最大4割高も、「電力料金」大幅値上げの防衛術 大手7社が6月に一斉値上げで、家計に負担
岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト
2023/06/01 東洋経済オンライン
大手電力10社のうち、東京電力エナジーパートナー(東電EP)など7社は6月1日から家庭向けなどの電気料金(規制料金)を一斉に値上げする。
経済産業省による認可を踏まえたもので、値上げ幅は東電EPの約14%から北陸電力の約42%(30アンペア、1カ月の使用量400キロワット時の場合)に及ぶ(次ページグラフ参照)。
家計の負担は大きく、節電など防衛策が必要になる。
今回、各社が大幅値上げに踏み切った理由やその内容、家計の防衛策について、8つのQ&Aで解説する。
Q1 電気料金はいつから大幅に上がるのか?
Q2 値上げしない会社もあるようだが……
Q3 地域によって電気料金は異なるようだが……
Q4 今後の電気料金の見通しは?
Q5 家計はどのように防衛したらいいのか?
Q6 電力会社も節電を推奨しているが、その内容は?
Q7 補助金を活用して省エネを進める方法は?
Q8 電力会社切り替え時の注意点は?
Q1 電気料金はいつから大幅に上がるのか?
6月検針分から値上げとなる。
たとえば検針日が6月7日である場合、電気を使用した期間は5月8日〜6月7日。
この期間が料金の値上げ対象となる。
東電EPが”標準的な使用量の家庭におけるモデル料金”とする「30アンペア、1カ月の使用量260キロワット時」の場合、従来の1カ月6809円から新たに7690円へと881円の値上げとなる(値上げ率は12.9%)。
値上げ幅が大きい北陸電力の場合、「モデル料金」(30アンペア、月230キロワット時)は従来の6200円から新たに8748円へ。
値上げ幅は2548円(値上げ率は41.0%)ときわめて大きい。
北海道電力や沖縄電力の値上げ率は北陸電力と比べて小さいものの、電気料金の水準が高いこともあり、家計が被る影響は甚大だ。
関西電力など3社は据え置き
Q2 値上げしない会社もあるようだが……
関西電力、九州電力、中部電力ミライズの3社は、規制料金の値上げは実施しない。
3社のうち関西電力と九州電力は発電電力量に占める原子力発電の割合が高く、石炭や天然ガスなど火力発電用燃料のコスト上昇の影響を比較的受けにくいためだ。他方、中部電力ミライズは少し事情が異なる。
中部電力グループでは原子力発電所の再稼働がいまだに実現していないものの、昨年度から大企業向けなど料金認可が不要な自由料金で「値戻し」の交渉を進めてきたことが奏功。
年3月期に他社が軒並み赤字となる中で、関西電力とともに黒字を確保した。
中部電力ミライズは規制料金についても、燃料価格算定上の上限額が10電力のうちで高かったこともあり、燃料高の転嫁が他社と比べて容易だった。これらの事情もあり、規制料金の値上げを見送った。
Q3 地域によって電気料金は異なるようだが……
6月の値上げ実施後の10電力の電気料金の格差は今までになく大きく広がる。
経産省によれば、「30アンペア、1カ月の使用量400キロワット時」で比較した場合、最安の九州電力の8569円から、最高値の沖縄電力の1万4681円まで実に6000円強に料金格差が拡大する。
沖縄県や北海道など電気料金が高い地方では、「エネルギー貧困」と呼ばれる問題が深刻化しそうだ。
Q4 今後の電気料金の見通しは?
経産省によれば、値上げ申請前の2022年11月時点と比べた場合、値上げ後であっても電気料金の水準は全般的に低い水準にとどまる(北陸および沖縄地区を除く)。 というのも、今年になって天然ガスや石炭の価格が下落したことに加え、経産省が「激変緩和策」と称して1月の使用分(2月検針分)から1キロワット時当たり7円の値引きができるように電力各社にその原資を補助金として投入したためだ
。たとえば1カ月の使用量が400キロワット時の家庭の場合、激変緩和策による負担軽減額は2800円にもなる。
しかしこの激変緩和策は8月使用分(9月検針分)から半分に減り、翌9月使用分(10月検針分)にはゼロになる。
言い換えると10月以降、家庭の電気料金は大きく跳ね上がる。
冬場になると電気の使用量は大きく膨らむため、1カ月の電気料金はさらに増大する可能性が高い。
ウクライナ情勢が深刻化して天然ガスなどの燃料価格が高騰した場合、電気料金は跳ね上がるおそれもある。
節約できる事例がたくさんある
Q5 家計はどのように防衛したらいいのか?
手っ取り早い方策は節電だ。経産省・資源エネルギー庁のホームページ「省エネポータルサイト」には、家庭向けと事業者向けに分けて対策が詳しく述べられている。
たとえば家庭向けの場合、エアコン、冷蔵庫など家電製品別の消費電力の割合や、エアコンの冷房設定温度を1度上げた場合に電気代をいくら節約できるかといった事例がたくさん記載されている。
エアコン、冷蔵庫、照明器具など使用量の多い家電製品から順に対策を立てていくのが有効とされていて、製品ごとの特徴や製品選び、省エネの仕方などが詳しく書かれている。
また、家電製品を買い換えた場合の省エネ効果の試算も興味深い。
電球型LEDランプは一般電球と比べて約86%もの省エネになるという。
Q6 電力会社も節電を推奨しているが、その内容は?
昨年あたりから大手電力各社はデマンドレスポンス(DR)という節電の取り組みを家庭や企業に促すようになっている。
たとえば東電EPでは「節電チャレンジ」という名称で昨年度に続いて今年7月から、節電量に応じてポイントを付与する節電プログラムを始める。節電が進むことで家計の負担が少なくなる一方、電力会社も卸電力市場から割高な電力を購入する必要がなくなる。
節電はWIN-WINの関係を意味する。
Q7 補助金を活用して省エネを進める方法は?
窓断熱の設置など住宅改修のために、さまざまな補助金が用意されている。
代表的な例として、経産省と環境省の「先進的窓リノベ事業」(1戸当たり200万円を上限に補助)、国土交通省の「こどもエコすまい支援事業」(リフォームの場合、1戸当たり30万円を上限に補助)などがある。
東京都などの地方自治体も独自の支援策を設けており、国の補助金との併用も可能だ。
東電EPはLIXILと提携して窓断熱リフォームを家庭向けに紹介している。
電力会社切り替え時の注意点は?
Q8 電力会社切り替え時の注意点は?
大手電力会社は規制料金とは別に、経産省の認可が不要な自由料金メニューを用意している。
今回、規制料金の値上げに踏み切った電力会社は、規制料金と同水準または若干割安に設定しているケースが多い。
その一方でポイント還元や水回りなどの付帯サービスなどを割安な価格で提供することで、お得感を打ち出している。
大手電力各社の規制料金の値上げを踏まえ、今後は新電力各社も大手電力の規制料金メニューと比べて割安なメニューを新たに打ち出すとみられる。
そのタイミングを見計らって電力会社を切り替えるのも、電気料金を節約するうえでの有力な選択肢になる。
「エネチェンジ」などの料金比較サイトを使って調べてみるのもよい。
ここで気を付けなければならないのは、電気料金メニューにはさまざまな種類があるということだ。
時間帯別に料金水準が異なるメニューや、市場価格連動型のメニュー、再生可能エネルギー電力100%といったメニューもある。
市場価格連動型メニューでは、卸電力市場価格が低い場合には割安感があるが、高騰した場合に料金水準が大きく跳ね上がる可能性がある。
内容を注意深く調べたうえで、生活スタイルに合った契約を結ぶ必要がある。