挨拶で「顔と名前が覚えられない」防ぐ簡単解消法
記憶プロ直伝「興味ない事」ずっと忘れないコツ
池田 義博 : 記憶力日本選手権大会最多優勝者
2023年06月11日 東洋経済オンライン
耳馴染みのない専門用語、難解な公式、膨大な英単語、数分間のスピーチ原稿やプレゼンの台本、複雑な歌詞やセリフ、何人もの顔と名前……。
大量に覚えなければいけない課題やテキストを前に圧倒され、絶望した経験が皆様にもあるかもしれません。
そんな方にオススメしたいのが「A4・1枚記憶法」。
A4・1枚の「魔法のシート」に書くだけで、覚えにくいものも大量に記憶できる画期的なメソッドです。
考案したのは、記憶力日本一を6度獲り、日本人初の「世界記憶力グランドマスター」の称号を得た池田義博氏。
池田氏は、40代半ば「ド素人」の状態からたった1年で記憶力日本一になりました。
その体験から生まれた「超効率的なシート学習法」をまとめたのが新刊『まるごと覚えて 頭も良くなる A4・1枚記憶法』で、同書は発売後たちまち重版がかかるなど、大きな話題を呼んでいます。
以下では、その池田氏が「瞬時に覚えて忘れない名前の記憶法」について解説します。
プロも難しい「顔と名前」の覚え方
初対面の人の名前を、顔と一致させて覚えることは難しいものです。
特に商談など対面の予定が立て込み、多くの人の名前を記憶する必要があるとき。頭が混乱してしまうのも無理はありません。
とはいえ、もらった名刺に何度も目をやりながら、自信なく相手に呼びかけるという事態は避けたいところです。
反対に、相手の名前を一瞬で覚え、会話の中でスムーズに呼びかけられた場合、周囲からの印象がアップするのは間違いありません。
では、いったいどうすればよいのでしょうか。
最初に認識してほしい点があります。
それは、「顔」という画像情報と「名前」という文字情報を同時に覚える作業は、かなり高度な営みだという事実です。
そもそも「名前」という単なる文字情報を、確実に長く覚える作業自体が難しいこと。
なぜなら「名前」を見聞きするだけでは、喜怒哀楽の感情は湧かないからです。
脳は、感情が動いたときにしっかり記憶できるという性質を持っています。
このような難しさがあることから、私が参加している記憶競技(メモリースポーツ)にも、顔と名前を記憶する種目が存在します。
問題用紙に何十人もの顔写真と名前が印刷されており、それを制限時間内に記憶するという競技です。
また世界中から選手が集まる大会ですから、「名前」といってもグローバルなものです。
たとえば「バシングスン・ウエイト」「ダヴィダシュベリ・オムディヤラ」など。
その複雑さから、もはや「名前」という認識ではなく、「長い固有名詞を覚える」という感覚で記憶に臨んでいました。
勝手な「こじつけ」で自分を楽しませる
「自分にはとても記憶できない」、そう感じる方もいるかもしれません。
ですが、人の心理を利用すると誰でも簡単に覚えることができます。
例を挙げてみると、「バシングスン・ウェイト」という名前を覚えたい場合。
名前自体に意味はないので、次のような物語を自力で一瞬で作ります。
「この人はボクサーで、大会直前なのに減量がうまくいっていない。それをトレーナーに叱られて、体重計の上でうなだれている」
そしてビジュアルで「バシンとやられ、ウェイト計に乗り、グスンと泣いている男性」をイメージするのです。
このように自分でストーリー(物語)を作り、ビジュアルで思い浮かべ、「叱られてかわいそうだな」などと感情を動かすと、脳が記憶を定着させてくれます。
詳しく言うと、脳の中で感情に反応する扁桃体という部位が反応し、それに伴って隣の海馬が強く反応し、正確に長く覚えられるというわけです。
ではいったいどのように、ストーリーやイメージを作ればよいのでしょうか。
ここでは3つの方法をお伝えします。
実は日本人の名前は覚えやすい?
@名前の漢字からイメージを作る
日本語は表意文字である漢字を使います。
その漢字の意味から、イメージをつくればよいのです。
たとえば「水上」さんだったら、「水上スキーが趣味の人」というようなイメージをつくり、「楽しそう」という感覚と一緒に頭に入れます。
それはまったくの妄想で構いません。
また突拍子のないイメージでも差し支えありません。
むしろ荒唐無稽なイメージのほうが、脳に強烈なインパクトを与えるため、記憶が定着しやすくなります。
このとき、「水上」という文字情報を一緒に記憶しようとしないことです。脳が覚えにくい文字情報をいくら覚えようとしても、負荷をかけるだけで難しいものだからです。
イメージさえいったん頭に入れれば「水上スキー」というイメージの記憶がフックとなり、「水上」という名前も自然と思い出せます。
A名前の読みからイメージを作る
漢字からイメージをつくりにくい場合、名前の読みからイメージを作りましょう。
たとえば「八木さん」だったら、「ヤギを飼っている人」。
「山森さん」なら「いつもごはんが山盛りの人」。
「加賀美」さんだったら「かがみ」という読みから「毎朝、鏡をうっとりと眺めてメークをしている人」というイメージを頭に思い浮かべます。
その際に、漢字を一緒に覚える必要はありません。
対面で話す際に「かがみさん」という名前を思い出すことができれば、それでひとまずよしとしましょう。
ほかに、地名が名前になっている場合も覚えやすいものです。
その土地の特産品などと関連付けてイメージをします。
「千葉さん」なら、その人がピーナッツを食べているところ。
「宮崎さん」なら、その人がチキン南蛮を食べているところ。
もちろん「自分が知っているその土地のイメージ」で十分です。
なぜなら脳は「自分自身に関係があること」が大好きだから。
「自己関連付け効果」という心理効果が発動して、記憶が強化されます。
B知人や有名人を使ってイメージを作る
もしくは、覚えたい「名前」から連想する知人や有名人のイメージを利用して、覚えるという手もあります。
ここでも自由な発想を大事にしてください。
たとえば「坂本さん」なら「彼は坂本龍馬の子孫で、プライベートでは『○○ぜよ』という語尾を使っている」。
「松下さん」なら「彼女は実は松下幸之助の家系で、豪邸にお住まいのご令嬢である」。
これらは強烈なイメージですから、そう簡単に忘れることはないはずです。
今回は、名前をイメージ化する3つの方法をご紹介しました。
しかし、大前提として対象に興味があれば、どんなに複雑なことでも、大量に容易に覚えることができるものです。
たとえば、動物や昆虫の名前、「ポケモン」の架空のモンスターなどを、膨大に記憶している人がいます。
また、アイドルグループのファンの人たちも同様です。
統一された衣装のメンバーたちを一瞬で識別し、名前を正確に言い当てることができます。
ファンにとって、それは当たり前のことでしょう。
ですが記憶のプロから言わせてもらうと、それは「好き」だからこそ発揮される卓越した能力です。
「テクニック」より結局「好き」が勝つ
以前、私はとある番組の企画で、AKB48の研究生メンバー(約50人)の資料だけを見て、顔と名前を覚えたことがあります。
資料にある顔写真は初めて見るメンバーばかり。雰囲気が似ていて、顔の向きまで全員ほぼ同じ。
つまり私は、顔の特徴のわずかな差異や、髪型の細かい違いを見つけ、その印象をフックとしてあらゆる記憶法を駆使し、覚えねばなりませんでした。
その企画では、すべて正解をすることができましたが、プロでも焦ったことは事実です。
一方、ファンの人にとって、好きなグループメンバー50人の顔と名前を覚えることは、簡単なことだと思います。
「好き」の力は素晴らしいと痛感しました。
もっとも、この記憶の例は極端な話でしょう。
しかしビジネス上、大事な場に臨む前に「名前をきちんと覚えて、その名前を呼びかける」などと気合いを入れることができれば理想的です。
最初はゲーム感覚で、楽しみながら取り組んでみてください。