは「人生を楽しむための片づけ」のポイントをいくつかまとめてみました。
ポイント@ 片づけなくていい場所を把握する
突然ですが、おひとりさまになったときにあなたは「これからどんな部屋で、どのように過ごしたい」と思いますか?
自分好みの部屋を想像するとワクワクして、自然とニヤニヤしてしまいますよね。
もちろん、その部屋の中に、使っていないモノやあなたが好きではないモノは決して存在していないはずです。
あなたの部屋の中で、気になっている場所はありませんか?
誰にでも片づけたいモノや片づけたい場所があるものです。
思い浮かんだモノや場所があれば、まずはそこから片づけましょう。
きっとそれは、自分の理想の部屋にするために必要な作業なのだと思います。
もし、どこから片づければいいかわからない場合、最初に片づけるのは、いつも使っている場所です。
使っていない場所を、わざわざ片づける必要はありません。
また、天袋は数年間まったく使わなかったモノが入っていることが多いです。
つまり、これまで開けなくてもまったく不自由を感じなかったわけです。
このような場所は、片づけなくていい場所と言えます。せっかくモノが収まっているのに、天袋からわざわざすべて引っ張り
出して、整理し直す必要はないのです。
理想の部屋にするためには、すべての場所を整理する必要はありません。
おひとりさまの片づけは、重点的に片づけるべき場所や、わかりやすく整理するべきモノがあり、そこをおさえて片づければいいのです。
ポイントA 何よりも「安心・安全」が大切
おひとりさまの片づけのそもそもの目的は何でしょうか?
それは、シニア世代に向けて「ずっと元気で楽しく暮らせる部屋にすること」です。
そのためには、安心して暮らせる、安全な部屋にすることが大切です。
「安心・安全な部屋」と聞くと、「うちは危険な部屋なんかないから大丈夫!」と思われるかもしれません。
けれども、下の東京消防庁のデータを見てもらうとわかるように、実は、多くの高齢者が自宅内で転んで救急搬送されているのです。
「ころぶ(転倒)」「落ちる」「おぼれる」「やけど」など、日常生活の事故の理由を調べると、高齢者では「ころぶ(転倒)」が約8割を占め、発生場所は「居住場所」、つまり自宅内59.4%と6割近くに及んでいます。
私が「おひとりさまの片づけでは、何よりも安心・安全が大事です」と口を酸っぱくしてお話しする理由は、こうしたデータが根拠になっています。
高齢になると、体力や筋力の低下により敷居などのほんの小さな段差でもつまずいて転んでしまいます。
このほか、コタツのコードやコタツ布団、階段など、家の中には実は危険なものがいくつもあるのです。
しかも、高齢者の「ころぶ」事故で怖いのは、大腿骨骨折など大きなケガにつながりやすく、入院しなければならなくなることです。
2020年のデータでは、救急搬送された高齢者の38.3%と4割近くが、入院の必要がある「中等症以上」と診断されています。
歳をとるとケガの治りも遅くなります。
入院生活が長く続くと、心身の機能が一気に衰えるため、「ころぶ」事故がきっかけで車イス生活になったり、寝たきりになったりしかねません。
そうならないためにも、「安心・安全」を第一に部屋を点検することはとても重要です。
ポイントB 完璧を目指さない
おひとりさまの片づけを始めるにあたり、ぜひ知っておいて欲しいことがあります。
この時期の片づけは、若い頃の片づけとは大きく違うことです。
それは、すべての場所を整理して、完璧な片づけをする必要はなく、今、「使っている場所」と「使いたい場所」を優先して片づければいいのです。
すぐに始めなければと焦りがちですが、まずは優先順位を決めて、片づけることがポイントです。
おひとりさまの片づけに、新しい収納のノウハウなどは不要です。
これまで長い間こなしてきたあなた流のやり方でいいのです。
「きれい」かどうかではなく、「あなたが使いやすい」かどうかで整理すればいいのです。
モノと向き合うには、時間がかかり、途中で面倒になるかもしれません。
だからこそ大事なことは、すべての部屋を完璧に片づけることではなく、自分のために自分の好きな場所を片づけることだと知って欲しいのです。 面倒だと思う方はできる場所からでかまいません。この段階でいやになり、片づけを投げ出してしまうことのほうが問題です。
おひとりさまの片づけは、使っているモノをざっくり残すだけ、収納するだけと大雑把でかまいません。
使っていないモノは処分や移動をして物量を減らします。
たとえば、カトラリー(食卓用のナイフ・フォーク・スプーンなど)は種類やサイズなどをきっちり分けて収納しなくても、大まかに分けられていればOK。
衣類もあなたのたたみ方で引き出しに収納します。
それでは片づかない……と思うかもしれませんが、実は、使っているモノはそれほど多くはありません。
量をしっかり減らせば、収納術など気にしなくても、何がどこにあるかわかるように収納できます。
片づけをスムーズに進め、途中で投げ出さないためには、「完璧を目指さないこと」が大切です。
ポイントC 「いる」「いらない」をわかりやすく分ける
おひとりさまの片づけで意識して欲しいのは、次の3つです。
(1)転んでケガをしないよう、床に置いてあるモノを取り除く
(2)必要なモノがどこにあるかわかり、すぐに取り出せるようにする
(3)思い出の品を整理して、すぐに見られるようにする
(1)の「転んでケガをしないよう、床に置いてあるモノを取り除く」ですが、敷居、絨毯など段差でつまずく、玄関のマットで滑る、浴室で滑る、階段・脚立からの転落、布団やコードに足がからんで転倒するなど、実は、自宅の中には危険がたくさんあります。
それだけではありません。日常生活をする上で住まいの中を動く線をつないだものを生活動線と言いますが、特に頻繁に移動するリビングやキッチン、トイレなどの生活動線上にモノが置いてあると、転倒の可能性が高くなります。
おひとりさまの片づけは床面をできるだけ広くすることで、動線をスムーズにすることが重要です。
使用しているモノや大事なモノ、これら「いる」モノは動線上から移動させます。
(2)の「必要なモノがどこにあるかわかり、すぐに取り出せるようにする」ですが、ここで言う「いる」モノは主に2種類あります。
一つは、「日常生活に必要なモノ」で、キッチン用品や生活雑貨、衣類など、生活の中でよく使うモノです。
もう一つは「重要なモノ」で、通帳や印鑑、契約書類、保険証書、年金手帳、マイナンバーカードなどです。
こうしたモノを必要なときにすぐに取り出せるようにしておきます。
(3)の「思い出の品を整理して、すぐに見られるようにする」ですが、「思い出の品」とは、「自分にとって大切なモノ」のことです。
これまでの人生の中でさまざまな思い出のモノ、大切なモノがあるはずです。
ちなみに、私は息子が幼稚園に入園するときにパッチワークで作ったレッスンバッグを思い出のモノとして箱に入れています。
ボロボロだし息子はもういらないと言っていましたが、これは私にとっての大切な思い出のモノ、頑張って子育てをしていたときのことを思い出し幸せな気分になるモノなのです。
その箱を開ければいつでも見ることができます。
あなたは大事な写真をどのように整理していますか? アルバムに整理していますか? お菓子の箱などにそのまま保管している方も多いと思います。
スマートフォンに保存している人も多いでしょう。
大事な写真のはずですが、整理していないと取り出して見ることも少ないでしょう。
厳選してポケットアルバムに入れたり、写真をフォトフレームに入れて飾ったりして、お気に入りの写真を手元に置いていつでも見ることができるようにするのもいいでしょう。