2023年04月27日

「いい年をして」「年甲斐もなく」…高齢者を縛る“呪いの言葉”が世の中にあふれている現実

「いい年をして」「年甲斐もなく」…高齢者を縛る“呪いの言葉”が世の中にあふれている現実
和田 秀樹 2023-4-26 現代ビジネス

「年をとったら質素であるべき」「欲は持たずに淡々と生きるべき」……。
みなさんは、こうした根拠のない思い込みにとらわれていないだろうか?
 著書『70代から「いいこと」ばかり起きる人』(朝日新書)を上梓した、精神科医で老年医学の専門家でもある和田秀樹氏は、「年をとったら、やりたいことは我慢しないでやったほうがいい」と勧める。

その医学的根拠と、高齢者を縛る「エイジズム」について解説してもらった。

自由な人生をなぜみずから手放すのか?
なぜか世間には、「年をとったら質素であるべき」「欲は持たずに淡々と生きるべき」といった、根拠のない押しつけがあります。
それに反する行動をしようものなら、「いい年をして」「年甲斐もなく」と言われてしまいます。
さらに問題なのは、高齢者自身も、その押しつけを「そういうものか」と受け入れてしまっている点です。

好き勝手に、やりたいことをやればいいのに、みずから自由な人生を手放してしまっているのです。
私は患者さんに、よくこうお伝えしています。
「したいことは我慢せずに、どんどんやってオーケーです」
お酒だって、自分でコントロールできる範囲でしたら、ビールでも、日本酒でも、焼酎でも、気にせず飲んでもらってかまいません。
もし、医師の立場からおすすめするとしたら、赤ワインでしょうか。
赤ワインには抗酸化作用のあるポリフェノールが豊富にふくまれており、動脈硬化などの生活習慣病や、認知症の予防、アンチエイジングなどに効果があると言われています。

肝臓は昼間のほうが元気ですから、近所のイタリアンのお店でランチコースを楽しみながら、赤ワインをいただく、というのも楽しいかもしれません。

お酒もたばこも我慢しなくていい
言うまでもなく、朝から晩までお酒を飲みつづける「連続飲酒」状態におちいったり、酔って人に暴力をふるったりするのは論外です。
しかし、それは若い人だろうが、高齢者だろうが関係ないでしょう。

ようするに、「高齢者だからお酒を飲んではいけない」という道理はない、と言いたいのです。
たばこも同じです。最近ではすっかり悪者扱いですが、たばこに含まれるニコチンには、イライラ解消に役立つ作用があると言われています。
自殺のリスクを下げるという説もあります。
また、私が長年勤務した、高齢者医療を専門とする浴風会病院(東京都杉並区)に付属する高齢者施設のデータでは、「高齢者は、たばこを吸っても吸わなくても、生存曲線は変わらない」という結果が出ています。
決して「たばこに害はない」と言っているわけではありません。

よく知られているように、肺がんなどのリスクが高まるのは事実です。
ただ、たばこを吸って早死にする人は、高齢になる前に亡くなっているのです。
つまり、高齢になったら、いまさらたばこを吸おうがやめようが、寿命には関係ないということです。
「お父さん、もう年なんだから、たばこはやめたら?」 家族からそんなことを言われた経験のある、愛煙家の方もいるでしょう。
ところが実際には、たばこをやめたほうがいいのは高齢者ではなく、むしろ若い人のほうだったのです。

高齢者を縛る「エイジズム」という呪い
「いい年をして」 「年甲斐もなく」 こうした言葉に代表される、年齢による偏見・差別のことを「エイジズム」といいます。

アメリカ国立老化研究所の初代所長をつとめたロバート・バトラー氏が、1969年に提唱した概念です。
からかうつもりで「もう年なんだから」と言ったり、派手な服を着ている人に「年相応にしなさい」と言ったりすることはもちろん、高齢者はスマートフォンやパソコンが使えないと決めつけたり、運転免許の返還を迫ったり、年齢を理由に雇用契約を結ばなかったり、賃貸住宅への入居を拒否したりすることも、エイジズムに該当します。

エイジズムは、レイシズム(人種差別)、セクシズム(性差別)につづく、3番めの重大な差別であるとされています。
しかし、世の中を見ていると、レイシズムやセクシズムには敏感すぎるほど敏感なのに、なぜかエイジズムは許容されているように思えてなりません。
実際、米オクラホマ大学の調査によれば、対象者(50〜80歳の男女、2035人)のうち93.4%が、日常生活の中でたびたびエイジズムを経験していることが明らかになっています。
研究チームはこの結果を受けて、「エイジズムはもっともありふれた形の差別であり、またもっとも社会的に容認されている差別」かもしれないと指摘しています。

ポリティカルコレクトネス(人種・宗教・性別などの違いによる偏見・差別を含まない、中立的な表現や用語を用いること)が浸透し、もし差別的な発言をしようものなら一発で社会的地位を失うようなアメリカでさえこの結果なのです。
もし日本で同じような調査をしたら、目を覆うような結果になることは間違いありません。

やりたいことは我慢しないでやりなさい
エイジズムの根底には、高齢者に対するステレオタイプ(固定観念、思い込み)があります。
アメリカの心理学者、スーザン・フィスク氏は、若い人が高齢者に期待する行動として、典型的な3つのパターンがあるとしています。

(1) 継承 年配の人は、若い世代のために道を譲るべきだ。
(2) 消費 限られた資源を、年配の人ではなく若い人のために使うべきだ。
(3) アイデンティティ しゃべり方や服装など、若い人のアイデンティティを盗まないでほしい。年をとったら、相応にふるまうべきだ。

みなさんにも思い当たるふしはないでしょうか?
エイジズムのいちばん怖いところは、自分で自分を差別してしまうことです。
「もう自分は年だから、若い人のために会社を退こう」 「自分のような年寄りが、ぜいたくをするのは申し訳ない」 「着てみたい服があるけれど、年相応にふるまうことにしよう」 こんなふうにです。
心理学ではこれを「内面化」といい、外側にある価値観やルールを、自分のものとして受け入れてしまうことを指します。

エイジズムを内面化して、自分を制限してしまうと、行動範囲がどんどん狭くなり、身体も脳も衰えていきます。
自信や意欲を失うことで、最悪、うつ病などの精神疾患にもなりかねません。
そうならないためにも、人の目を気にすることなく、やりたいことは我慢しないでやったほうがいいのです。

みなさんは、本当はしたいのに我慢していることはありませんか? 
もしあるのなら、すぐに実行に移してください。
そんなのないよという人も、心の奥底を探ってみれば、自分でも忘れていた「したいこと」が出てくるかもしれません。
少しの間、考えてみてください。

「いい年をして」 「年甲斐もなく」 こうした言葉は、あなたを縛る「呪いの言葉」です。
死ぬ前に「あのときやっておけばよかった」と後悔しないためにも、したいことは我慢しないでください。
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☔ | Comment(0) | TrackBack(0) | 健康・生活・医療 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする